20 妖精王女、側室に襲撃される
「それで、ついに皇帝陛下に寵愛される御方ができたそうですよ。ただしどなたかまではわからないそうで……今日はどこもその話でもちきりでした!」
「そう…………」
興奮したイオネラがもたらした情報にも、エフィニアはたいして心を動かされなかった。
エフィニアの目下の関心は無駄に偉そうな皇帝よりも、いつの間にかいなくなってしまった小さな竜に注がれていたのである。
「窓が開いていたから、私が寝ているうちに帰ったのかしら……」
「大丈夫ですよ、エフィニア様。あの子はエフィニア様のことを覚えていて、会いに来てくれたんです。きっとまた来てくれますよ!」
「そうね、そう信じたいわ……」
朝から落ち込むエフィニアを、イオネラはあの手この手で慰めようとしてくれている。
そんな彼女の努力を無下にするのも忍びなくて、エフィニアは力なく微笑んだ。
そんな時、珍しく屋敷の呼び鈴が鳴った。
「あれ、どなたでしょう……。あっ、もしかして、小さいドラゴンちゃんの保護者の方が挨拶に来てくださったのかもしれませんよ!」
イオネラはウキウキと屋敷のエントランスに向かい、扉を開く。
だがその向こうに陣取っていた者たちを見て、ウサギ耳をぴょこんと揺らして悲鳴を上げた。
「ひいぃぃぃ!!?」
「どうしたの!?」
ただならぬ悲鳴に、エフィニアも慌ててエントランスへと足を踏み入れた。
そこで目にした光景に、驚きに目を丸くする。
「突然のご訪問をお許しください、エフィニア様」
「こちらにいらっしゃるのは、誰よりも勇敢で美しい獅子姫――レオノール様にございます」
「レオノール様が是非エフィニア様にお会いしたいと仰られまして、こうして来てやった次第です」
まるで用意していた台詞を読み上げるかのように、ずかずかと屋敷の中に入り込んだ者たちはそう告げた。
後宮の侍女が、三人。そしてその後ろに控えるのは……彼女らの仕える側室だろう。
「あなたたち……」
手前の三人の侍女は、エフィニアにも見覚えがあった。
かつてイオネラを虐めていた、獣人の侍女たちだったのだ。
「久しぶりね、イオネラ」
侍女たちの背後に控えていた美女が、へたり込むイオネラを見下しながらうっそりと笑う。
艶やかな黄金の髪から、ぴょこりと猫の耳が覗いていた。
おそらく彼女がレオノール姫――獣人の国、グラスランドの王女兼側室なのだろう。
彼女はあからさまにエフィニアたちを嘲るような態度を隠しもしていない。
普段なら気圧されてなるものか……と気を張る場面だが、エフィニアはどうにも彼女の頭上の可愛らしい猫耳が気になって仕方がなかった。
(猫の獣人? いえ、「獅子姫」というからにはライオンの獣人なのかしら。……あれ、でもライオンも猫の一種じゃなかったっけ。じゃあやっぱり猫の獣人でいいのかしら……?)
……などと割とどうでもいいことを考え込むエフィニアに、しびれを切らしたのかレオノールが近づいてくる。




