第43話 あかねの想いと日照子の想い トリニティシルエット登場! Bパート
わたしは金鑚神社から国道462号線に向かっていた。
そして、わたしの肩には梨のような頭巾を被った少年型のゆるキャラ、なっちんが乗っている。
もちろん、プロジェクションマッピングの映像だけどね。
わたしはなっちんの協力を取り付ける事に成功したのだ。
これで「モード:アンビバレント」にプリダイムシフトできるはず。
国道にはプリジェクションサクラとペアーが。
あのプリジェクションインフルエンサーの相手を任せてしまって心配だったけど、無事だったみたい。
もう戦っていないし、インフルエンサーもいない。
あれ? あかねもいないや。
どうしたんだろう?
「おーい! 戻って来たよー!」
サクラとペアーはわたしの声に驚いて、こっちを向いた。
それまでは国道の向こうに見える山林を眺めていたみたい。
「インフルエンサーはいなくなったんだね。
あと、あかねは?」
質問したわたしはサクラにガッと肩をつかまれた。
「落ち着いて聞きなさいよ」
どっちかと言うとその権幕で慌ててしまう。
話によると、あかねは、インフルエンサーの重力技を破るために猛スピードでインフルエンサーに体当たりしたらしい。
そして二人は向かいの山林に落ちていったらしい。
「ごめん、あおい。わたし達が付いていながら」
「ううん。二人が無事でよかったよ」
と、わたしは言った。
「あかねは叱るけど」
なんて無茶を。
ロボットだからって自分を粗末に扱うなって教えてるのに。
急いで山道を降りてあかねを探さなきゃ。
と思ったが、
「ぶっちゃけた話、そうはいかないんだよね」
「ここだけの話、ここは通さないんだよね」
白い礼服と仮面の二人組。
シンクロニシティ姉妹が現れた。
「ぶっちゃけた話、インフルエンサーのところには行かせないじゃん」
「ここだけの話、インフルエンサーが離れるまでの時間を稼ぐじゃん」
この二人まで来ていたなんて。
「ちゃっちゃとやっつけてあかねのところに行くよ」
サクラがわたしの背中を叩く。
そうだ。あかねがとても心配。
「あれ? ぶっちゃけた話、あたし達なんか眼中にないって感じ?」
「あれ? ここだけの話、あたし達の相手なんかしてらんないって感じ?」
「ぶっちゃけでもここだけでもなく、シンプルにそうよ」
ももは苛立たし気に答え、構える。
「ぶっちゃけた話、それは甘いじゃん」
「ここだけの話、それは甘いじゃん」
姉妹は仮面を外した。
普通にかわいいけど、やっぱりわたし達より年上。
高校生かな。
「ぶっちゃけた話、あたしは世折天子」
「ここだけの話、あたしは世折地子」
自己紹介する二人。そして、
「キュレーティン!」
スマホを操作すると、二人にEPMのプロジェクターから光が降り注ぐ。
髪飾りや胸のブローチや袖口にフリルが現れる。
「ぶっちゃけたキュレーター、プリジェクションシンクロニシティ(左)!」
「ここだけのキュレーター、プリジェクションシンクロニシティ(右)!」
双子の白いキュレーターの誕生だった。
何度もバトルはしてるけど、エモバグを呼び出してのものがメインだった。
本人達の強さはどうなんだろう。
「ぶっちゃけた話、あたし達の強さを見せてやるじゃん」
「ここだけの話、あたし達の強さを見せてやるじゃん」
素早く動いてわたし達の周囲を回る二人。
やはりかなりの身のこなしだ。
「ぶっちゃけた話、どっちが本物か分からないだろ」
「ここだけの話、どっちが本物かなあ?」
目にも止まらぬ動きで翻弄してくる。
「ええ? どっち?」
「分かんないよー!」
わたしといろちゃんは頭を抱えた。
「何言ってんの? あんた達」
サクラは呆れたようにそう言うと姉妹の一人に(どっちかは判別できないけど)仕掛けた。
長いポニーテールが流れるように動く。
と、思えば姉妹は正拳突きと足刀蹴りで吹っ飛ばされていた。
「双子なんだから、本物も何もないでしょ!」
そうだった!
