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01 すべての過去と未来を見通すスキル

01 すべての過去と未来を見通すスキル


 世界の果てのような深淵の洞窟に、僕はいた。

 愛用のタキシードの白さすらわからないほどの暗闇のなかで、両手を広げる。


万象(ネイト)! 真理(トゥルー)! 審判(ジャッジメント)

 天地開闢よりありし銀の月、その鱗粉満ちるところに我はあり!

 永久不変の月輪(がちりん)をもって、衆生の(いまし)めを解き放て!

 神智なる聖餐論(アカシック・レコード)!」


 僕の全方位にステンドグラスのような無数の窓が出現。

 ほのかな光が生まれ、僕は七色に輝きはじめた。


 照り返しを受けている周囲の仲間たちから、「おお……!」と驚嘆の声がおこる。

 僕は彼らに向かって笑いかけた。


「ウェルカム・トゥ・オーバーグラウンド……!」


 そして続けざまに、白手袋をはめた手を(ウインドウ)にかざす。

 手を右から左に払うように動かすと、その動きに連動するかのように、ウインドウの群れは左へと流れていく。


 次から次へと現れるウインドウは、どれも絵と文字でびっしりと埋め尽くされていた。

 その中から目的の『情報』を探し当てたので、ウインドウの流れを止める。


 僕は周囲で固唾を飲んでいる仲間たちに向かって言う。


「やはりここは洞窟の最深部だ! この先に邪竜がいる! 閃光弾準備!」


 しかし、「待て」と僕の前に立ちはだかる者たちが。

 筆頭は、片眉を吊り上げた勇者ブレイガンだった。


「おいアストラル、勝手に仕切んじゃねぇよ」


 勇者のとなりにいた賢者ディドが、小馬鹿にした様子で後を引き継ぐ。


知っていますか(ディド・ユー・ノウ)

 作戦の指示は、優秀な上級職である我々ですることになっているのですよ」


 彼らと肩を並べている女性、姫騎士エンプレスも賛同していた。


「その通りですわ。アストラル、それにあなたは、()下級職のうえに()支援職でしょう。身の程をお知りなさい」


 勇者、賢者、姫騎士……3人とも、僕の所属しているギルドの幹部たちだ。

 近隣諸国でも知らぬ者がいない高名なる一族、ギルスター家の末裔たちでもある。


 そうそうたるメンバーに、周囲のギルド員たちは気圧され、息すらも殺していた。

 しかし僕は幹部たちとは旧知の仲だったので、臆せずに言う。


「身の程を主張したつもりはない。そのほうが効率が良いと判断したまでだ。

 ではこれから、この先にいる邪竜の行動を伝えるから、みなにその旨を指示してほしい」


 僕は愛用の眼鏡をひとさし指でクイと直し、ひと呼吸おいてから続けた。


「閃光弾の後は、邪竜は咆哮をする。

 しかしこの咆哮は、光でやられた目を回復させるための時間稼ぎの威嚇だ。

 構わずに特攻することにより、容易に接近が可能となり、先制が取れる。

 そして外見からはわかりにくいが、邪竜はこちらから見て左腕と右脚を負傷している。

 弓矢部隊は主に左側を、近接部隊は右側を攻撃すると、うまく噛み合うだろう。

 あとは……」


 焦れた様子で勇者が口を挟んでくる。


「おい、その『なんとかレコード』とかいうスキルの、へんな占いは当たるんだろうな?」


「これは占いではなく、過去の事実からの予想だ。

 もちろん絶対ではないが、今まで僕の『アカシック・レコード』が外れたことがないのは、キミもよく知っているはずだ」


「チッ、今回は今までのザコと違って邪竜なんだからな。もしハズれてたらブチ殺すぞ」


 勇者は背を向けて話を打ち切ると、息を潜めて見守っていたギルドメンバー全員に告げる。


「よーし、それじゃいっちょブチかますとするか!

