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105 妖精王女、真実に気づく

「グレン様……!?」


 幻か何かかと思い、エフィニアは何度もぱちぱちと瞬きをする。

 だが、グレンディルの姿は消えなかった。

 グレンディルもエフィニアに視線を向け、何か言おうと口を開きかけたが――。


「グレンディル……!」


 今まで聞いたことのないほど怨嗟にまみれた声がすぐ傍から聞こえ、エフィニアは思わずびくりと身を竦ませた。

 見れば、ベリウスがとんでもない形相でグレンディルを睨みつけている。

 普段の上品で優雅なベリウスはどこにもいなかった。

 今の彼は「グレンディルのことが憎くて仕方がない」といった顔をして、憎悪を剥き出しにしている。


「なぜおまえがここに!」

「エフィニアを迎えに来た。それだけだ」

「え、私?」


 思わずそう口にすると、グレンディルが不服そうな顔をする。


「まったく君は……俺がどれだけ探し回ったと思っている」

「だって、私のことなんてもう忘れたのかと……」

「そんなわけないだろう!」


 心外だとでも言うように、グレンディルは即座にそう吐きだす。


「君の行き先――親族の中で俺に恨みをもってそうな奴を順番にボコってきた。まさかここだとは思わず、遅くなってすまなかった」

「え……?」


 つまりは……グレンディルはずっと、エフィニアを探してくれていたのだろうか。

 そう考えた途端、胸の奥からあふれ出すのは歓喜だった。

 あまりにも現金で、自分でも呆れてしまいそうだ。


「まさかそこの腑抜けが、こんな大それたことを仕出かすとは思わなくてな」

「あ?」


 グレンディルの馬鹿にしたような言葉に、ベリウスが地を這うような声を出す。

 だがグレンディルは怯むどころか、見下すように続ける。


「雑魚の癖に卑怯な小細工だけは一人前だな、ベリウス。こんな小賢しい真似をしなくても、皇帝になりたいのなら直接俺に挑んで来い」

「なっ……貴様!」


 グレンディルの挑発に、ベリウスは怒りをあらわに掴みかかろうとする。

 その時だった。


「ベリウス様! 何事ですか!? ……えっ」


 ステンドグラスが割れる音を聞きつけたのだろう。

 駆けつけたのはエリザードだった。

 だが彼女もまさかグレンディルがいるとは思わなかったのだろう。

 グレンディルの姿を目にした途端、驚いたように手で口を覆った。


「…………」


 グレンディルもじっとエリザードを見つめている。

 ……彼女のことを覚えているのだろうか。

 一度は愛を交わした相手だと気づいたのだろうか。

 そんな考えが頭をよぎり、エフィニアは胸を痛めたが――。


「…………誰だ?」


 グレンディルの口から出てきたのは、そんな薄情ともいえる言葉だった。


「えっ、覚えてないんですか!?」

「いや……どことなく見覚えがあるような気はするが、どこの誰だかは……」


 不可解そうな顔をして首をかしげるグレンディルに、エリザードの表情が一瞬だけ引きつる。

 だが彼女はすぐに目を潤ませ、同情を誘うような声を出しながら近づいてきた。


「そんな……グレンディル陛下、お忘れになったのですか? あの情熱的な夜を!」

「知らん、人違いだ」

「違います! 人違いではありませんわ! そこの坊やがわたくしたちの愛の結晶ですもの!」


 エリザードは勢いよくナンナの腕に抱かれたクロを指さした。

 だがグレンディルは不快そうに眉根を寄せ、一蹴した。


「何を言っている。そいつは俺じゃなく、ベリウスの子だろう」

「…………え?」


 おそらくこの場で彼の言葉に一番驚いたのはエフィニアだった。


「な、なにを言っているんですか……? だってクロはどう見ても陛下に瓜二つで――」

「俺に……というよりも曾祖父にそっくりなだけだ。隔世遺伝という奴だな。皇宮に帰ったら肖像画を見てみるといい。曾祖父も俺もその子も同じ顔をしている」

「えぇ……?」


 にわかには信じがたい話だが、グレンディルの態度は堂々としておりとても嘘をついているようには見えなかった。

 だがエリザードはわなわなと体を震わせ、甲高い声を上げた。


「でっ、でたらめですわ! その子は確かにわたくしとグレンディル陛下の子です!」

「っ……その声――」


 ぎゃんぎゃんと喚くエリザードに、グレンディルは何かを思い出したかのように目を丸くする。

 今度こそエリザードとの熱い夜を思い出したのかとエフィニアは身を固くしたが――。


「俺が皇帝に即位する前に追放したストーカー女だな。その耳障りな声で思い出した」

「えっ!?」


 あまりの言い草にエフィニアはまたもや驚いてしまう。

 そんなエフィニアに説明するように、グレンディルは続けた。


「戦場だろうがどこだろうがべたべたまとわりついてきて、挙句の果てに媚薬を盛ろうとしたり夜這いに来たりして鬱陶しかった女だ。邪魔だから帝都に出入り禁止にしておいたが、ベリウスのところにいたとはな」

「そ、そんなことが……」


 グレンディルの言葉に、エリザードは羞恥と悔しさを滲ませ表情を歪める。

 どんな言葉よりも雄弁に、その表情が今の言葉が事実だということを物語っていた。


「じゃあ、クロはベリウス様とエリザード様の子……?」

「いや、違うだろう」


 グレンディルは優しくエフィニアを見つめ、諭すように告げる。


「クロの態度を……それに誰が一番あの子を愛し、守ろうとしているかを考えれば一目瞭然だ」

「ぁ…………」


 その言葉に、頭の中のピースがはまったような気がした。

 ここへ来てから、クロが誰に一番心を許していたか。

 誰が一番クロの身を心配していたか。


「ナンナ……」


 思い当たる人物はたった一人だけだ。

 その名を呼ぶと、ナンナは気まずそうに俯いた。


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