巧妙な話術に騙されるところだった。
「あおい君。今こそプリダイムシフトだ」
親バートンから青いサイスフィアが飛んで来た。
「でもあかねは……」
プリダイムシフトのビームはあかねから照射される。
でも、山林の下に落ちてしまっている。
「大丈夫だ。方法はある」
そういう事なら、とわたしはサイスフィアを握りしめる。
「ぶっちゃけた話、何してんの!」
「ここだけの話、思い通りにはさせない!」
シンクロニシティ姉妹がわたしに迫る。
「ソーダちゃんに近寄るなーっ!」
その後ろからペアーが現れ、シンクロニシティ(右)を投げ飛ばす。
「ここは任せてあおい!」
シンクロニシティ(ひだり)の前にはサクラが立ちはだかる。
「僕がアンビバレントの力を制御するから、思いっきりやるんだ」
と、なっちん。
仲間達を信じ、わたしのエモーションをサイスフィアに込める。
「できたよ!」
「あおいちゃん。それをこれと一緒にをあかねちゃんに届けるんだ」
お父さんがノートパソコンを持って車から降りて来た。
「このパソコンは?」
「これは小規模だがEPMの映像を作り出せる。
これであかね君を変身させるんだ」
相川さんもわたしの家で、パソコンからゆるキャラのプロジェクションマッピングを投影した事がある。
同じ原理だろう。
山林を降りるとあかねが倒れているのを見つけた。
手足のパーツが不自然に曲がっている。
「すぐに助けるからね」
「その位置で大丈夫です。
パソコンを置いて下さい。
あおいの変身が解けては元も子もありません」
わたしが地面にノートパソコンを置くと、なっちんがそれを操作。
あかねに向かってEPMの光が伸びる。
あかねはキュレーティンした。
「ケラサス、お願い」
青いサイスフィアをプリジェクションケラサスに投げる。
「プリダイムシフト!」
あかねからわたしにビームが照射される。
けど、
「この色は!」
青とピンクと黄色のビームだった。
「サクラとペアーのサイスフィアの力はまだ残っています」
わたしは白いフリルのついたガウンと、同じく白い手袋とブーツを纏う。
そして、羽飾りの付いたカチューシャが宝石をちりばめたティアラに変化する。
ティアラには白く輝く宝石の周囲に青、ピンク、黄色、赤とわたし達の色にちなんだ宝石が。
全身に力がみなぎって来る。
「イノベーション! タイプ:アンビバレント!
って言うか……」
三つのイノベーションの合わさったこれはもう、何て言うか別の……
「プリジェクションキュレーター、トリニティシルエット!!」
ペアーが大声で叫ぶ。
さすがヒーロー大好きのいろちゃん。
わたしはひとっ飛びに国道へ。
「すごいパワー!」
三位一体というか三倍よりすごいんじゃないかな。
「アンビバレントの力はその圧倒的なパワーなんだ」
なっちんが言った。
「でもミュージカルになってないね」
「慣れの問題だよ。
まだアンビバレントの力を怖がってるね。
もっと思い切りいっていい」
思い切りかあ。
「ぶっちゃけた話、そのエモーション、気に入らないじゃん」
「ここだけの話、カチューシャが豪華になっただけじゃん」
シンクロニシティ姉妹がわたしに向かって来る。
「受けてみるじゃん!」
「くらえー!」
プリジェクションキュレーターになった二人もパワーアップしている。
二人の息の合ったラッシュ攻撃。
しかし、その全てが見切れる。
すんなり回避できる。
そして、
「ソーダスプラッシュ!」
両手から二発のソーダスプラッシュを繰り出して反撃。
「わああーーーっ!」
姉妹を吹っ飛ばす。
「これはすごいね!」
わたしは新しい力の手応えを得た。
「まだだ!
トリニティシルエットの真価は別にある」
親バートンだった。
別に……?