 この先にいる邪竜をブチ殺せば、俺様のギルド『ワールド・オーダー』は世界一のギルドになれるんだ!

 死んでもかまわねぇから、死ぬ気でかかれっ!

 もし途中で逃げようだなんてヤツがいたら、この俺様がブチ殺してやるっ!

 荷物持ちどもっ、閃光弾準備だっ!」


 集団の最後尾にいた、粗末な身なりに大きなリュックを背負っていた者たちが動き始めた。

 洞窟の奥に向かって、閃光弾をつがえた弓を引き絞る。


「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 無数の羽虫が飛び立つような音とともに、暗闇に吸い込まれる矢。


 直後、爆風とともに光が押し寄せ、すべてを白日の元に晒す。

 行く手は海のように広大な室内になっていて、床一面は白骨で埋め尽くされていた。


 そしてその最深部には、漆黒の邪竜が。

 その、災いをもたらすタタリ山のような佇まいに、誰もが後ずさる。


 僕は叫んだ。


「みんな、なにをしている! 邪竜の目がやられている今がチャンスだ!

 早く攻め込まないと、近づくこともできなくなるぞっ!」


「う……うるせえ! そんなのはわかってる!

 みんな、突撃だぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」


「お……おおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 勇者のかけ声とともに、近接部隊が蛮声とともに邪竜に挑みかかっていく。

 勇者はその様子を、ただただ見守っていた。


 僕は信じられない気持ちでいっぱいになる。


「ブレイガン!? なにをしている!? 早く、弓矢部隊に攻撃指示を!」


 勇者はハッとなって、僕の言葉を振り払う。


「わかってるって言ってるだろ! おい、弓矢部隊! なにボーッとしてやがる!

 さっさと攻撃しろ! どこでもいいから撃ちまくれっ!」


 すると弓矢部隊は好き勝手に矢をつがえ、邪竜に向かって撃ちはじめる。


「待て、左側を狙うんだ! 右に撃つと、近接部隊に当たってしまう!」


「バカ野郎っ! 俺様は左側を狙えって言っただろうが! 右に撃ったヤツはあとでブチ殺してやるっ!」


 指示の遅れとミスのせいで、戦いの序盤は冷や汗モノだったが、弱点を突かれた邪竜は次第に追い込まれていく。

 僕はアカシック・レコードの未来予測で、邪竜のこの先の行動を()通し、勇者に伝えた。


「ブレイガン! 邪竜はこれから、天井に向かって火炎弾を吐く!

 そうなると、弓矢部隊は落盤に巻き込まれて全滅だ! 弓矢部隊を現在地から移動させるんだ!

 そのあとは、邪竜の首が……!」


「テメェ、さっきからうるせぇんだよ! 下級職のクセして、この俺様に命令すんな!」


「今はそんなことを言っている場合ではないだろう!? 早くしないと……!」


「ふざけんな! 今度そんな口を聞いたらブチ殺すぞ!」


 勇者がどうでもいいことを怒鳴り散らしている今にも、邪竜の口は今にも火を吹きそうだった。

 僕は勇者を無視する。


「弓矢部隊、9時の方角へ移動せよっ! 早くしないと、落盤が来るぞっ!」


 直後、邪竜の口から隕石のような火の玉が放たれ、天井を穿つ。

 洞窟内が激しく揺れ、崩落した岩が降り注ぐ。


 雨の中を逃げ惑うアリのような弓矢部隊。

 あと少しでも命令が遅れていたら、落盤の下敷きになっていたが、辛うじて負傷者を出さずにすんだ。


 僕はホッと胸をなで下ろしたが、勇者は鬼のような形相をしていた。


「俺様をさしおいて命令するとは、何様のつもりだっ!

 もう我慢ならねぇ、ブチ殺してやるっ!」


 勇者が腰のエモノを引き抜こうとした瞬間、


「ギャォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!」


 邪竜の断末魔が、僕らの耳をつんざいた。

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