25 竜皇陛下、番の手の小ささに悶絶する
「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下。お招きにあずかり光栄にございます」
二度目の食事会にやって来たエフィニアは、あたりに春を振りまくような愛らしい笑みを浮かべていた。
だが、皇帝グレンディルはその笑みにどこか違和感を覚え、内心で首をかしげる。
幼竜の姿で会う時にエフィニアは、もっとはつらつとした笑顔をしていたはずだ。
だが今の彼女は、まるで……外行きの仮面を被るかのような、どことなく何かを取り繕うかのような気配がするのだ。
(俺の……思い違いか?)
そんな疑念を表に出さないように、グレンディルは表向きは快くエフィニアを迎えた。
前回の反省を活かし、エフィニアの腰掛ける椅子は特注の小さな物にして、手前には昇降用の踏み台も用意した。
用意された席を目にした途端、エフィニアはぴくりと眉を動かしたが、優雅な動きで席に着く。
そうして、二度目の食事会が始まった。
きっと傍目には、前回とは違い和やかな食事会のように見えているのだろう。
エフィニアはにこにこと微笑み、二人の間では当たり障りのない会話が続いていた。
控える者たちは「あぁ、皇帝陛下の雷が落ちずに済む……!」と安堵していた。
だが、グレンディルの抱いた疑念はどんどんと膨らんでいく。
(おかしい。機嫌がよすぎるっ……!)
前回の対応で、エフィニアはひどく機嫌を損ねたはずだ。
それなのに、今は不気味なほど穏やかに微笑んでいる。
素の彼女は、素直に喜怒哀楽を露にする少女だ。
幼竜の姿で会う時は、いつも嬉しそうに笑ったり、ぷりぷりと怒っていたりするのだから。
(何か、目的があるのか?)
彼女はこの場の者を欺いて、何かをしようとしているのだろうか。
気が付けば運ばれてきていたデザートのケーキを食しながら、グレンディルは傍目には無表情にエフィニアの様子を窺う。
小さな手でケーキを切り分け、行儀よく食した彼女は、フォークを置くとにこりと笑って口を開いた。
「差し出がましいようですが皇帝陛下。このエフィニアの望みを聞いてはいただけないでしょうか」
「……承知した。何でも申してみるといい」
「わたくし……陛下と二人だけで、皇宮のお庭を歩きたいのです」
エフィニアが恥じらいながらそう言った途端、グレンディルは思わず目を見開いた。
驚いたのはグレンディルだけではない。
食器を運んでいた使用人は派手に皿を割り、控えていた侍従の中には驚きすぎてうっかりブレスを吐いて壁を焦がした者もいる。
グレンディルは数秒の間放心したように、何度も頭の中でエフィニアの言葉を反芻した。
……エフィニアが、グレンディルと共に庭園の散策を望んでいるだと!?
(ま、まさか……よくわからないが彼女に俺の想いが通じたのか!?)
どう考えても大失敗だとしか思えなかった前回の食事会の後、何故だかわからないがエフィニアはグレンディルに好意を持ってくれたのかもしれない。
そうとなれば、いつまでも呆けているわけにはいかない。
傍目には何事もなかったかのように、グレンディルは淡々と口を開く。
「それが姫の望みならば、随伴しよう」
今までほとんど発揮する機会はなかったが、グレンディルは皇帝の教育の一環として女性のエスコート術も身に着けていた。
平静を装い手を差し出すと、エフィニアの白魚のように白くて小さな手がグレンディルの手に触れる。
少し力を入れれば壊れてしまいそうな小ささと柔らかさに、ゴロンゴロンと悶絶したいのを何とか堪え、グレンディルはエフィニアをエスコートする。
身長差がありすぎるので多少不格好になってしまったが、二人はまるで想いあう番同士のように庭へと繰り出したのだった。




