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09 崩壊のはじまり

09 崩壊のはじまり


 『特別区』。

 その始まりは、いくつかのギルドが集まってできた小さな集落であった。


 やがてギルドの影響力が多大なるものとなり、『特別区』は肥大化。

 とうとう独自の法治を形成し、ひとつの国家となってしまった。


 『特別区』ではギルドの格付けによって権力が異なり、世界一のギルドは城が与えられる。

 要するに、ギルドの数だけ王城が存在するのが、この『特別区』であった。


 そこはさながらこの世界の権力の中枢。

 大国の王でさえ毎年、この『特別区』に表敬訪問するほどであった。


「ディド・ユー・ノウ?

 現在、この特別区はなんと言うかご存じですかな?」


「も……もちろん知っておるとも、ディド君!

 『ワールド・オーダー特別区』であるな!」


「そう。邪竜を討伐したことにより、『ワールド・オーダー』が内包していたギルドのほとんどが世界一に昇格したのです。

 『賢者ギルド』のトップである我も、こうして一国一城の主となりました」


 『特別区』の中枢にあるスマートでインテリジェンスな外観の城。

 『叡智の城』と呼ばれる城の玉座に、大賢者ディドはいた。


 大国の王にさんざん自慢話を聞かせている最中、ディドは傍らにいた家臣から耳打ちされる。

 ディドは足を組み直すと、王に言った。


「……ちょっと、急用ができました。悪いが、会談はここまでということで」


「な……!? わ、私は国王だぞ!? 他国の王との会談を打ち切るなど、考えられんことだ!

 謁見場での会談というだけでも、かなりの無礼であるというのに!」


「ディド・ユー・ノウ? 我は、『会談はここまで』と言ったのです。

 それとも、『謁見はここまで』と言ったほうが、理解できるかな?」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 失礼極まりない態度で、他国の王を一方的に追い返したディド。

 彼は家臣に命じ、賢者の門下生たちを呼びつけていた。


「ディド・ユー・ノウ? キミたちが呼んだ理由がわかるかな?」


 若き賢者たちは、我先に手を挙げて答える。


「は……はい、ディド様!」


「ブライトフォールの山で見つかった、新しい洞窟の探索結果についてですよね!?」


「お喜びください! 銀剣が50本も見つかりました!」


「ディド・ユー・ノウ? 以前の『ワールド・オーダー』なら、それで大収穫と言えただろう。

 でも今のこのギルドにおいて、銀剣50本などたいした足しにならない。

 そのうえキミたちは落とし穴の罠に嵌まり、救助隊に助けられたそうではないか。

 門下生とはいえ、賢者が罠に嵌まるなど、いい笑い者になるところだ」


 ディドに冷たく突き放され、門下生たちはしゅんとなる。


「だが幸いにも、記者にバレる前に対応ができたおかげで、この不祥事は漏れずにすんだ。

 しかしそんな事よりも、キミたちはもっと公にしないといけない事があるのではないか?」


 「うっ」と身を固くする門下生たち。


「そう、聖櫃だ。救助隊の報告によると、落とし穴の奥には開放された聖櫃があったそうではないか。

 聖櫃といえば、相当なレアアイテムが入っていただろう。……それを、どこへやったのだ?」


 ディドの言葉は静かであったが、刃物のように鋭かった。

 門下生たちは「ひいっ!?」と震えあがり、とっさにごまかした。


「そ、それが、アストラルのヤツが横取りしたんです!

 それはもう、汚い手を使って!」


「あっ、でも、一緒に連れていたエルフの聖女、ピュリア様は絶世の美しさでした!

 ディド様もきっとお喜びになるかと思って、ここにお連れしようかと思ったんです!」


 門下生たちは、自分たちの失態を隠そうと必死だった。

 しかし、あるひとりの門下生の発言が、地雷を踏んでしまう。


「で、でも、断られてしまって……! ディド様よりもアストラルのほうがいいなんて言ったんですよ!?

 信じられないですよね!? ディド様を振る女がいるだなんて!」


 ピクリ、とディドの眉が揺れた。


「ディド・ユー・ノウ? ご婦人というのはみな、脳に欠陥がある生き物なのだ。

 でもそんなご婦人であっても、『ワールド・オーダー』と、我の素晴らしさを理解している。

 我を振ることができるご婦人など、この世に存在しない。

 しかも天秤の反対側にいる男が、ブレイガンのような勇者ならば、いざしらず……。

 ニセ占い師のアストラルなど、それは乗っていないも同然なのだ」


 ディドは、ナチュラルに女性を見下している男であった。

 そしてプライドの高い男でもあったので、自分を鼻にもかけない女性がいるなどとは、全く信じていない。


「我にそんなウソが通用するとでも思ったのか。

 存在せぬご婦人を作り上げて、我の気をそらし、自分たちの失態を誤魔化そうなどとは……。

 誇り高き賢者にとって、あるまじき行為である。

 キミたちはみな降格だ。下っ端のトイレ掃除からやりなおせ」


「えっ……ええええええーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


「お待ちください、ディド様! 僕たちはずっと、見習いとしてがんばってきたんです!

 それなのに、たった1回の失態で降格なんて……それも最下級に降格だなんて、あんまりです!」


「ディド・ユー・ノウ? 『ワールド・オーダー』は世界一のギルドとなったのだ。

 そして世界一というのは、些細なミスも許さないという意味でもある。

 それに世界一となった今、我の門下生になりたいという賢者の卵たちが押し寄せてきている。

 キミたちのかわりなど、いくらでもいるのだよ」


「そっ……そんなぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 憐れ……! 門下生たちはアストラルにチョッカイをかけたばかりに、エリートコースから脱落……!

 一気に、下働き同然の立場に……!


 これは『ワールド・オーダー』の賢者部門における、ほんの崩壊の序章に過ぎない。


「……ディド・ユー・ノウ? いつから自分を、唯一無二の存在だと錯覚していた?

 この世界において、かわりのいない存在など、存在しないのだよ。

 もちろん、この我……ディドを除いてね」


 彼はもう間もなく、思い知ることになる。

 本当のオンリー・ワンが、誰なのかを。

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