表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/117

41 妖精王女、グルメ街に足を踏み入れる


「いいか、この機会を逃したらもうお前にチャンスはないと思え。既に残機は0だ。わかるな?」

「首都以外の領土がすべて占領され、籠城したものの武器も食料も尽きかけ、外では城門を破る準備が始まっている……みたいな状況というわけか」

「だいたいそんな感じ。そのくらいヤバいんだよ、エフィニア姫からお前への好感度は」


必死にそう熱弁するクラヴィスに、グレンディルは大きくため息をついた。


悪手を重ね「運命の番」であるエフィニアに嫌われ、何とか誤解を解こうと幼竜の姿で近づいたら今度は「皇帝の寵姫が現れた」など、とんでもない噂が立つ始末。

エフィニアにも「真の寵姫を守るために私を盾にしたのでしょう?」と誤解され、彼女のグレンディルへの好感度は絶賛低空飛行中だ。

今度こそそんな状況を打破するため、グレンディルは決死の思いでエフィニアを視察という名のデートに誘い、何とか承諾を得ることができた。


「帝都のお勧めデートスポット集、エスコート術に女性への接し方……とにかく当日までに全部頭の中に入れろ。いいな?」


クラヴィスがどん!と執務机の上に置いたのは、厚さも大きさもバラバラの本の山だった。

一番上に置かれた一冊に手を伸ばし、グレンディルは重々しく本を開く。


「断りもなく女性の体に触れるのはNG……なるほど。それで俺が持ち上げたらエフィニア姫は怒ったわけか」

「そこからか。お前ほんとに、戦争は負けなしなのに他が抜けてるんだよな……」


グレンディルは幼い頃から戦地を転々とし、着実に戦闘経験を積んでいた。

そのため、ひとたび戦となれば鬼神のごとき強さを発揮するのだが、その反面一般常識――特に社交界で必要となる女性への扱いがまったくなっていないのだ。

形だけのエスコート術は学んだが、それが実践に活かされているかというと否なのである。

今までは女性との接触を極力避けていたのでなんとかなったが、今回ばかりはそうは言っていられない。

今度こそは弱点を克服し、エフィニアとの関係を修復しようと必死なのだ。


(これは、今までのどの戦よりも厳しいかもしれないな……)


鬼気迫る表情で本をめくる皇帝を見た者がいたならば、きっと「次はどこを攻め落とすか策を練っているに違いない!」と震えあがっただろう。

だが実際は、いかにして小さな番に近づこうかともがく、一人の青年そのものだったのだ。



◇◇◇



「この通りがグルメ街だ。世界各地から、選りすぐりの店が集まっている」

「わぁ……!」


一風雰囲気の異なる大通りの入り口に立ち、エフィニアは歓喜に目を輝かせた。

眼前の通りは、道の左右に様々な料理店が立ち並び、威勢の良い呼び込みの声が響いている。

あちこちから料理の匂いが漂い、エフィニアは思わず腹が鳴らないように腹筋に力を込めた。


「君は何が食べたい?」

「……少し、見回ってから決めますわ」


平然を装いつつも、憧れのグルメ街を前にエフィニアはそわそわした様子が隠せずにいた。

そんなエフィニアを見て、グレンディルは優しく笑う。


「あぁ、何でも君のお望みどおりに」


人ごみにエフィニアが潰されないように庇いながら、グレンディルはグルメ街へと足を踏み入れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これはこれで理想の王子様然とし過ぎて最早今までの陛下と乖離し過ぎというか…逆に危ういのでは? 今までのエフィニアの心理見てると自己完結傾向な気もするし余りに今までとかけ離れてて顔そっくりの影…
[一言] グレンディル陛下、幼い時から大変だったから社交技術が無いんですね~。 私的にはグレンディル陛下の好感度上がってますけどね~。 エフィニアちゃんみたいにしっかり者には、ちょっとダメなところ…
[一言] 努力が…涙ぐましい努力と友のフォローが……(´;ω;`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