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07 レアアイテム入手

07 レアアイテム入手


 僕は『アカシック・レコード』で、この新しい洞窟が発見されたというトピックを見つける。

 そこには、ディドの門下生たちが探索に当たっているという情報も書いてあった。


 さらに、洞窟の構造を『アカシック・レコード』で調べ、最深部の先に隠し部屋があるというのを突き止める。

 僕が『ワールド・オーダー』にいる頃は、こうやって地下迷宮(ダンジョン)の隠し部屋を調べ、ギルドメンバーたちに伝えていた。


 僕がいなくなった今は、うわべだけの探索しかできなくなっているようだ。

 愕然とする賢者たちをよそに、僕は聖櫃へと近づく。


 重い石のフタをずらしてみたら、光があふれだす。

 「あ……あの光……!? 間違いねぇ、超レアアイテムだ!」と誰かがつぶやく。


 中は聖女のローブと、魔術師用の短杖(ワンド)が入っていた。


 聖女のローブはシルクのような肌触りで、高位の聖女を示すような装飾が施されている。

 樫の短杖は地味な見た目だが、魔術師でない僕でも感じ取れるほどの圧倒的な魔力がある。


 「おお……!」と息を吞む声がする。


「す、すげぇ……! あんなすげえ装備があっただなんて……!」


「あのローブ、トキシック様にピッタリだ!」


「ディド様は杖コレクターだから、あの杖を献上したら、きっと喜ばれるぞ!」


「お……おい! アストラル! その装備をよこせ!

 そうしたら、『ワールド・オーダー』に戻れるように取り計らってやる!」


「そうだ! お前みたいな万年タキシードのホラ吹き野郎に、そんな装備はもったいねぇ!」


 「それはできない相談だな」と僕は即答する。


「このローブはトキシックよりも似合う人物がいるから、その人物にプレゼントするつもりだ」


 「ハッ!」とバカにするような賢者たち。


「おいおい、トキシック様は『ワールド・オーダー』の聖女ギルドのトップなんだぞ!

 ということは、世界一の聖女様ってことになる!」


「世界一の聖女様より聖女のローブが似合う女なんて、この世にいるもんか!」


 僕は答えかわりに、邪魔にならないように片隅に佇んでいたピュリアを手招きする。

 何事かと不思議そうな顔で、ぱたぱたと寄ってきた彼女に、ローブを差し出す。


「このローブは、キミが身に付けるのがもっとも相応しい」


 「ええっ!?」と、頭巾からエルフ耳が飛び出すくらいにピーンと立て、仰天するピュリア。


「わたくしみたいな醜い者に、そんな奇麗なお召し物はもったいないです!」


「キミは自分が醜いと思っていたのか。だとしたら、それは大きな間違いだ。

 論より証拠、彼らを黙らせるためにも、これを着てみてくれないか」


「そ……そこまでおっしゃるのでしたら、かしこまりました……」


 ピュリアは部屋の奥にある暗がりへと歩いていくと、誰からも見えない場所で着替えはじめた。

 賢者たちはクスクス笑う。


「なんだアイツ、モヤシ男かと思ったら女だったのか」


「頭巾なんて被ってるから、どうせひどいツラなんだろうぜ」


「でもちょうどよかったじゃねぇか。

 あのへんな女にローブが似合わないってわかったら、ローブを奪う口実ができるからな」


「出てきたら、思いっきり笑ってやろうぜ」


 数十分ほどして、物陰からほのかな光が漏れる。

 初めてウエディングドレスを着た花嫁のように、ぎこちない足取りで出てくるピュリア。


「き……着させて、いただきました……」


 その瞬間、この世からすべての音が消え去ったかのように、沈黙が流れた。

 呼吸の音すらも無くなっていたのは、誰もが息をするのも忘れていたからだ。


 それほどまでに、聖女のピュリアは美しい……いや、神々しかった。

 「め、女神様だべ……!」とコメッコがつぶやく。


「や、やっぱり、へんですよね? き、着替えてまいりますね」


 恥ずかしげに顔を伏せ、物陰に戻ろうとするピュリアを、いくつもの声が呼び止めた。


「ま……待て! いや、お待ちください!」


「し、失礼しました! あなた様のようなお美しい聖女様が、こんな場所におられるとは思いませんでしたので!」


「我らは世界一のギルド『ワールド・オーダー』の賢者です!

 ぜひ、我がギルドにお越しになっていただけませんか!?」


「あなた様ほどのお方なら、すぐに幹部となれるでしょう!

 ブレイガン様はディド様も、きっとお気に入りに……!」


「あなた様は世界一のギルドに入れるゴールデン・チケットを手に入れられたのです!

 さあ、今すぐ我々といっしょに……!」


 「えっ?」とピュリアは振り返る。月光のように輝く見返り姿も、あまりにも美麗だった。

 彼女は迷う様子もなく「誠に申し訳ございません」と頭を下げる。


「わたくしはアストラル様の奴隷ですので、アストラル様のおそばにいなくてはならないのです」


 顔をあげたピュリアは胸に手を当て、身も心も捧げたような表情で続ける。


「いいえ、アストラル様のおそばにいさせていただきたいのです。

 それだけが、このピュリアの幸せなのでございます」


 賢者たちは「うそだろ……」と唖然とする。


「今や『ワールド・オーダー』は、世界中の聖女たちの憧れなのに……」


「『ワールド・オーダー』に入れてやるっていったら、どんな聖女でもホイホイついてくるのに……」


「しかも世界最高の男、ブレイガン様とディド様の名前まで出したんだぞ……」


「あのふたりを蹴るだなんて、いったい何を考えてるんだ……?」


 賢者というのはほとんどが良家の出身なので、『ブランド至上主義』の考えが強い。

 いくら考えを巡らせたところで、ピュリアの気持ちなどわかるはずもないだろう。


 彼らはその理不尽を、僕に押しつけた。


「そうか、わかったぞ! アストラルに脅されているんだな!」


「そうだ、そうに違いない! きっと彼女を暴力や恐怖、もしくは大切な何かを(しち)に取って脅しているんだ!」


「ホラ吹き野郎のやりそうなことだ! みんな、ピュリア様を助け出すぞ!

 俺たちの力があれば、ホラ吹き野郎なんてイチコロだ!」


 ざっ! と構えをとる賢者たち。

 絡み方はほとんどゴロツキだが、その性質はだいぶ違う。


 賢者といえば、魔術の使い手だ。

 相手がほんの数人であれば、攻撃魔術の詠唱を攻撃してやればなんとかなる。


 でもこの数を僕ひとりで邪魔するのは厳しいだろう。

 ピュリアとコメッコがほぼ同時に飛び出してきて、「お……おやめになってください!」「だめだべーっ!」と僕を庇おうとしてくる。


 しかし僕はふたりを抱き寄せ、脇に寄せた。


「危ないから、ふたりとも後ろに下がっているんだ。僕なら大丈夫だから」


「へっ、ピュリア様の前でいいカッコしようとしてるのかよ!」


「これだけの賢者相手に、どうやって戦うってんだ!」


「得意のホラは、俺たちには通用しねぇぞ! なんたって俺たちは『賢き者』なんだからな!」


 賢者たちの手の内で、炎や稲妻ができあがっていく。

 でも僕は少しも慌てず、


「『賢き者』なのであれば、いま自分が立っている場所にも気を配るべきだな」


 ……コツン!


 とステッキで床の一部を叩くと、賢者たちのいた床が薄氷のようにヒビ割れ、一瞬にして沈下する。


 ……ずどごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!


「うっ……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 賢者たちは愚者のような絶叫とともに、土煙の中へと消えていった。

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