第48話 果たされた願い あかねのリノベーション Aパート
わたし達は目的を達成した。
エモーショナルバグの原因究明と撲滅、を達成した事により、三か年計画は三年目に突入。
エモバグも出現しなくなって変身する必要もなくなった。
でも、ももといろちゃんとはちょくちょく会ったり、もものライブに行ったりした。
それでも、年が明けて2020年になると受験を控えて忙しくなって来る。
ももはSAHの活動を継続しながら受験をするとかで大変そう。
「芽崎もやる気出してるしね。今は続けたいんだ」
元エキセントリックの芽崎みどり。
頑張ってるんだけど、口は悪くって、ちょいちょいトラブルを起こすみたい。
面倒見なきゃってももは張り切ってる。
年上なんだけどね。
いろちゃんは相変わらず漫画を描きながら、コスプレもしながら、アニメにゲームにライトノベルに特撮にと大忙し。
受験はそんなにレベル高いとこ狙ってないみたい。
大槻月姫ちゃんと小沼雅湖ちゃんとも仲良くやってるみたいだね。
わたしとあかねも実は目まぐるしい日々を過ごしていた。
お母さんの願いを果たすためだった。
そして、その時はガールズルール壊滅からほぼ半年になる3月11日に遂に訪れた。
「行ってきます。お父さん、あおい」
「行ってらっしゃい。あかねちゃん」
「気を付付けてね。あかね」
早朝、あかねを送り出すわたしとお父さん。
あかねを一人にするなんていつ以来だろう。
すごく心配。
「すぐに戻ってきます。
そんなに緊張する事はありません」
あかねは政府が手配した大型バスに乗り込んだ。
バスが見えなくなるまで手を振っていたわたしだが、見えなくなった瞬間家の中へ。
居間のテーブルに置かれたパソコンを起動。
これであかねの視覚情報とリンクできるのだ。
バスは本庄児玉インターチェンジから高速道路を下り方向へ。
藤岡ジャンクションを高崎方向へ。
高崎ジャンクションを伊勢崎方向へ。
岩舟ジャンクションを福島、水戸方向へ。
栃木都賀ジャンクションを鹿沼、福島方向へ。
友部ジャンクションをひたちなか、宇都宮、大洗方向へ。
大熊インターチェンジを出て、国道252号線へ。
そこを東に進むと海が、太平洋が見えて来る。
かつて日本は極東と呼ばれた。
地図の片隅。
世界の片隅。
その太平洋側ならば、世界の片隅の片隅って事になる。
その場所。
福島第一原子力発電所。
そこがあかねの目的地だった。
ここでお母さんが果たせなかった願いを果たすのだ。
わたしのお母さんは原発のある、福島県並榎町の出身。
地震の時は埼玉県にいたけどね。
地震自体もさることながら、原発事故に心を痛めていた。
特に故郷に住めなくなってしまう可能性にショックを受けた。
お父さんや二択陽一博士に、事故を終息させる方法を見つけて欲しいと、いつも言っていた。
そして、何度も埼玉と福島を行き来している最中、交通事故で亡くなった。
お母さんが亡くなった時、二択陽一博士はそれが間に合わなかった事をひどく悔やんだという。
彼は自律型AIでの解決を考えていた。
そして、今や自律型AIは現実になった。
人間の立ち入れない原発内に入って原子炉を廃炉する事が可能なのだ!
並榎町の線量も下がって、防護服がなくても歩けるようになった。
その時点で遺骨を先祖代々の墓所に移動する事もできた。
しかしお父さんは、わたしがお母さんが亡くなった事を受け入れるようになるまで待つ事にした。
それから、あかねが誕生し、わたしはお母さんが亡くなった事を受け入れた。
その時にお父さんは決断した。
あかねの力で福島原発の廃炉を為し遂げ、お母さんの望みを果たして、その上で遺骨を故郷に帰す事を。
わたしもあかねもそれに賛成した。
そして、そのプロジェクトをお父さんは藁葺木総理に提示した。
実験都市計画の成功が条件だったが、ガールズルールの壊滅によって計画は前倒しにされた。
お父さんはわたしの受験に配慮したかったみたい。
そして、藁葺木総理は支持率回復に利用したかった。
超低空飛行だった支持率は、この時点で地面スレスレだったのだ。
あかねは廃炉作業が可能な事を、政府の役人や専門家に証明して見せた(ちょいちょいおかしな発言に物言いが付いたりはした)。
そして、プロジェクトチームが発足。
あかねはシミュレートを続けてきた。
さて、バスは発電所の敷地内へ。
2号機原発の建屋の前に立つあかね。
ついに空前のリノベーションの時がやってきた。
<つづく>
【あおいちゃんのイノベーティブ現代用語講座】
・リノベーション
既存の建物に大規模な改修工事を行い、用途や機能を変更して性能を向上させたり付加価値を与えること。
本来は「リフォーム」に近い家屋の大幅な改修を指す言葉。
原子炉を取り除くのは大幅な改修になるんじゃないかなあ。




