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14:過去と今を繋ぐ

 ユフィリアの一声で私たちは応接間へと場所を移した。

 イリアとレイニが手早くお茶の準備を整えている間、私はユフィリアと向き合うことになった。


 改めて観察すればするほど、ヴィオレーヌの面影が見える。ヴィオレーヌと比べれば可憐な佇まいではあるものの、それなのに不思議と懐かしくなってしまう。

 振る舞いはイリアの方が似ているのは侍女という立場だからなのだろうか。イリアの色彩がユフィリアと同じ色であれば、私はそちらの方がヴィオレーヌに似ていると思っただろう。

 もしヴィオレーヌが子孫を残していたとして、長い時間が流れているのだから思わぬ血の縁があっても不思議ではない。


「……そんなにお知り合いと似ていますか? 私たちは」

「あぁ、よく似ているよ」

「どんな御方だったのですか?」

「リュミの専属従者だった。王にも才能を認められた、王に続く精霊契約者の内の一人だった」

「精霊契約者……当時は国王やリュミの他にどれだけ精霊契約者がいたのでしょうか?」

「十名ほどだな」

「十名もいたのですか」


 十名を多いと取るか、少ないと取るかは判断が悩ましい所だろう。しかし、国に一人いれば他国の侵略を恐るるに足らずと言えた精霊契約者が十人もいたのだから多いとするべきだろう。

 そう思えば、やはり当時のパレッティア王国は魔の巣窟だと言われても否定はできなかった。


「十名もいたが、ほとんどはこの世を去っている。私やリュミが直接、討ち倒した者もいれば初代国王の死に殉じて自ら魂を還した者もいる。リュミを除けば、その一人が私の代で最後の精霊契約者であっただろう」

「その方が私とよく似ていると。もしかしたら私のご先祖様なのかもしれませんね。私はリュミに精霊契約者としての素養があるとリュミに認められていたので、その縁があったからなのかもしれません」

「なるほど。……ヴィオレーヌという名に聞き覚えは?」

「……いえ、覚えがありませんね」

「そうか……そういえば、ユフィリア女王は養子と聞いている。元々は貴族の家の出だとか?」

「はい。私はマゼンタ公爵家の娘でした」


 マゼンタ。その家名を聞いて私は目を見開いてしまう。やはり、と思わずにはいられなかった。


「マゼンタ公爵家。……なるほど、ヴィオレーヌのことだ。己の名を残すことを厭った可能性も考えれば、それも納得だ」

「それは、どういう意味でしょう?」

「ヴィオレーヌの家名はマゼンタだったのだ」


 私の返答にユフィリアが目を丸くした。隣でアニスフィアもビックリしたような表情を浮かべている。


「……記録に残っていない以上、真実かはわかりませんが……」

「あぁ、そうだな。ヴィオレーヌが名前だけ与えた可能性もある。そして、実際に子孫であるかどうかが問題ではないのだ。私たちが残したものが現代まで続いているという事の方が重要だからな」


 しかし、もしヴィオレーヌが子供を為していたとするなら興味深い。一体、誰とそんな関係となったのか想像が出来ない。

 旅に出ることを選ばなければ確かめることが出来たのだろう。そう思うと少しだけ寂しさ混じりの複雑な感情が胸に過っていった。


「でも、リュミは何も言ってなかったよね」

「ユフィリアとヴィオレーヌは色彩が似ているだけだからな。そこに私は面影を見出してしまうが、容姿や雰囲気で似ていると言うならイリアの方が似ているな」

「はぁ……」


 お茶の用意を終えたイリアが何とも言えないような曖昧な表情を浮かべていた。

 そんなイリアに気にした様子もなく、アニスフィアが身を乗り出すようにしながら更に問いかけてくる。


「ヴィオレーヌってイリアにそっくりだったの? リュミの侍女って言ってたけど」

「あぁ。侍女なのだから立ち振る舞いが似ていると言われればそうなのだろうが……」

「どんな性格だったの?」

「……一言で言うなら、辛辣?」

「辛辣……?」

「ヴィオレーヌはリュミのお目付役でもあったからな、とにかく私への当たりが強かったな。リュミはあれでも王族な訳で、当時は王城にも上がるような身分ではない私を訪ねて何度も街を降りてきていたのだ。かといって精霊契約者の行動を阻むなんて同じ精霊契約者でもなければ不可能で、それもあってヴィオレーヌがお目付役だったのだろう。よくリュミも折檻されていた。私は容赦ない小言の嵐の後に、これ見よがしに溜息を吐かれていたな」

