第42話 なっちんに会いたい! キュレーター達再び神川へ! B、Cパート
「ここは通しません~♪」
「うわー、やっぱ歌ってるよー」
相変わらずのミュージカルアクト。
とんでもないエモーションがビリビリ伝わってくる。
もちろん、車は停車。
彼女をはねる訳にはいかないというのもあるが、変身後にぶつかったら無事で済まないのはこちらかも知れない。
「それにしてもこんなところになんで現れるの?」
下久保ダムでエモバグとバトルした事もあるけど、あれはそもそも神川にマジョリティの拠点があったのだ。
こちらの動きが筒抜けになってる?
ゆっくりと近づいて来るインフルエンサー。
「あおい、あんたは金鑚神社に行くのよ」
ももがスマホを取り出した。
「いろ、あかね。ここは三人で食い止めるよ」
「オッケー!ももちゃん」
「了解しました」
車を出るわたし達。
「この場所に何かがある~♪
でも♪ 察しは付いているんです~♪
そ、れ、は、プリジェクションソーダ♪
あなたのプリダイムシフトだ~わ~あー♪」
クルクル回転しながら、身振り手振りをそえながら、時にはこぶしを聞かせて、インフルエンサーは言った。
そして、名推理だった。
でも、逆に言えば知っていたのはここに来る事までだったとも言える。
「キュレーティン!」
わたし達も変身。
「なっちんを連れてすぐに戻って来るから!」
神社を目指し、山道を駆け上がるわたし。
「お待ちなさい~♪」
跳躍して追って来るインフルエンサー。
「待つのはそっちよ!」
「邪魔はさせない!」
「あおいは守ります!」
その道を阻むサクラ、ペアー、ケラサス。
「みんな、ありがとう!」
しかし、桁違いのエモーションのインフルエンサーをどれほど止められるのだろう。
わたしが急いでなっちんと接触しなければ。
森を駆け抜けるわたし。
森の中だけど、参道は舗装されている。
プリジェクションキュレーターの運動能力で急いで神社に向かう。
神川の金鑚神社は、国の重要文化財に指定された多宝塔や特別天然記念物に指定されている「鏡岩」もある由緒正しい神社だ。
石段の奥の鳥居を抜けると石畳と砂利に囲まれた本殿があった。
山の中とは言え、こういった祭事に用いられるような施設にはEPMのプロジェクターが設置されている。
わたしの変身も維持されている。
そこには、本殿の手すりに座っている。小さな姿が。
梨をイメージした黄色い頭巾とワンピースが一体になったコスチュームに身を包んだ少年。
胸には冬桜をイメージした花の絵が。
神川と言えば上里と並ぶ梨の産地。
そして、神川と言えば城峯公園の冬桜。
紅葉のシーズンにライトアップされ、幻想的な空間になる。
オススメ。
間違いない。神川のゆるキャラ、なっちんだ。
「ようこそ。あおいちゃん。
早かったね」
手すりから降りるなっちん。
「聞いて、なっちん!
あの敵と戦うためにあなたの力が必要なの!」
緊急事態なので、ついついまくしたててしまうわたし。
「ケンカのために僕の力が欲しいのかい?」
なっちんにたしなめられてしまう。
「僕はあおいちゃんの力で幸魂という自我を得た。
そして、日上一平の元を離れた。
彼が世界の幸せの総量を増幅させるとは思えなかったからね」
あかねの言う「幸魂係数」だ。
やっぱり似たような考え方をするみたい。
「自分の能力を把握したらすぐにあおいちゃんと連絡を取る事も可能だった。
そうしなかったのはイノベーションが本当に幸せの総量を増やすのか分からなかったからだ。
発明やイノベーションは必ずしも世界を幸福にしない」
確かに人を傷つける事に使われる発明もある。
発明を巡って争いが起こる事だってある。
「僕が君らのイノベーションに協力する事は本当に正しい事だと言えるのかな」
「ごめんね、なっちん。わたしの言い方が悪かったわ」
わたし達の目的は戦いに勝つ事じゃない。
わたし達の目的はイノベーションの達成だ。
「確かに発明やイノベーションが世界を幸せにするとは言い切れない。
でも、一つだけ絶対にやらなきゃいけないイノベーションがあるの。
そのために実験都市計画を成功させたい」
「絶対、だって?」
まだなっちんは半信半疑だ。
「本当は秘密なんだけど、特別になっちんに教えてあげる」
なっちんに近づいてちょっと小声になる。
「わたしのお母さんの果たせなかった夢の事を」
☆☆☆
山道を駆け抜けていくソーダを追いかけるインフルエンサー。
それを阻む三人のプリジェクションキュレーター。
「あおいは追わせない!」
