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第13話 夏凛の弱点

 正門から学園に戻った史季と夏凛は、


「久しぶりに見たけど、相変わらずどこからツッコめばいいのかわかんねーな、これ」

「……うん」


 校舎の正面玄関前に建てられた、聖ルキマンツ学園創設者――ホワード・ルキマンツの銅像が七色に輝く様を眺めながら、二人揃って顔を引きつらせる。

 その(まばゆ)さたるや、この学園が不良校であることも忘れて近所迷惑になっていないだろうかと、つい心配してしまうほどだった。


 完全下校時間を過ぎると体育館の玄関は問答無用で鍵を閉められてしまうため、出てきた時と同じように校舎から体育館に向かうことにしたわけだが、


「小日向さんッ!?」


 下足場を抜けた途端に、夏凛が腕にしがみついてきて、史季は思わず素っ頓狂な声を上げた。


「サ、サービスだよサービス。こうも薄暗いと、し、史季がビビってんじゃねーかと思ってな……」


 口に咥えていたパインシガレットと声音を微妙に震えさせながら、夏凛がそんなことを(のたま)う。


 教職員がもうほとんど帰っているからか、廊下を照らす明かりの数は(まば)らで、夜闇も手伝って廊下は不気味なまでに薄暗かった。

 とはいえ、史季は幽霊や怪談の類を恐いと思ったことはほとんどなく、校舎に居残っている不良とうっかり出くわす方が余程恐いくらいなので、


「ぼ、僕は全然恐くないから、離れてていいよ小日向さん!!」


 悲鳴じみた声で懇願した。

 なぜなら腕にしがみつかれたことで、春乃経由で知った夏凛が着痩せするタイプで意外とオッパイが大きいという冬華からの情報が、本当に正しかったことを現在進行形で理解できてしまったから。


 健全な男子高校生なら喜ぶべき場面だし、実際心の中では史季も大概に喜んではいるものの、どうしても気恥ずかしさの方が勝ってしまい、離れてほしいと懇願する有り様になっていた。


「む、無理すんなって! 本当は恐いって思ってんだろ!? そ、それにこうやって女子に抱きつかれんの、史季だって好きなんだろ!? そうなんだろ!?」


 最後の問いに対してはなまじ「YES」な分、明言しづらいことはさておき。

 なぜか必死に食らいついてくる夏凛を前に、史季はふと一つの可能性に思い至る。


「小日向さん……もしかして、幽霊とか苦手なの?」


 ギクリと、夏凛は動きを止める。


「べべべ別にそんなことねーし……ゆゆゆ幽霊とか何とも思ってねーし……」


 目も言葉も、面白いくらいに泳いでいた。

 夏凛の反応が(にわか)には信じられなかった史季は、


「あっ、あそこにいるの幽霊っぽくない?」


 子供だましにも程があると思いながらも、棒読み気味に言ってみると、


「~~~~~~っ!?」


 声にならない悲鳴を上げながら夏凛が抱きついてきて、疑惑を確かめるどころではなくなった史季は頬を紅潮させながら石像のように硬直した。


 先程まで腕にしがみついていた状態から、さらに一気に抱きついてきたことによって、何がとは言わないが、ちょうど谷間に腕が包まれてしまい、余計に微動だにともできなくなってしまう。


「こ、小日向さん……ゆ、幽霊は……嘘だから……」


 (たま)らず白状した瞬間、夏凛がガバッと顔を上げる。


 恥ずかしいところを見られたと思っているのか、それとも怒っているのか、紅潮させた頬を膨らませ、涙目でこちらを見上げてくる彼女の姿は、聖ルキマンツ学園の(トップ)を張っているとは思えないほどにかわいらしかった。


「ご……ごめん……」


 史季はますます頬を赤くしながら謝るも、夏凛は許さないと言わんばかりに、こちらの頬をむんずと摘まみ、思いっきり引っ張る。


「いだだだだだだッ!! ごめ、ごめんッ!! 本っ当にごめんッ!!」


 そんな史季の悲鳴を無視して、たっぷりと三〇秒ほど引っ張ったところで、夏凛はようやく手を離してくれた。

 そして、こちらから顔を逸らし、


「ゆ、幽霊とか……()てねーから苦手なんだよ……」


 本気で言っているのか判断しづらい言い訳を、耳まで真っ赤にしながら零した。再び、ひっしと史季の腕にしがみついて。

 少しずつ着実に早くなっていく心臓の鼓動が夏凛に聞こえてしまいそうな気がした史季は、その音を誤魔化すように、口に出す気はなかった率直な感想を述べる。


「しょ、正直意外……かな。小日向さんって恐いものなんてないと思ってたから」

「こ、こわいんじゃなくて苦手なだけだっ。そこんとこ間違えんじゃねーぞ」


 そんな言い訳すらもかわいらしくて、ますます鼓動が早くなっていく。

 ほんの半月前まで、あれだけ〝女帝〟のことを恐れていたのが嘘のように。


「と、とにかく! さっさとスマホ取りに行くぞ!」


 夜の校舎から一秒でも早く出たいと思っているのか、夏凛が急かし始める。

 腕にしがみつきっぱなしなのは、嬉しいやら勘弁してほしいやらと思うけど。

 夏凛には川藤のことでお世話になりっぱなしになっているせいか、こうして頼りにされることは、恐がる彼女には悪いと思いながらもとても嬉しかった。


 そうそうないとは思うけど、また自分の力が必要になった場合は、喜んで力を貸そうと史季は思う。

 その機会は、存外すぐにやってくるとも知らずに。

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