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Fritillaria  作者: 彩雅
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ガルシア国とロユリク

現在はっきりしていることは、ガルシア国の国王と王妃はロユリクをそのものを造り上げた【クイーン】と呼ばれている存在によって首を跳ねられ、殺されてしまったという事。

ガルシア国は周辺国の認識では、もはや滅んだ国であるという事。

現在のガルシア国はどこもかしこもロユリクで溢れ返っており、国の中央に位置しているガルシア城がクイーンの住みかである事。

周辺国はロユリクに対し攻撃ではなく国を守ることで手一杯であり、救援を頼むのは不可能だという事。この4つが今の現状である。

しかし戦わずに守るだけでは、いつか必ず崩れてしまう時が来る―かつてのガルシア国のように。私達はガルシア国の討伐隊の生き残りとして、最後までクイーンと戦い抜くと決め、自らの意思で集まった部隊だった。

部隊の中で、決められている事がいくつかある。もしも【ロユリクになっていない】ガルシア国民の生き残りを発見した場合、即座に保護し安全な周辺国まで避難させること。討伐隊の生き残りがいた場合、本人に戦う意思があれば隊に加わってもらうこと。そして、ロユリクを倒すこと。最終目標はガルシア城を占拠している、クイーンを倒すことだ。

現在討伐隊は、ガルシア国の中央からは少し離れた東の森の中にいる。中央に行けば城下町が広がっているが、そこはもはやロユリクの住みかだ。


国民の生き残りを周辺国が受け入れてくれるのは、周辺国ができないことを私達の部隊がやっているから。そしてロユリクに感染しているかどうかはとても分かりやすいからだ。

ロユリクになるは、直接薬を体に打たれるか、ロユリクが死ぬ直前に頭から吹き出す体液を一定量以上傷口や粘膜に直に浴びてしまうと感染してしまう。少量ならば問題が無いことはわかっているが、問題は一定量の詳しいことが未だに分かっていないことだ。

そして免疫がない人物の場合、一定量を越えると即座に発症してロユリクになってしまう。

だから生き残りがいて、人間であった場合はもうその人がロユリクになる可能性はない。たとえその人が体液を浴びていたとしても、それ以上はロユリクに合わないと発症のしようがないのだから、比較的周辺国も受け入れやすいのだろう。

ざぁ、と強い風が吹く。一度思考を中断し、私は辺りに敵の影が無いことを確認した上で暗闇に染まった空を見上げた。

ここから先はあやふやな事柄になるのだが、国王の息子や娘である皇太子や2人の姫は、未だに生死すらも分かっていない。まだ生きているのか、それともクイーンの手によってロユリクにされてしまっているのか。

第一王女であるペルラ様は、真珠のような銀髪に、国王譲りの柔らかなエメラルドの瞳を持っている聡明な方だ。その妹である、第2王女のルル様はペルラ様と同じ真珠のような銀髪に、透き通るようなアクアマリンの瞳を持っている。2人とも非常に美しく、ガルシアの宝花であり真珠だと歌われていたが―――。

(お二人は今、どうされているのだろう)

国王と王妃が殺されてしまった時に側にいたのか、それとも誰かが逃がしたのか――ガルシア城がロユリクのクイーンによって占領されてしまった今、まったく行方が掴めていない。

第一王子であるディアス様はかなりの剣豪だった方だ。もしもクイーンの手によってロユリクにされてしまっていたら――。そんな事を考えて、思わず背筋が凍りそうになってしまう。

なぜかというと、ロユリクの強さは、【寄生された元の人間の強さ】をそのまま受け継ぐ特性があるからだ。

思わず副隊長のことを思いだし、ぎゅっと目を瞑る。そして、それと同時にクロードの事を思い出した。


―――俺がロユリクになったら、躊躇わずに切れ。


私が副隊長になったその日に、そんなことを言った彼を。

彼はこの隊の中で間違いなく一番の剣豪だ。そんな彼がロユリクになったら――間違いなく私たちは全滅すると断言できる。そのくらい、彼の強さは隊の中でも群を抜いていた。だからこそ私にそんなことをいったのだろう。


「副隊長、交代の時間だぞー。」


「…あれ、もうそんな時間?」

ふと顔を上げると、隊員の一人であるジークが立っていた。手にはまだ湯気が上がっているマグカップが2つある。

ジークは私に片方のマグカップを差し出すと、開いていたスペースに腰かけた。

「…美味しい。相変わらずジークはココアを作るのが上手ね」

「そりゃ良かった」

ほっこりとした甘さに思わず唇が緩むと、やっと笑ったとジークが

悪戯が成功した子供のように笑った。

「…私ってばそんなにしかめっ面してた?」

「えぇ、そりゃもう。こーーーんなに眉間にシワ寄せて。」

「そ、そんなに寄せてないわよ!」

「いや、寄ってましたね。副隊長ってば、またなにか小難しいこと考えてたんでしょ」

「小難しいことなんて…ロユリクのことを考えていただけよ」

「だからなんでそんなこと考えてるんですか!それが小難しいことなんですよ、まったく。とにかくクイーンを倒す!俺らにできることはそれだけ…」

ジークがそう言いきるが早いか、私は自分の腰に差してある剣に手を伸ばした。が、それよりも早く私の横を鈍い輝きが通り抜けていく。


―――ドスリ。


私の抜刀した剣が届くよりも早く、酷く鈍い音を立てて真っ黒な花―ジークの背後にいたロユリクの頭部にナイフが突き刺さった。ブシャリ、と黒い液体を撒き散らしながらロユリクの体が崩れ落ちる。

「ジーク、無駄口を叩いている暇があるなら見張りとしての役割を果たしてくれないか?」

「……ク、クロード…すまん」

「交換時は一番気が弛みやすい。気を付けろ」

「…悪かった。助かったよ、ありがとう」

「ごめんなさい、ジーク。私がもっと早く気がついていたら…」

「いやいや、副隊長は悪くないですって!俺がぼけーっとしてたのが悪いんで!つーか気ぃ引き締めますんで、副隊長も休んでください!」

そう言いながら、ジークは私の背をぐいぐいとテントの方へ押す。

あ、ついでにクロードも!と取って付けたようにジークの声が重なった。

「俺はついでか?」

「助けてもらったのはありがたいけども、俺の方が先輩だからな!後輩は休むといい!」

先ほどまでの謙虚な姿勢はどこへやら、ふふん!と鼻を高くしながら(そして少しふんぞり返りながら)言うジーク。

「…ジークが言うと酷く不安だ…」

「んだと!?」

わいわいと賑やかに騒ぐ声を背に、崩れ落ちたままのロユリクが視界の端に映る。体は酷く痩せ細りガリガリだったが、左手の薬指には銀色の指輪が光っていた。体格的に、おそらく女性だろう。

(明日、埋葬しよう)

彼女にもきっと、幸せだった時があるはずだった。もしかしたら、子供だっていたかもしれない。それを、奪われて、踏みにじられてしまった。

(…クイーン…)

艶を失った灰色の髪。痩せた身体に血走ったような、赤い目。

誰かの幸せを壊して。他の人から何もかも奪って。これ以上あなたは何を望むの。

誰にも届かぬ彼女の問いは、夜の帳に溶けていった。

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