47 妖精王女、思案する
結局あの後、駆け付けた警備隊によりエフィニアを連れ去ろうとした男たちは捕縛された。
騒ぎを聞きつけたのかクラヴィスとイオネラもやって来て、エフィニアはすぐに皇宮の医師の元に運び込まれた。
別に大した怪我は負ってなかったのだが、まるで重病人のようにイオネラには泣かれてしまった。
「だから、大したことないのよ。馬車が横転した際にちょっと頭を打ったくらいで……」
「うわあぁぁぁんエフィニア様あぁぁぁ!! 可愛らしい頭にこぶがあぁぁぁ!!」
「こんなの半日もすれば治るわよ」
わんわん泣くイオネラの後ろで、皇帝グレンディルは静かに落ち込んでいた。
「……済まなかった。いくら馬車を止めるためとはいえ、もう少し穏便な方法を取っていれば……」
「もう、陛下! いつまでも過ぎたことをくよくよと悩まないでくださいませ!! あの状況では、わたくしもあの方法が最善だと理解しておりますので。……少しばかり、器物損壊が行き過ぎでしたけど」
聞くところによれば、グレンディルはエフィニアを連れ去った馬車を止めるために、グルメ街の入り口のアーチを壊し道を塞いだらしい。
エフィニアには到底思いつかないダイナミックな封鎖方法に、怒ったり呆れたりする前に笑ってしまう。
「いやぁ~、これはもう陛下がばっちり責任取るしかないなんじゃないかなぁ~? うら若き乙女の体に傷を作るなんて、許されざる罪ですよ」
「だから、大したことないって言ってるのに……」
からかうようににやにやと笑っていたクラヴィスだが、ふと真面目な顔を作り、エフィニアの方へ視線を投げかけた。
「……それで、エフィニア王女。状況を見る限り、あの誘拐犯どもの標的は王女だったみたいですけど……なにかお心当たりは?」
……あの時、グレンディルは認識阻害魔法で皇帝だとわからなかったはずだ。
となると、彼らの目的はエフィニアだったということになる。
「……単なる身代金目当ての誘拐で、たまたま目についたのがわたくしだった……という可能性もございます。ですが……そうではないでしょうね」
そうであれば、あんな風に人通りの多い場所で白昼堂々と誘拐を試みるとは考えにくい。
もっと、足のつかなさそうな方法はいくらでもあるというのに。
(彼らは、わたくしを狙っていた……)
エフィニアがフィレンツィア王国の王女だからだろうか。
いや、それよりも……。
「わたくしが皇帝陛下の側室で、『運命の番』だから……」
そう呟いた途端、グレンディルの肩がぴくりと動いた。
要は、後宮内の派閥争いの延長なのだろう。
後宮の中には、エフィニアを疎ましく思う側室が大勢いる。
何らかの手段でエフィニアが城下町に出ることを知り、痛めつけてやろうとでも思ったのだろう。
グレンディルも、エフィニアが言わんとすることを理解したのだろう。
顔を上げた彼は、「冷血皇帝」の名にふさわしい、鬼気迫る表情をしていた。
エフィニアの傍らに控えていたイオネラが、「ヒィッ!」と悲鳴を上げるほどに。
「……わかった。今から一人ずつ側室に尋問を――」
「おやめください」
ギラリと金色の目を光らせるグレンディルを、エフィニアはぴしゃりと制した。
まったく、この皇帝はやることなすことダイナミックすぎるのだ。




