仲直りはプリンの味
好きならば何でも許せるというわけではないのだ。
恋に恋する乙女なら、それでも許してしまうこともあるだろう。
だけど、好きだからこそ、恋人のもっと先、パートナーとしての関係をずっと続けていきたいと思うのであればこそ、もっとお互いを理解し、想い合い、尊重し合う必要があると思うのだ――。
「で? そう思った原因は?」
「楽しみにしてたプリンを勝手に食べられたんだよ!」
「……あのねえ、そんなしょうもない事で呼び出さないでくれる?」
「違う。訂正する。プリンじゃなくて、プリンアラモード。プディング・ア・ラ・モードなんだよ!」
「……ああ……うん……」
「面倒な仕事が片付いてさ! 自分へのご褒美に買っておいたんだよ? それを断りもなくだよ? 勝手に食べちゃあ、ダメでしょうよ?」
「……まあ、解った。でもさ、わざわざ元カノを呼びつけてまで言うこと? 漫画じゃあるまいし……」
「……いや、まあ、カッとなって勢いでやってしまったことは否めないですが……」
「私としてもさ、別にあんたを嫌いになったわけじゃないから、困ってるなら力になりたいよ? こっちから一方的に別れを切り出した負い目だって、無いわけじゃないし。……だからって、ね? あの子だって色々理解があるっていったって、こうして二人きりで会ってたら嫌な思いをするかも知れないじゃん?」
「はい。頭にきたのでこっちも相手が嫌がるかも知れないことをしてやろうという考えが無かったとは言い切れない面も無きにしも非ず……」
「……ハァ。それだけじゃないでしょ? ちょっと顔が赤いんだけど?」
「……はい。酔っていた勢いというものも決して無いとは言えないような気がしないこともないという側面も否定はできず……」
「ねえ? 忘れたわけじゃないよね? あの、悲しい、ディルド事件を……」
「やめて! ……いやほんとマジすいません」
「酔った勢いであんなモノ買ってきてさ? あれだけのことをしておいて、覚えていませんでした。って、ね?」
「はい、本当にその節は申し訳なく」
「……はぁ。……まあ、分からないではないよ? 別にプリンが惜しいわけじゃなくて、自分がちょっと蔑ろにされたように感じて、不安になっちゃったんでしょ?」
「うっ……」
……そうだ。私は、自分が楽しみにしていたこととか、頑張っていたこととか、本当は誰よりもあの子にこそ解っていて欲しかった。
だからそんな私の気持ちが、全然解ってもらえてなかったような気がして、解ろうとしてもらえなかったような気がして、不安で恐かったんだ。
こんな、ふてくされたようなマネをして、あの子がちゃんと私に気があるって確かめようとするくらいなら、素直に信じていれば良いのに。
あの、悲しい……事故だって、確かに、覚えのないアイテムが私の買ったものであると、財布の中のレシートと減った諭吉さんが雄弁に語っていた時は、記憶が無いことも恐かったけど、本当に恐かったのは、私が目の前の彼女を傷つけてしまったのではないか、ということだった。
まともな理性が無いような状況だったからこそ、本音では彼女に満足していないと、私が思っていたのかも知れないということも、そしてそれ以上に、私が本気でそんなつもりはなくても、彼女がそう解釈して私を嫌ってしまうんじゃないかって、そんな考えが、恐かった。
だけど私は、私の酒癖の悪さを弄るだけで済ませてくれる彼女の優しさに甘えて、そういった不安から目を背けて。
それから一年が過ぎるよりも少し早く、私達は別れた。
彼女が私に語った、もっと好きな人ができた、という理由は、嘘じゃないって解ってる。
でも、それでも、あの時、私の不安を共有できていたら、もしかしたら――そう考えてしまうのも事実だった。
結局は私も、その後すぐにあの子と出逢えて、新しい胸の高鳴りに、日々幸せを感じている。
でも、だから、だったら、私がしなきゃいけないのは――。
「相変わらず夢見がちというか……。どうせ、いつもより豪華なんだから、特別だって分かってくれるだろう、って、あの子には何も言ってなかったんでしょ?」
「……はい」
「まあ、覚えの無いものを勝手に食べちゃうのも悪いけど、あんたも悪い。こんなことしてないで、とっとと謝って仲直りしな」
「うん、ごめんね」
「私はいいから、さっさと帰りなさい」
「……うん。……あ、そうだ」
「なに?」
「ありがとうね、わがままに付き合ってもらって、うれしかった」
そんな私の言葉に、しょうがないヤツ、って呆れたような笑顔を浮かべて、ひらひらと手を振る彼女のことを、私だってやっぱり嫌いにはなれない。
正直に言ってしまえば、まだ好きだ。
だけどそれは、あの子のことを本気で好きなことと、トレードオフじゃない。
好きな人達とこうして関われることを、素直に幸せだと思う。
だから、上っ面だけじゃなくて、もっと、もっと大事にしなければいけない。
私がするべきことは、こんなことじゃないって教えてもらったから、その優しさに応えるためにも、帰って、ちゃんと向き合わなくちゃ――。
そして、部屋へと戻ってみれば。
「ごめんなさい」
そう言って私を迎えてくれた、大好きな人がいて。
冷蔵庫には、私が買っておいたものよりも豪華なプリンがふたつ、増えていて。
仲直りのキスは、カスタードの香りと、甘い、生クリームの味がした。
それはとても幸せな味で、その幸せを、もっと大切にしたいと思うから。
「ねえ、聞いてくれる――?」