52 妖精王女、幼竜に悩みを相談する
「うーん、ここをこうして……」
今持っているドレスの内の一着をリメイクする形で、エフィニアはデザインに取り掛かった。
大輪の花を彩る花びらのように、いくつもの薄手の布をふわりと重ね合わせていく。
それが妖精族のドレスの伝統的なデザインだ。
ミセリアの大量発注のせいで巷では布地が品薄になりかけている。
エフィニアはアラネア商会の伝手を駆使して、なんとかドレスに必要な分の布地を確保することができた。
デザイン画も形になり、いよいよ精霊の力を借りることとなる。
「妖精王の末裔たるエフィニアの名において命じる……来たれ、<キキーモラ>」
エフィニアの呼びかけに応え、現れたのは……イタチのような姿をした精霊――キキーモラだ。
『キィ! キィキィ!!』
「来てくれてありがとね。早速だけど、こんな感じにこのドレスをリフォームしたいの。頼めるかしら」
『キッ!』
キキーモラは服飾方面に秀でた精霊だ。
エフィニアがデザイン画と布地を見せてやると、すぐに生き生きと作業に取り掛かってくれた。
「エフィニア様~、スコーンが焼けましたよ!」
「ありがとう、そこに置いといてもらえる?」
てきぱきと布地の裁断を始めたキキーモラを見守りながら、エフィニアはドレスを彩る飾りの作成を始めた。
「う~ん、どうしようかしら……」
キキーモラの力を借りて、ドレスは少しずつ完成に近づいてきている。
だが、最終段階になってエフィニアは悩んでいた。
妖精族の国であるフィレンツィア王国には、特殊な糸を紡いで織った透明に近い「ルジアーダ」という特殊な布がある。
妖精族の伝統的なドレスは、最後にスカートの部分にふんわりとルジアーダ布を被せ、妖精の羽のように纏うデザインになっている。
だが、どうしてもこのルジアーダ布や似た性質の布は手に入らないのだ。
(今から育てて紡いで……さすがに間に合わないわよね)
エフィニアの元には優秀な精霊がいるが、さすがに時間が足りな過ぎた。
「はぁ……」
今の段階でも、ドレスは渾身の出来となっている。
これでルジアーダ布さえ手に入れば、きっとエフィニアが作った中でも最高傑作となるだろう。
だからこそ、中途半端な出来で妥協するのが許せなかった。
最近はドレス作りで根を詰めすぎだとイオネラに心配され、エフィニアは屋敷の庭園で一人、ティータイムに興じていた。
すると、パタパタと可愛らしい羽音が聞こえてくる。
「クロ!」
顔を上げれば、目に入るのは見慣れた姿。
もうお馴染みとなった黒い幼竜――クロがエフィニアの膝へと降り立った。
「きゅーぅ?」
「……ううん、大丈夫よ」
エフィニアが浮かない顔をしていたのが気にかかったのだろう。
心配そうに首をかしげる幼竜を、エフィニアはぎゅっと抱きしめた。
「きゅーう、きゅーう!」
幼竜はエフィニアを慰めようとするかのように、一生懸命すりすりとすり寄ってくる。
その様子が愛らしくて、エフィニアはついつい今の悩みを零してしまう。
「今はね、今度の狩猟大会のためのドレスを作っているのだけど……どうしても、仕上げに必要な布が手に入らないのよ」
「……くぅ?」
「ルジアーダ布といって、薄手で、透明で、とっても綺麗な布があるの。フィレンツィアでは簡単に手に入るのだけれど……ここでは難しいわね」
「…………くるるぅ!」
エフィニアの言葉を聞いた幼竜は、何かを決意したかのように真剣な目つきになる。
かと思うと、すぐさまエフィニアの元を飛び立った。
「クロ!?」
「きゅーう! きゅきゅ!!」
まるで何かを伝えるかのように鳴いた後、幼竜は素早く飛び去ってしまう。
エフィニアはぽかんとしながら、その様子を見送った。
「何か、伝えたかったのかしら。随分と急いでいたみたいだけど……」




