42 妖精王女、回転寿司に興味を持つ
「すごぉい……あれは何かしら!」
エフィニアは目を輝かせて、きょろきょろとあちこちを見回している。
グレンディルは彼女がすれ違う人に吹き飛ばされないように、丹念に睨みを利かせていた。
認識疎外魔法で皇帝とはわからないとはいえ、威圧感はわかるのだろう。
すれ違う者たちは「誘拐犯……じゃないよな?」などと呟きつつ、器用にグレンディルたちを避けていってくれる。
「へ……グレン様! あちらは?」
くいくいとエフィニアにそでを引かれ、グレンディルはそちらへ視線をやる。
彼女が熱心に眺めているのは、白米の上に魚などの具を乗せた魚介料理の店だった。
「あれは……寿司だな」
確か大陸の東方部に棲む、鬼族の国の郷土料理だったはずだ。
エフィニアはまるで小さな子供のように目を輝かせて、寿司を眺めているようだった。
その様子に、グレンディルは驚く。
「……気になるのか?」
「フィレンツィアは海が遠くて、中々魚介料理にお目にかかる機会はありませんでしたの……」
エフィニアは珍しくそわそわした様子を隠せずに、熱っぽい瞳で寿司屋を眺めている。
グレンディルは気が付けば、そんな彼女の手を引いていた。
「行こう」
驚くエフィニアの手を引き、寿司屋の中へと足を踏み入れる。
その途端、エフィニアはまたもや驚きに目を丸くする。
「どうしてお皿が回っておりますの!?」
「レーンに沿って客席が配置してあるだろう。ああやって具の違う皿を回すことで、客は好きな皿を取ることができるんだ。こうすることで注文の手間が省ける」
「なるほど……さすがは帝国の最新の店ですね」
クラヴィスに渡された本で予習していたおかげで、グレンディルはスムーズに「回転寿司」の仕組みをエフィニアに説明することができた。
エフィニアは顔を上げると、キラキラと尊敬を含ませた眼差しでグレンディルを見つめている。
その目に見つめられた途端、グレンディルの胸の奥底がズギュゥゥン!と波打った。
「……俺たちも行こう」
このままでは、また初めて会った時のようによくない行動に出てしまいそうだ。
エフィニアから視線を逸らすと、グレンディルは慌てて近くの店員へ話しかけた。
「いらっしゃいませ~、二名様でよろしかったでしょうか?」
「あぁ、頼む」
「わぁ~可愛い♡ 今日はパパとお出掛けかな?」
若い女性店員はエフィニアを見て表情をほころばせると、とんでもないことを口にした。
その言葉に、まさか親子に見られるとは思わなかったグレンディルはショックで固まる。
自分とエフィニアが実年齢以上の年齢差に見られることはよくわかっている。
だが、まさか……親子に間違えられるとは!
無表情を保ったまま、グレンディルは静かにダメージを受けていた。
そんなグレンディルを見て、エフィニアはくすりと笑う。
そして、店員に向かってにっこりと愛らしく笑ってみせた。
「いいえ、今日はデートですの」
「!?」
エフィニアの言葉に即座に復活したグレンディルを見て、エフィニアはぱちんと片目を瞑って見せた。
本気で言っているわけではなく、どうやら助け船を出してくれたようだ。
店員も慌てたように咳ばらいをし、何事もなかったかのように席を案内する。
「これは失礼しました~、2番のテーブルへどうぞ!」
「さぁ、参りましょうか。今日はエスコートをしてくださるのでしょう、グレン様?」
エフィニアがグレンディルに向かって、優雅に手を差し出す。
見かけは幼いが……爪先から頭のてっぺん、こちらにむかって差し出した指先に至るまで……端々から女王然とした気品と威厳が漂ってくるようだった。
……グレンディルの「番の本能」は、どうやらとんでもない大物を嗅ぎ当ててしまったようだ。
「あぁ、こちらへ」
細心の注意を払ってエフィニアの手を取り、グレンディルは回転ずし屋の客席へと向かうのだった。