プリジェクションサクラは跳躍するインフルエンサーに飛び蹴りを放った。
なんなく受け止めるインフルエンサーだが、その場に着地した。
サクラはほっとため息をついた。
ひとまずソーダを追跡する事は断念させた。
全くものともしない、という状況にならなかったのは一安心。
「いいー攻撃だわ~♪」
代わりにこっちを見つめるインフルエンサー。
「いいでしょ~お~♪
先にあなた達をー♪ 倒しましょ~♪」
それはそれで厄介なんだけどね。
と、思った直後にピンクと黄色の光線がわたしとペアーを包み込む。
「イノベーション! タイプ:スタイリッシュ!」
「アンド! タイプ:クリエイティブ!」
わたしとペアーははフリルのついた白いガウンと手袋とブーツを装着する。
最初に仕掛ける前にサイスフィアに力を込めて、ケラサスに渡しておいたのだ。
「あ~ら~♪」
これでちょっとはマシに渡り合えるはず。
「なかなか~♪ 手際が宜しいのね~♪」
朗らかに歌っているインフルエンサー。
「プリジェクションサクラ~♪
あなたはしっかり者でー、周りもよく見てる~♪
リーダー格なのね~♪」
こちらに飛び込んで来るインフルエンサー。
しかし、今度は目にも止まらぬ、という訳ではなかった。
「サクラブリザード!」
しかも「タイプ:クリエイティブ」の基本技連発の効果で三連発だ。
飛び道具で先手を取ったが、ぞれだけではない。
「ペアークラッシャー!」
桜吹雪を煙幕にしてのペアーのキックの奇襲だった。
「な~ん~と~♪」
インフルエンサーは両腕をクロスしてガード。
受け止められたが、重い一撃に動きが止まる。
「プリジェクションペア~♪
あなたのプリダイムシフトが、最も厄介~♪
ヒーロー好きの発想力はあなどれない~♪」
飛び退いてから両手を広げて優雅に歌う。
「歌ってるよー。余裕みたいー」
「歌うのはアイツの意思じゃないみたいだけどね」
しかし、余裕が感じられるのは確かで、それが怖い。
「そ、し、て♪ イノベーションの申し子、プリジェクションソーダ♪
彼女は爆発的なエモーションをー、秘めている~♪
あなた達三人は~、いいチームだわー♪」
わたし達をほめているのか、分析しているのか。
「厄介でー、危険だ、わ~♪」
そりゃあそうか。
「だ、か、ら♪ わたくしも新しい技をお見せするわ~♪」
インフルエンサーのブローチが光輝く。
新しい技?
この前の技に手も足も出なかったが、あれは基本技に過ぎなかったのか。
と、思った瞬間、またもやのしかかって来るような重圧が。
「インフルエンサー♪ ゾーンオブ♪ グラビティー♪」
クルクル回りながら歌っているインフルエンサー。
「100平方メートルの範囲のグラビティ~♪
逃れられないわ~あ~♪」
わたし達三人は以前の工場の時と同様、地面に倒され、身動きが取れない。
わたし達がパワーアップしている事を考えに入れるとこの前より強力なのかも知れない。
何のモーションも取らずにこれほどの技を操るなんて。
やはり桁違いのエモーションだ。
「あの方角にあるのは~♪ 金鑚神社かしら~♪」
そのまま悠々とソーダの後を追おうとするインフルエンサー。
「ま、待ちなさいよ……」
まだ身動きが取れない。
効果が持続している。
「わざわざここまで来たという事は~♪
何かを受け取りに~♪ あるいは誰かに会いに~♪」
スキップをしながら参道に入るインフルエンサー。
「もしくはその両方、かしら~♪」
ここでこちらを振り返り、
「それを阻止すればいいのね~♪」
無邪気な笑顔を浮かべるインフルエンサー。
だったが、
「あおいのところには行かせません!」
インフルエンサーに突進する姿が。
赤いキュレーター、プリジェクションケラサスだった。
赤紫の樹脂製のツインテールが風で横向きになっている。
「動けるなんて~♪」
「高速移動用のローラー脚部をエモーションで強化しました。
このままEPMのプロジェクターの範囲外まで移動し、この方の変身を解除します」
インフルエンサーに体当たりしたケラサスは空中へ。
「危ない! 戻って!」
ケラサスはさらに空中を慣性で移動している。
「わたくしがクッションになって、この方にケガは負わせません」
「あんたはどうすんの?!」
「出発前にメモリーは保存しました。
問題ありません」
「何言ってんの!」
問題ない訳ない。
あおいだってこんな事許さない。
「あかね―――!」
そのまま、進行方向の山林に落ちていくケラサスとインフルエンサー。
二人の姿を視認する事はできない。
参った。
あおいになんて説明しよう。




