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113 竜皇陛下、この上なく動揺する

 目を開けると、グレンディルの体の上に乗っかったエフィニアが真っ赤な顔でこちらを見つめていた。

 ……つまりは、そういうことだ。最初からなんの誤解もなかったのだ。


 エフィニアがこんな扇情的な格好で、夜更けにグレンディルの部屋を訪れたのも。

 秘術を使ってまで急激に体を成長させたのも。

 普段のエフィニアからは考えられないくらいに積極的な行動を取るのも。

 すべては、グレンディルと円滑に彼女の言う「交尾」を遂行するためだったのだ。


(……いやいやいや)


 あまりにもグレンディルに都合がよすぎる。

 今すぐクラヴィスやイオネラが「実はドッキリでした~!」と札をもって室内になだれ込んできても、逆に驚かないかもしれない。

 それほどまでに、今の状況はグレンディルにとって青天の霹靂だったのだ。

 エフィニアはきゅっと唇を噛みしめて、じっとグレンディルの次の行動を待っている。

 だが、グレンディルは動けなかった。


 ……ずっと、自分を律してきたのだ。


 エフィニアはグレンディルからすれば信じられないほど小さく、脆い。

 ほんの少しでも傷を負わせたら彼女が死んでしまうのではないかと、心のどこかで常に恐れていた。

 だからこそ、「運命の番」を求める本能に抗ってでも、彼女には必要以上に触れないようにしてきた。

 もしもグレンディルが理性を飛ばしてエフィニアを欲したりしたら、彼女が無事でいられる保証はない。

 竜族と妖精族の間には、それほどまでに圧倒的な差異があるのだ。


 そうわかっていたからこそ、グレンディルはずっとエフィニアを大切にしながらも、境界線を引いてきた。

 だが今、その境界線をエフィニアの方から踏み越えようとしている。


 グレンディルの方からも、彼女の手を伸ばすべきなのだろうか。

 そのようなことが、許されるのだろうか。

 ぐるぐると思案し、動かないグレンディルに、だんだんとエフィニアの表情が険しくなっていく。


「……っぱり」

「エフィニア……?」

「やっぱり、そうなんですね!」


 熟れた林檎のように顔を赤く染め、エフィニアはまるでやけくそになったかのように叫んだ。


「やっぱり陛下はミセリア様やエリザード様みたいな出るところが出たセクシー系美女にしか興味ないんでしょう!?」

「いきなり何を言っている!?」

「私なんて多少身長が伸びてもついてほしいところに肉はつかないし! こんなに迫っても陛下は平然としていらっしゃるし!」


 まったくそんなことはない。

 むしろ動揺しすぎて逆に動けなかっただけだ。

 だがエフィニアにはそんなグレンディルの態度が、「いくら成長しても自分に興味がない」ように映ってしまったようだ。


「やっぱり私には魅力なんて欠片も感じていらっしゃらないんですね! よくわかりました! 帰ります!!」


 羞恥にか怒りにか、目に涙をいっぱいにためてエフィニアはそんなことを口走った。

 そのまま寝台から降りようとしたエフィニアの腕を、グレンディルは慌てて掴む。


「待て!」


 魅力を感じていない? 迫っても平然としている? ひどい勘違いだ!


 ……グレンディルが理性で本能を押さえつけるのに、どれだけ苦労していると思っている。


 そんな怒りが、不満が、目の前の番を逃がしてなるものかという執念が。

 ほんの一瞬、本能に理性を凌駕させてしまった。


「きゃっ!」


 出て行こうとしたエフィニアの腕を勢いよく引っ張り、倒れてきた細い体を寝台へと押し付ける。

 そのまま彼女に覆いかぶさり、先ほどとは逆に見下ろすような体勢になる。

 グレンディルの変貌に、エフィニアは驚いたように目を見開く。

 その吸い込まれるような瞳と視線が合ってしまったら、もう駄目だった。


「んひゃあ!」


 気が付けば、グレンディルは本能のままに彼女の細い首筋にかぶりついていた。

 初めて会った時のような甘噛みとは違う。

 彼女は己の番なのだと誇示するような、荒々しいマーキングだ。

 これが「運命の番」を求める本能なのだと、グレンディルは心のどこかで納得した。


 ……夢中だった。

 はっと気が付いた時には、最初はグレンディルを押し返そうとしていたエフィニアの抵抗もなくなっていた。

 我に返った途端に、襲ってきたのは猛烈な後悔だ。

 グレンディルの下で、エフィニアはシーツに顔を押し付けるようにして震えている。

 多少大きくなったとはいえ、グレンディルとエフィニアの間にはまだまだ圧倒的な体格差がある。

 エフィニアからすれば、肉食動物に急所を押えられ喉笛を噛みちぎられる直前の草食動物のように、生きた心地がしなかったことだろう。


 ……怖がらせてしまった。怯えさせてしまった。


「エフィニア……」


 後悔を滲ませた声でそう呼びかけると、エフィニアはそっと顔を上げグレンディルの方を向く。

 その顔は恐怖に震え蒼白……ではなかった。

 頬は上気し、とろんとした目はまるで何かをねだるような色を帯びているようにも見えた。

 ……いや、きっと自分に都合のいい勘違いだろう。

 そう言い聞かせようとしたグレンディルの理性を粉々に砕くように、エフィニアは更にとんでもないことを口にする。

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