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Fritillaria  作者: 彩雅
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プロローグ

初投稿です。

拙い文章ですが、少しでも興味を持っていただけたら幸いです。誤字脱字等ありましたら、報告いただけるとありがたいです。

―――必ず帰ってくるから。



あぁ、私はまた夢を見ている。それはいつもいつも同じ夢だ。もう何回、いや、何千回見ただろう。

夢だと分かっているのに、わかりきっているのに。

何度この瞬間に戻れたら、と思ったことか。


―――愛してるよ、僕の―――。


そう言って背中を向け去っていくあなたに、【止めて、行かないで】と私は心の中でいつも必死に手を伸ばすのだ。届かないと分かっているのに、手を伸ばすのを止められない。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

私の体はどうして動かないの。

どうして彼はいってしまうの。

彼が一歩足を踏み出すと、ヌチャリ、と気味の悪い音を立てて彼の足が鮮血のような赤に沈んだ。


(止めて、これ以上進まないで)


だって、このまま行ってしまったらあなたは。

(死んで、しまうの)

彼に声を返したいのに声がでない。彼に手を伸ばしたいのに腕が動かない。まるであの時の自分が何もかも悪いのだと言わんばかりに。

彼の黒い髪がやけにゆっくりと揺れ、ミシリと音を立てて右肩に亀裂が走る。何度も私の髪を撫でて、いつも色々なものを産み出していた彼の温かい手が、まるで玩具のようにぼとりと下に落下した。それを見たと同時に悲鳴をあげた、ような気がした。亀裂からビシャビシャと吹き出るのは、赤。

(嫌、だ)

声がまるで干からびてしまったかのように何にも出てこない。腕も体も何もかも、鉛を飲み込んだかのように重たかった。

右手を失った彼がぐらり、と左に傾いていく。

しかし彼が床の赤に倒れる前に、ぐしゃり、と何かを裂くような音がして、彼の胸から何かが生えた。それは銀色の、鈍い光。

私の動かない体に、彼の赤がかかった。

何も言えずにただ呆然とそれを眺めているしかできない私を嘲笑うかのように、ゆっくりとその鈍い光は彼から抜けていく。抜けると同時に彼からさっきよりも真っ赤な色が飛び散って、彼が倒れていく。

ふわりと柔らかな黒が宙を舞った。


(いかないで!!!!!)


声無き叫びは無様に夢の中に消え失せる。

優しく微笑む彼が向かう先はいつだって、【死】だけなのだから。




唐突に強い風が吹いた。あたりに漂う血の臭いが巻き上がり、墓に供えた真っ白い花がバラバラと散らばっていく。

思わず髪を押さえると、さらりと視界の端に見慣れたセピア色が揺れた。

風が収まったのを確認してからずっと繰り返していた穴を掘る手を1度止め、ゆっくりと息を吐き出す。

(あと、1人)

再び土で汚れたスコップを持った手を動かすと同時に、自分へと影がかかる。

「…本当にあなたは、無駄なことが好きだな」

「クロード」

少し低めの、聞き慣れた柔らかい声。振り替えると、黒い短髪にアメジストのような紫苑の瞳を持ったクロードが立っていた。

「無駄…そうだね、クロードから見れば無駄なことに見えるのかな」

確かに、今まで敵だった。先ほどまで私も彼も、実際にこの今は地に倒れている人たち―――【ロユリク】に殺されそうになっていた。

元に私とクロードの黒い軍服にもあちこちにぬめった黒い飛沫が飛び散っている。

「なんでそこまで死んだやつに構う?こいつらは味方でもないのに」

「敵だって味方だって、関係ないよ。元々は私たちと同じ人間だったんだから」

「だからと言って、墓まで作る必要があるか?」

「お墓なんて、そんな大層なものじゃないよ。それに、ロユリクだって…自分から望んでこうなったわけじゃない。彼らに思考が残っているかは分からないけど…死んでしまったからこそ、最後ぐらいは人間らしく扱ってあげたいの」

そう、決して彼らは自ら望んでこの姿になったわけではない。ただ運悪く彼女―――【クイーン】に捕まり、無理矢理に薬を投与され、気が狂いそうな痛みと共にこんな姿になってしまっただけだ。

私はゆっくりと土を掘っていた手を止めて足元に目を落とすと、そこにいたのはとても元人間だとは思えないような容姿をした―――化け物、としか例えようがない風貌の何かが首が切られ、血塗れの状態で横たわっていた。

このロユリクと呼ばれている元人間に頭は無く、口から上はまるで黒い花のようなものがなぜか"上向き"ではなく"下向き"に花開いており、まるで黒い百合に頭から寄生されてしまったかのような見た目をしている。口から下は人間のままだが、体のあちこちから植物のようの蔦や草、頭部にある黒い花の蕾のようなものが飛び出しており、飛び出した穴の回りから徐々に皮膚が腐り果て、腐敗臭のような酷い臭いを発していた。

まるで、…黒ユリのように。

そっと白い布を被せ、穴へと遺体を引っ張っていく。元は男性だったのか、体格のいいロユリクは少々重たいが、これ以上遺体であっても傷ついてほしくない。雑にならないよう、少しずつ引っ張りながら彼を穴へと入れようと悪戦苦闘していると後ろから明るい声が聞こえてきた。

「アディラー、花を摘んできたよ…って、クロード!またアディラに何か言ったの!?」

「別になにも」

「大丈夫だよ、ローワン。お花を持ってきてくれたのよね?どうもありがとう」

今度は何を言った!と今にも噛みつかんばかりの勢いの彼女に苦笑いしながら彼女に声をかける。

「だいたいクロードも見てる暇があったらアディラを手伝ってあげてよね!どう見ても重たそうでしょ…ってもういないし!もーーっ!エルヴィスさんに言いつけてやるんだから!!」

「ローワン、もう大丈夫だから。エルヴィス隊長にも言わなくていいから」

「ぐぬぬ…クロードめぇ…」

「私が勝手にやっているんだもの。どう思われたって仕方がないよ」

2人がかりで遺体を穴へと入れると、掘ったばかりの土をかける。

その上にそっと花を添え、祈りを捧げた。

死んでしまったロユリクがどうなってしまうか分からない。こんなものは、ただの偽善や押し付けにすぎないのかもしれない。それでも私は、祈らずにはいられなかった。


(…どうか、安らかに)


目を開けた先は、薄暗い夕暮れに染まっていた。

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