「さいたま・リベレーション・ストリームだ」
そうか。ここで姉妹の変身を解いてしまえばいいんだ。
「サクラ! ペアー!」
三人の力を合わせる「さいたま・リベレーション・ストリーム」のために二人を呼ぶ。
ところが……。
「そうじゃない。
トリニティシルエットはすでに君たちのエモーションを一つにしている。
今の君なら『さいたま・リベレーション・ストリーム』を単独で使える」
単独、つまりわたし一人で。
「ぶっちゃけた話、あたし達の活躍する流れじゃないの?」
「ここだけの話、これじゃかませ犬じゃん」
シンクロニシティ姉妹が起き上がって来る。
「やってみる!」
二人に向かっていくわたし。
「あいつらから手に入れたサイスフィアじゃないとダメとか言ってなかった?
あれがそうなの?」
サクラが親バートンに質問する。
「トリニティシルエットなら問題ない。
さらに一色でもあれば使えるようにバージョンアップしてある」
なんだかすごいんだね。
わたしは精神を集中する。
胸のブローチが、そして、頭のティアラが光輝く。
そして、開いた片手を突き出した、のだけど。
「さいたま~♪」
なぜかその手を戻して両腕を広げて、片足立ちして歌ってしまうわたし。
まるでバレエのバンデオール。
「よし! ミュージカルアクトに移行した!」
親バートンの声。
これがそうなんだね。
トリニティシルエットからさらにエモーションを高めた事でミュージカルアクトに到達したようだ。
「リベレ~ション♪」
さらに片足立ちで回転。
バレエのピルエットの動き。
「ストリ~~~ム♪」
きれいに手足を伸ばしたジャンプの後、片手を伸ばして三色の光線を発射。
シンクロニシティ姉妹のプリジェクションキュレーターの衣装が剥がれ落ちていく。
「せっかくキュレーティンしたのに……」
「これじゃホントのかませ犬じゃん……」
姉妹は黒いブレザーの制服の姿で気を失った。
「二人の身柄を抑えるんだ」
親バートンは言ったけど、
「僕の車に乗るかなあ? 人を呼ばないと」
と、お父さんはどこかに電話。
ところが、
「待ちなさい!」
姉妹に近づこうとしたわたし達の前にはプリジェクションインフルエンサーが。
「二人は渡しません」
そうか。彼女もまた変身できるんだ。
「もう一戦やるっての?」
サクラは構えるが、
「今日はもう気乗りがしません。
また会いましょう」
姉妹を抱え上げるインフルエンサー。
「見事なミュージカルアクトでした」
わたしを見るインフルエンサー。
「あの子に感謝をする事ですね」
そう言って、山林に視点を落とす。
確かに今回のあかねはいろいろ頑張ってもらっちゃった。
これは叱れないかな。
「またお会いしましょう」
そのまま、二人を抱え、跳躍するインフルエンサー。
おそらく姉妹もまた変身できるようになってしまうのだろう。
でも、強敵インフルエンサーをやり過ごす事はできた。
「でもあの人、歌ってなかったね」
「気乗りがしないとか言ってたよね」
その当たりも戦わなかった理由なのかも知れない。
とにもかくにもあかねを救出しないと。
救急車にも来てもらって大事になった。
大破と言ってもいい状態だ。
痛みは感じていないのだろうが、やっぱり痛々しく感じてしまう。
「怖い目に遭わなかった?」
救急車の中であかねに声を掛ける。
何しろ敵のリーダーと二人きりにさせてしまった。
「問題ありません。旭日照子は優しい人でした」
旭日照子の人となりなんて知りようがない。
しかし、彼女は言うなればテロ組織のリーダーだ。
「旭日照子は本当は戦いがしたいのではないのです。
自分の父親が本当は価値ある事をやっていたと証明したいだけなのです」
「そうなんだ」
あかねはきっと旭日照子の心の深い部分に触れたんだろう。
なっちんにも指摘されたけど、わたし達がするべき事はケンカじゃない。
旭日照子のエモーションを深く理解する事は今後重要になって来るだろう。
「今日は本当に頑張ったね。ゆっくり休んで」
わたしはあかねの手を優しく握った。
やっぱりこの子がいてくれてよかった。
その時、ガタンと音がした。
わたしが握った腕の肩から先が取れてしまった。
「そちらから地面に激突したので、外れやすくなっています」
「……先に言ってよ」




