28 妖精王女、後宮のボスと対峙する
招待状に記されていた日時に、指定された通りエフィニアはミセリアの邸を訪れた。
エフィニアに与えられたボロ屋敷とは大違いの、石造りの荘厳な城である。
エントランスの前には両側にずらりと侍女が並び、お茶会の招待客に頭を下げていた。
(はぁ、同じ側室なのにこの待遇の差はいったい……)
釈然としない思いを抱えつつも、エフィニアは招待状を見せて案内されるままに進んでいく。
対応した侍女はエフィニアを見た瞬間はっとした表情に変わったが、すぐに何事もなかったかのように案内をしてくれた。
さすがに、教育は行き届いているようである。
(女官長やレオノール様の所の侍女とは大違いね……)
そのミセリアという側室は、どうやら今までとは違い気の抜けない相手のようだ。
できれば敵に回したくはないが……、
(それは、ミセリア様次第ね)
今一度気を引き締めて、エフィニアはお茶会の会場へと足を踏み入れる。
皇宮で見たのと同じような装飾が施されたこの部屋は……応接間だろう。
部屋の中央に大きな長テーブルが置かれ、既に何人もの着飾った女性――おそらくは側室たちが席に着いていた。
エフィニアがその場に足を踏み入れると、ちらちらと視線が突き刺さる。
(なんとなく、嫌な予感……まぁ、わかってはいたけれど)
そんな思いをおくびにも出さずに、エフィニアは素知らぬ顔で用意された席に着いた。
どうやら招待客はエフィニアで最後のようだ。
席が埋まったのを見計らったように、入り口の扉から一段と華やかな女性が姿を現した。
「皆さまお集まりのようですね、本日はわたくしのお茶会に出席してくださって感謝いたしますわ」
燃え盛る炎のように真っ赤な髪に、ツリ目がちな金色の瞳。
竜族らしく長身で、見事なプロポーションを惜しげもなく披露している。
顔立ちは華やかで、真っ赤な派手なドレスが嫌味なほど似合っていた。
間違いなく「妖艶な美女」という言葉がよく似合う、その場にいるだけで周囲の者をひれ伏せさせるようなオーラを纏う女性……。
(この御方が、ミセリア様……)
説明されなくたって、名乗らなくたってすぐにわかる。
彼女こそが最も皇后に近い側室、公爵令嬢ミセリアなのだろう。
ミセリアは集まった招待客に微笑み、エフィニアに目を留めると意味深に笑った。
その視線に、エフィニアは思わずぞくりとしてしまう。
「エフィニア様、突然の誘いにも関わらず、本日はお越しいただきありがとうございます」
「こちらこそ、お招きいただき感謝いたします。ミセリア様」
にっこり笑ってそう応じると、ミセリアは微笑みを返して静かに席に着いた。
(うっ、読めない……)
どうにも、彼女の意向が読めないのだ。
今のところ女官長やレオノールのように、わかりやすく敵意を向けてくるわけでもない。
何となく居心地の悪さを感じながら、エフィニアは身じろぎした。
お茶会はつつがなく進んでいく。
昨今の世界情勢や、はたまた最近流行りの美容法について。
ミセリアは巧みに話を振り、招待客たちは和やかに談笑している。
だがエフィニアは、決定的な違和感に気づいていた。
(……おかしい。誰も、あれほど話題になっている皇帝や寵姫の話を出さないなんて)
側室たちに話題の種は多岐にわたるが、まるで示し合わせたかのように、今一番ホットな話題であるはずの「皇帝の寵姫」に触れようとはしない。
(このまま何事もなく終わる……わけがないわね)
ある程度の覚悟はしておいた方がいいだろうと、エフィニアは静かに紅茶を流し込んだ。
やがて話が途切れたタイミングを見謀るようにして、ミセリアがエフィニアを見つめて口を開く。
「そういえばエフィニア様。先日、エフィニア様が皇帝陛下に呼ばれ、皇宮に赴かれたとお伺いしましたわ」
(来たっ……!)
エフィニアは小さく息を吸って、ミセリアと視線を合わせた。




