第3話 上里のキュレーター、プリジェクションペアーはサブカル系? Bパート
『移植したゲームに追加要素を満載するなー!』
わたし達は逃げ惑う人波に逆らい、カラオケ店の方に向かう。
これから行くお店を破壊されては困っちゃう。
抑揚のないゆっくりとした音声が聞こえてきた。
インターネットのネガティブな書き込みから生まれたと言う怪物。
プロジェクションマッピングから生み出されたものでありながら、物理的な被害を及ぼすのだ。
黄色いそれに殴り付けられたカラオケ店の壁はひび割れている。
『移植前のソフトを未完成品で売ってたのと同じだー!』
ゲームの話をしてるみたい。
『以前発売したハードには無料のダウンロードコンテンツを追加しろー!』
「今度はあたしの出番ね」
松木いろちゃんはスマートフォンを構えた。
「キュレーティン!」
両腕をクロスし、スマホを前に向けた、いろちゃん考案の変身ポーズ。
黄色の丸に黒字でpsyと書かれたアプリを押したのが確認できる。
その瞬間、彼女の近くのプロジェクターから光が降り注ぐ。
頭髪と眉毛とまつ毛と唇、セーラー服が黄色になり、袖とスカートの裾に白いフリルが現れる。
胸には黄色い宝石の付いたブローチ。
白い羽飾りの現れたおかっぱの髪が気持ちふんわり膨らむ。
セーラー服は三人の中では彼女だけだが、色の変化とブローチとフリルのおかげで意外とわたし達と変わりない感じがする。
「プリジェクションペアー!」
わたしは初めて目撃する松木いろちゃんの変身だった。
『移植したゲームに追加要素を満載するなー!』
カラオケ店の壁を殴るエモバグに足払いを仕掛けるいろちゃん。
「要望に答えてリメイク時に完成度を上げるのは素晴らしい事なんだよ!」
エモバグは転倒した。キレキレ攻撃は成立した。
「いろ、この調子で行くのよ」
「うん!」
『移植前のソフトを未完成品で売ってたのと同じだー!』
起き上がったエモバグは渾身のパンチを放つ。が、
「あなたはハードの性能が足りてないのに無理やりな移植をして、残念な出来になってしまう事を経験してないからそんな事が言えるのよ!」
パンチをかわしたいろちゃんは、その腕を掴んで一本背負い。
エモバグを店舗から引き離した。
『以前発売したハードには無料のダウンロードコンテンツを追加しろー!』
「何を言ってるの!」
倒れたまま叫ぶエモバグに対し、いろちゃんはその腕を掴むと関節技をしかける。
「ハードの性能は高いくらいでも!信じられないほどの低クオリティの移植になって!血の涙を流す事だってあるんだからっ!」
何度か締め上げるといろちゃんのブローチが輝いた。
なんか会話がかみ合っていない気がしたが、パワーが貯まったからセーフ。
「関節技は締め上げる度にエモーショナルパワーがたまるの」
ももちゃんの説明。ふむふむ、これは便利。
「もっとも抜けられると危険だけどね」
「何であれ良作が一本作られるのは、素晴らしい事なんだからーっ!」
エモーショナルパワーが貯まったなら後はエモーショナルな必殺技を繰り出すだけだ。
「ステンバーイ」
「な、何!?」
関節技を解いたいろちゃんはしゃがみこむと謎の呪文を唱えた。
「なんかの特撮の技のせりふみたいよ。知らないけど」
そういう事らしかった。知らないけど。
ブローチの輝きが右足のかかとに移動していく。
「レディ!」
いろちゃんは叫んでジャンプした。
これも特撮の何かなんだろうか。
「ペアークラッシャー!」
黄色く輝く足によるキックはエモバグを粉砕していろちゃんはその後ろに着地した。
雲散霧消して消えていくエモバグ。
小柄でかわいらしいいろちゃんだが、体当たりの技なんて三人の中で一番パワフル。
「サイスフィアゲットっち」
やはり黄色いサイスフィアが出現した。
こむぎっちゃんはサイスフィアをサイストレージにしまう。
「やったよー!」
いろちゃんが駆け寄って来る。
「強いし、カッコよかったよー!」
「ありがとう。変身ポーズはまた今度かな」
さすがにすぐに営業再開はしないだろう。
こうしてプリジェクションペアーこと、松木いろちゃんの活躍を見たわたし。
かっこいい変身ポーズのレクチャーは次回に、のはずだった。が、そうはならなかった。
笑顔で二人と別れたこの時は、あんな事になるなんてかけらも思ってなかったんだ……。
【あおいちゃんのクリエイティブ作中用語講座】
・キュレーターの発音について
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