第24話 最高のイノベーション! みんなで幸魂ゲットだよ! B、C、Dパート
『全てのAIを世界を司るメタAIにする事が君の目的か?!』
いつも冷静な親バートンがこの時ばかりは声を荒げた。
「人のエモーションって事は、人と世界の関わり。
108ものエモーションとわたしの幸魂を組み合わせて発射したの。
さしずめさいたまビームと言ったところかな」
「な、何がさしずめよ!」
「全然分かんないよ……、あおいちゃん」
『その上でメタAI化か』
親バートンはつぶやいた。
『世界を管理するメタAIの思考回路と、人の世界に対する認識であるエモーションの塊である、サイスフィアを結び付けたという訳だ』
「さすがに世界中のAIは無理。でもエモーションにあふれたこの街のAIにはきっと幸魂を届けられる!そして、幸魂が世界に対する目的意識になる!」
わたしのエモーションの高鳴りと共にブローチには新たな輝きが宿る。
「わたしはそう信じてる!」
『全く君は想像を超えるな、あおい』
わたしは街中のAIに幸魂を発射した。
「メタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタ――――ッ!!!!!!!」
みんな、わたしに釘付けになっている。エモビーストすら動きを止め、わたしの放つ光を見上げている。
しばらくすると夕暮れの空に無数の流れ星が。
これは埼北市中のAIがメタAI化し、自我に目覚めたという事に他ならない。
自律型AI誕生の瞬間だった。
「あおいちゃん!」
「あおいちゃん!」
「あおいちゃん!」
「あおいちゃん!」
「あおいちゃん!」
梨農園から、アイス工場から、老人ホームから、病院から、その他、埼北市の各地から、AI達がわたしの呼び掛けに応じて、エモーションを送ってくれているのだ。
「みんなのエモーションをわたしに貸して!」
無数の流れ星がわたしに降り注ぐ。
流れ星を受けたわたしの身体は痙攣し、蠕動する。
そして、わたしは光に包まれる。
数十体のPSYシリーズに芽生えたエモーションがデータ化された光だった。
わたしを包むなんてレベルじゃない。
わたしの身体より大きくなって、やがてそれは物質となってわたしを押し上げ、覆っていく。
エモバグはこうやって作られるのかも。
でも、今作られているのはエモバグじゃない。
わたしの幸魂と、埼北市の自立型AI達のエモーションが作り出すのは、エモバグでもエモビーストでもない。
それは………………、
「ジャ――――――――ン!」
わたしだった。
ぱっつんロングの青い髪。
羽飾りの付いたカチューシャ。
胸元のリボンと宝石型のブローチが。
服の袖とスカートの裾には白いフリル。
巨大化したわたしだった。
エモビーストに匹敵する大きさのプリジェクションソーダだった。
わたし自身は中にいた。
眼下に畑とその先の市街地が見える。
手を広げたりとじたり、足を上げ下げしてみる。
巨大化した身体は自由に動かせるようだ。
「ちょっとあおい!どうなってんの?」
下の方からサクラの声がする。
「いやあ、エモビーストを止めようとは思ってたんだけど、わたしが大きくなるとは思わなかったよ」
「ソ、ソーダちゃん。リュウジンロボみたい」
そう言えばいろちゃんと見た特撮映画でも、大きい敵と戦ってたっけ。
あれはロボだけど。
そんな話をしてる間にズシンズシンと音がしていた事に気付く。
エモビーストはもう大久保山を離れ、田園地帯に。
その先は市街地になってしまう。
「いけない!」
せっかく巨大化したのに、街を守れないんじゃしょうがない。
「ちょっと言ってくる!」
「ちょっとって……」
サクラは呆気に取られている。
「ソーダちゃん!すごい、すごい!」
ペアーは興奮している。
「名前はえーと、ハイパーシルエットでどうかな」
「いいと思います」
名前もつけてもらったところで、いよいよエモビーストと対決。
市街地へ向かう巨体の前方に回り込んだ。
「プリジェクションソーダ・ハイパーシルエット!
ここは通しません!」
「グオオオオ――――!」
雄叫びをあげて拳を振り上げるエモビースト。
列車くらいはありそうな太い腕が飛んで来る。
しかし、わたしはそれを片手で受け止める。
同じくらい大きくなったとは言え、腕の太さはエモビーストの方が上。
それでもわたしはキャッチした腕を軽々と弾き返した。
このバトルはエモーションで決まるのだ。
日上博士はインターネットのネガティブなエモーションでサイスフィアを集めた。
わたしにはそれに加えて、この街の自立型AIのエモーションが、わたしの幸魂を目的意識にした、メタAIのエモーションがある!
