63 妖精王女、反撃に出る
事情聴取のために呼ばれた部屋で、ミセリアは平然とお茶を飲んでいた。
傍らに座すミセリアの父――ファルサ公爵も、余裕の構えを崩さない。
「……はぁ、早く解放して欲しいものですわね、お父様」
「まったくだな。陛下も何を誤解しておられるのか……」
ミセリアは自らの行いを全く反省しておらず、公爵も娘の行いを間違いだとは思っていない。
むしろ、積極的に支援していたくらいだ。
ファルサ公爵家から続く竜族の名家である。
だからこそ……「自分たちは選ばれし者である」という選民意識が強かった。
ミセリアは高貴なる竜の姫。
片田舎の妖精族であるエフィニアや、下等な竜であるアルマを排除することなど、道端の小石を蹴飛ばすようなものだ。
いったい、何を咎められることがあるのか。
「エフィニア王女もひどい怪我を負ったと聞きます、早く故郷に帰して差し上げればよろしいのに」
妖精族など所詮片田舎の弱小種族。高貴なる竜族の姫であるミセリアからすれば、ブンブンと鬱陶しく飛び回る羽虫のようなものだ。
「……わざわざ警告して差し上げたのに、馬鹿な御方」
ミセリアに逆らわないのなら、適当な虫かごに入れて邪魔にならないところにでも置いてやったのに。
自らそのチャンスをふいにするとは。何と愚かな女だろう。
ミセリアはこれから始まる審問をまったく恐れていなかった。
今まで、自分に歯向かう者は容赦なく潰してきた。
邪魔者を排除することの何がいけないのか。
竜族は強い者ほど崇められる種族だ。力づくで物事を解決することこそ、正しい在り方だ。
ファルサ公爵家の力をもってすれば、無罪を勝ち取ることなど簡単だ。
アルマは逃がしてしまったが、逆に言えば彼女の証言以外にミセリアが黒だと示す確固たる証拠はない。
いくらエフィニアが喚こうと、何もできやしない。
「……ふふ、次こそは叩き潰してあげるわ」
小さくそう呟き、ミセリアは蠱惑的な笑みを浮かべた。
その様子に、室内に控えていた官吏が数人、魅了されたようにうっとりと彼女に熱い視線を注いだ。
美しく強いミセリアこそが絶対正義だ。
皇帝は何を考えているのかエフィニアや「真の寵姫」のことを気にかけているようだが、二人とも叩き潰してしまえば正気に戻るだろう。
ミセリアが皇后としてこの国の……いや、世界の頂点に立つ。
それこそが唯一の正しい形だと、ミセリアは自己陶酔に浸っていた。
やがて部屋の扉が叩かれ、取次の者が慌てたように口を開く。
「皇帝陛下……並びにエフィニア王女殿下がいらっしゃいました!」
皇帝だけでなくエフィニアまでやって来たことで、ミセリアは内心舌打ちした。
まったく……どこまでも邪魔な女だ。
次は、逃がさない。必ず、息の根を止めてやる。
ミセリアの胸の中で、野心の炎が燃え上がる。
殺気を込めて睨んだ視線の先、ゆっくりと扉が開き……。
「遅くなって済まない。マイスウィートハニー・エフィニアが目覚めたというので、一時たりとも離れたくなかったのでな」
「もぉ、ダーリン♡ 恥ずかしいわ♡♡♡」
「………………は?」
珍しく呆気にとられ、ミセリアはあんぐりと口を開く。
その視線の先では、グレンディルの首にしがみつくようなエフィニアと、片手で彼女を抱きかかえたグレンディルが、鬱陶しいほどべたべたしながら部屋に入ってきたところだった。




