第26話 希望が絶望に変わったとしても Aパート
わたしの名前は梅桃もも。
埼玉県埼北市に住む中学二年生。
父親は貿易会社勤務で今はシンガポールに住んでる。
母親は専業主婦。
基本、母と二人暮らし。
さて、寝間着のまま一階に降りる、今は午前9時。
遅い目覚めだが、夏休みだから問題ない。
昨日はいろいろあり過ぎて、本当に起きられなかった。
「おはよう、ももちゃん」
「おはようございます、梅桃ももさん」
二つの声に迎えられる。
二人暮らしの訳だが、今日は客人がいるのだ。
ロボットだけど。
滑らかなデザインで武骨さはない。
長髪に見えるようなデザインの頭部の女性型のロボット。
白いトレーナーと赤紫のプリーツスカートを着用している。
名前は茜。
訳あって知人の家から逃げて来た。
逃げて来たのをそのまま返すって訳にもいかない。
その知人のお父さんと相談した結果、一時的にうちで預かる事にした。
そして今朝、わたしの寝ている間に連絡があったようだ。
ゆくゆくは研究所に送るが、まずは役場で預かる話に決まった、との事。
朝食の後、役場に向かう準備をしていたが、その前に一つしなければならない事があった。
わたしはご当地アイドルユニット、SAH40に所属している。
今日も練習とライブがあるのだが、行けそうにない。
電話でその件をオーナーに伝える。
もうマジョリティは倒したのだから、今後はメンバーに迷惑かけずに済むだろう。
そう割り切って茜と一緒にお母さんの車に乗り込んだ。
役場に向かう途中、広い駐車場と真新しい二階建ての建物が。
ビバークモール本庄。できたばかりのショッピングモールだ。
夏休みになったし、一回くらい行ってみたい。
「じゃあ帰りに寄ってみましょう」
お母さんとそんな会話をしながら横目に通り過ぎて行く。
…はずだったのだが、不意の轟音と共に目を疑う光景が。
青空のプロジェクションマッピングの投射された壁面から、青い巨人が姿を現す。
「そんな馬鹿な!」
見慣れた姿ではあると同時に、もう見る事はないと思ってた姿。
「エモバグ……!なんで?!」
エモバグとはインターネットのネガティブなエモーションの集合体だ。
EPMがネットワークで都市の情報を取得しているために出現する。
しかし、自然発生はしないはず。
そして、マジョリティは壊滅させたはずなのに。
このエモバグは一体……。
『埼北市は化け物が出現する欠陥都市ー!』
化け物自身が言うな、って感じだけど、やっぱり間違いなくあのエモバグだ。
「危ないから避難して!お母さん、茜」
車を降りて、店舗に向かうわたし。
「あなたも避難しましょう」
茜が言うが、
「そうも言ってらんないのよ!」
エモバグを倒せるのはプリジェクションキュレーターのみ。
ただ、わたしはピンク色のプリジェクションサクラ。
司るジャンルは芸能問題。
政治経済、社会問題を司る青いエモバグは、本来プリジェクションソーダの相手だ。
しかし、プリジェクションソーダになれるあおいは、今戦える精神状態ではない。
変身自体ができない可能性だってある。
「わたしがやるしかないか」
色とジャンルが合っていない場合だが、50回くらいは攻撃しないと必殺技を使えるほどのパワーは貯められない。
エモバグとは色を合わせてバトルするのが鉄則だ。
でも今回はわたしがやるしかない。
「ももちゃん!」
おかっぱ頭の小柄な少女が駆けつける。
セーラー服のこの子は松木いろ。
黄色いプリジェクションペアーに変身できる。
千葉県に住んでいたが、両親の体調不良で埼北市の親戚に預けられていた。
今は千葉に戻っていたのだが、あおいの一件についてメールしたら、こっちに来ると言ってきた。
『特区計画は汚ないカネの流れの温床ー!』
店舗の壁面を殴り付けるエモバグ。
ガラスや壁が飛び散っている。
「あちゃー、また出ちゃったんだー」
いろもショックを受けている。
「あたし達でやるしかないよね」
ひきつった顔つきになるいろ。
わたしといろの二人でキュレーター活動していた時期に、青バグを倒した事を思い出しているのだろう。
「わたしに任せて」
いろだって、家庭に複雑な事情を抱えて、大変な時期だ。
50回攻撃するのはわたしの役目。
「いろはサポートをお願い」
「うん!」
二人で店舗に入る。
まだ中の人々は逃げきれてない。
変身は見られないようにしたい。
幸い、店内には物陰が多い。
トイレにでも入ろうと思っていた時だった。
「実験都市は、汚なくなんかない!」
聞き覚えのある声が響く。
吹き抜けから見上げると、二階に人影が。
長い黒髪。
美里中の紺のブレザー。
片手に構えたスマホ。
まさかと思ったその時だった。
「キュレーティン!」
少女はスマホの画面を正面に向けたまま、アプリを起動する。
店内のEPMのプロジェクターから少女に光が照射される。
紺色のブレザーが鮮やかなシアンに変わる。
胸元のリボンの位置には大きな宝石型のブローチが。
服の袖とスカートの裾には白いフリルが付く。
髪の毛、眉毛、まつ毛、唇が青く変わる。
髪はフワッと変化、羽飾りのようなカチューシャが装着される。
青いキュレーター。
やはり間違いない。
ここにいるのはまぎれもなく……。
「埼北市はこのわたしがっ!」
エモバグの前に敢然と立ちはだかる少女。
「美里中学校二年一組、葵上あおいが守るんだからっ!」
で、この子はなんで本名を名乗ってんのよ!?
<つづく>