「……それで辛辣?」

「王家への忠誠や義務もあったのだろうが、あの辛辣さはただの素だ。いつも済ました顔をしていたが、腹の底では世の中全てに対して斜に構えていた皮肉屋だったし、加えて天の邪鬼の気もあった。とにかく素直になれない奴だったのだ」


 私がそう言うと、アニスフィア、ユフィリア、レイニの視線がイリアへと集中した。

 イリアは自分に視線が集まっていることに気付いて、これでもかと言うぐらいに仏頂面を浮かべた。


「……何故、私を見るのです?」

「……いえ、リュミをアニスと見たてるとなんとなく想像しやすいかと思って」

「イリアも結構、世の中に対して斜に構えてるし、素直になるのも下手だよね」

「ふ、二人とも……」


 自分も視線を向けていたが、流石に気まずかったのかレイニが場を収めるために二人を諫める。

 すっかり臍を曲げてしまったかのように仏頂面を浮かべているイリアを見ていると、尚更ヴィオレーヌに似ているように思えてしまうので不思議なものだ。

 こうして見ていると私の子孫と、ヴィオレーヌの子孫かもしれない子供たちが一緒にいるのかと思うと感慨深くなってしまう。


「貴方の目から見て、王都はどうでしたか?」


 不意にユフィリアが話題を変えるように私へと問いかけてきた。

 その問いかけに私は一度目を伏せる。それからゆっくりと息を吐き出しながら目を開いて、アニスフィアを見る。


「……懐かしいと、そう思えた。変わった部分も多かったが、それでもここには昔あったものが息づいていると感じることが出来た。だから帰ってきたと、そう思えたな」


 あぁ、そうだ。私は帰ってきたのだ。この国に、この城に。その実感が鮮明になっていく。その思いを噛み締めるように己に刻みつける。

 体感としてはそんなに長い旅ではなかっただろう。それでも時の流れは針を進めていた。その遠い旅を経ても変わらないものがあった。

 私はそれが嬉しかったのだと思う。同じぐらいに安堵もしたのだろう。これで何も面影が残っていなかったら一人だけ、世界に置き去りにされてしまったように感じてしまったかもしれない。


「この国は、貴方にとって未来の続きに相応しい国となっていましたか?」


 続けて重ねられたユフィリアの問い。その問いを投げかけるユフィリアの表情は真剣そのものだった。

 それに対して私は口元を緩めるように笑ってから、答えを返す。


「掛け値なしに良き国になっていたと言える。だからこそ、私は私の後に続いた君たちのことを誇りに思うよ」


 決して楽な道ではなかっただろう。私の時代でも精霊契約者を頂点とすることは排せても、人には魔法の力が必要だった。

 その魔法の力が長き時間をかけて歪な構造を作ってしまった。それを正しいと思える形に修正したのがアニスフィアとユフィリアなのだろう。

 アニスフィアにも語った通り、この国の在り方は私の願いの先にあるものだと思える。思いと願いは引き継がれ、そして魔法の在り方させも変わろうとしている。

 だからこそ、成し遂げた彼女たちを私は誇りに思う。その一人が私とリュミの血を受け継ぐ子孫であることが何よりも嬉しいと思える。


「よく頑張ったね、私の子孫たち」


 その言葉にアニスフィアはくすぐったそうな表情を浮かべ、レイニとイリアは表情を引き締めて居住まいを正していた。

 ユフィリアは先程の私と同じように目を伏せて、噛み締めるように沈黙を保ってから穏やかな笑みを浮かべた。


「……その一言で、報われたような気がします。ありがとうございます、遠いご先祖様」


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