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78 竜皇陛下、誤解を解こうとする

「いったい何者だ……?」


 険しい表情のグレンディルに、クラヴィスは小さくため息をついてアドバイスした。


「……本当に心当たりがないのなら証明すりゃあいいんじゃね」

「証明? 何をだ」

「ほら、現皇帝との血縁関係を調べる石とか宝物庫の奥にあるだろ。皇位継承が実力主義になってからはほとんど使われてねーけど」

「あぁ、そういえばそんなのがあったな……」


 遥か昔、マグナ帝国の皇位継承は血統主義であり、皇帝の血を引いているか否かが何よりも重要とされていた。

 そのため、万が一にでも皇帝の血族でない者に皇位継承が行われないように、血を用いて皇帝との血縁関係を調べる「血統石」なるアイテムが存在するのである。

 もっとも、血縁関係を重視し続いていた王朝は、あっさりと外部の英傑によってひっくり返され、それ以来皇位継承はなによりも「強さ」が求められるように変化した。

 例の「血統石」も宝物庫の奥深くに仕舞われて久しいが、捨てられたり盗難に遭っていなければまだ現存するだろう。


「本当にそいつが『隠し子』じゃないのなら、血統石でバシッと無実を証明できる。ただし……」


 一度言葉を切ると、クラヴィスはおかしくてたまらないとでもいうように笑った。


「血縁関係が証明されたらエフィニア姫からお前へと信頼は地に堕ちる。『無責任に子どもをこさえておきながら知らないふりを続ける最低なゴミクズ野郎』ってな」

「ぐっ……」


 エフィニアに蔑んだ目で見られる光景を想像し、グレンディルは息が詰まるような思いを味わった。

 もしもそんな日が来たら、心に大きな傷を負ってしまいそうだ。

 だが……。


(徹底的に誤解を解くとなると、そのくらいやるしかないか)


 なんにせよあの正体不明の子どもはグレンディルとは何の関係もないのだ。

 何も恐れる必要はない。


「……後宮へ行ってくる。例の血統石を探すように手配しろ」

「はいはい、ちゃんとエフィニア姫に弁解しとけよ」

「……別に弁解することなど何もない」


 そう、別にグレンディルは後ろめたく思う必要など何もないのだ。

 焦れば余計怪しく思われる。

 正々堂々とした態度で身の潔白を主張すれば、きっとエフィニアもわかってくれるだろう。

 そう自分に言い聞かせ、グレンディルは執務室を後にした。



 ◇◇◇



「うっ……!」


 たどり着いた後宮の一角――エフィニアの邸宅前にて。

 グレンディルは扉に手をかけようとして固まってしまった。

 エフィニアの邸宅の扉には、例の『皇帝陛下に隠し子発覚!?』の号外が堂々と張り出されていたのだ。


 ……確実にグレンディルへの抗議である。


 これは早めに誤解を解かなくては。

 深呼吸し気を落ち着かせ、グレンディルは平静を装いながらベルを鳴らす。

 すぐにぱたぱたと足音が聞こえ、姿を見せたのはエフィニアの侍女――イオネラだった。


「わぁ、陛下! いらっしゃったんですね!」

「……あぁ、エフィニアは――」

「もちろんいらっしゃいますよ! エフィニア様―! 陛下がいらっしゃいましたよ~」


 上機嫌のイオネラが奥に向かってそう声をかけると、ガタガタッと何かが床に落ちるような音がした。


「えふぃー? どしたの?」

「な、何でもないわ……!」


 何やら気の抜けるような声が聞こえたかと思うと、奥からエフィニアが姿を現した。

 彼女の傍には例の子どもがじゃれついていたので、グレンディルはつい表情を歪めてしまう。

 エフィニアは小さく咳払いをすると、にっこり笑って傍らの幼子に話しかけた。


「ほら、クロ。パパが会いに来たみたいよ」

「違う!」


 グレンディルは慌てて否定した。

 彼女が本当にグレンディルの隠し子だと信じ込んでいるのか、それとも嫌味なのかはわからない。

 だが彼女にだけは、誤解されたままでいるのは嫌だった。


「……エフィニア、前にも伝えたがその子は俺の隠し子じゃない。あの号外もでたらめだ」

「どうでしょうか。あんなに多くの方の証言が挙げられているんですもの。本当は――」

「エフィニア」


 強く名を呼ぶと、エフィニアはぐっと言葉を詰まらせた。

 その表情はどこか思いつめたようで、グレンディルは知らず知らずのうちに彼女に負担をかけていたという事実に歯噛みする。


「う?」


 きょとん、と首をかしげる自身にそっくりな幼子を抱え上げ、おろおろと成り行きを見守っていたイオネラに手渡す。


「悪いが、それの面倒を見ていてくれ」

「それは構いませんが……」


 ちらりとエフィニアに視線をやったイオネラに、グレンディルはしっかりと頷いてみせる。

 ――「エフィニアのことは任せてほしい」と伝えるように。


「……エフィニア」


 もう一度名を呼ぶと、エフィニアはおずおずと顔を上げる。

 まっすぐに彼女と視線を合わせ、グレンディルははっきりと告げた。


「二人で話したい」


 その言葉に、エフィニアはわずかに頬を染め……うつむき気味にそっと頷いた。

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