足の使えないエモビーストは何度も殴ってくるが、わたしはそれらを軽く受け止める。
「ウガア――――――――ッ!」
殴るのを止めたエモビーストは両手を組んで前に突き出す。
そしてその手が光を帯びる。
「アンビバレントバウトだっけ」
アンビバレントゴッドGの光弾に似た光だった。
でも違った。
発射されたのは光弾ではなく光線だった。
「くっ!」
わたしは両手でガードするが、照射され続ける光線はさすがに熱かった。
しかし、
「さいたまバリアー!」
両手で台形を作って、エモーションの幕を作り出す。
やがて、光線は消え失せていった。
『なぜじゃあ!なぜわしの研究の成果がこんな小娘に勝てないんじゃあ!』
意識が戻ったのか、無意識の叫びか分からないが日上博士の声が聞こえてくる。
巨大化したわたしに向かって小娘はないだろうと思ったがそれはこの際どうでもいい。
「あなたはエモーションを道具として使っているだけ。
でも、それは本当のイノベーションじゃない」
イノベーションは世界を変えてくれる
「本当のイノベーションは!本当のエモーションは!本当の幸魂は!世界を幸せにするんだからー!」
「さあ、サクラ!ペアー!あなた達もさいたまビームでわたしに力を貸して!」
「さいたまビームで……何?」
「わたしにエモーションを分けて!このバトル、三人で勝つよ」
「ソーダちゃんにさいたまビームを出せばいいの?」
「うん!」
いろちゃんは察しがいい。
「さいたまー!」
ペアーは手でさいたまの形を作り叫ぶと、胸元のブローチからエモーションの輝きが発射される。
それを受けたわたしは力がみなぎるのを感じる。
「ほら!サクラも!」
「もの欲しそうに見下ろすな!
もう分かったわよ!何なの、これ」
サクラも同じように手をさいたまの形で突き出し、叫んだ。
「さいたまー!」
サクラのブローチからもエモーションの輝きが
さらなる力が沸き上がってくる。
「フルパワー!いっくよー!」
わたしは両手の拳を握り、脇腹の辺りで構えた。
右腕を突き出し叫ぶ。
「サクラ!」
「え、わたし?!」
わたしの拳から放たれたのは巨体プリジェクションサクラ。
巨体サクラはエモビーストに正拳突きを放ち、消滅した。
「ペアー!」
左の拳からはキックを繰り出す巨大プリジェクションペアー。
「カッコいい!」
巨大ペアーに大興奮のペアー。
「アンド、ソーダ!」
最後はわたしがエモビーストに向かっていき、その巨大を放り投げた。
そして、両手を突き出し、さいたまビームの構え。
特大の埼玉がわたしの手の中に。
「ハイパー・さいたま・ストリーム!」
ピンク、黄色、青に輝く光線が空中のエモビーストに命中。
その巨体はかき消えていく。
しかし、さすがにその照射は長時間に及んだ。
完全に消滅させた頃には、わたしはくたくたになっていた。
と、思った次の瞬間、巨大なわたしは光になった。
そして、その光もどんどん小さくなっていく。
後には人間サイズの、本来のプリジェクションソーダが残った。
「すごいよー!ソーダちゃん」
ペアーが抱き着いてきた。
「本当のヒーローみたい!」
「ホントにどうなってんの」
サクラ驚いている。
「身体は大丈夫?」
「うん、大丈夫みたい」
「街中のAIが自我に目覚めたってホント?」
「!……………」
そうだった。
ついにAIに魂が宿った。
わたしは目的を達した。
これで終わりじゃない。
これからが始まり。
わたし達は何もかもを取り戻して、世界で一番幸せな家族になるんだ!
さあ、早く家に帰らなきゃ!
「わたし、帰るよ。みんな、またね!」
「あ、ちょっとあおい……」
☆☆☆
これは後で聞いた話。
梅桃ももはそそくさと帰ってしまったあおいにあっけに取られていた。
AIに自我を与えるなんてとんでもない事を成し遂げたと思ったら、あっさりと帰ってしまった。
せっかくなんだから自分でロボット達の様子を確認したっていいだろうに。
あおいのお父さんが代わりに対応に追われている。
アイス工場や老人ホーム等々から問い合わせが殺到しているようだ。
自我の芽生えたロボット達によって大混乱が起こっているに違いない。
松木いろもすでに帰っていた。
病院に収容された妹の意識が戻ったらしい。
こちらはまあ、当然だろう。
わたしもこうなってくると、できる事がある訳じゃない。
暗くなってきたし、帰ろうかと思っていたら……、
『梅桃もも君』
不意に声が聞こえてきた。
この低い声は親バートンだ。
「わたしに話しかけるなんて珍しいじゃない」
コイツの窓口はあおいだとばかり思ってたからちょっと意外。
「あおいがいないから?」
『いや、君に伝えておきたい事がある』
わたしがご指名だった。
珍しい事もあるもんだ。
「あおい君の事を気にかけてあげて欲しい」
「どういう事?」
『暴走したアンビバレントのコーデと同等の力をあおい君は操った』
「そうね」
あれはもう言葉もない。
巨大化するなんて、想像もつかなかった。
「正負両方のエモーションを増幅させるのがアンビバレントのコーデ。日上博士は強い恨みのエモーションを持っていたから起動できた」
酷い逆恨みだけど、確かにそうだったのだろう。
「あおい君は同じサイスフィアをコピーしたものを起動できた。
ならばあおい君の中にも強いネガティブなエモーションがあることになる。日上博士の憎悪に匹敵するほどの」
「あおいのネガティブなエモーション……」
以前、わたしと険悪になった時はは落ち込んでいた。
しかし、それにしては前向きだったとも思う。
わたしの代わりにピンク色のエモバグを倒そうとした。
そう、あおいはいつも前向きだ。
そのあおいがどんなネガティブなエモーションを抱えているのだろう。
『心当たりはないかね?』
「心当たり?」
考えてみればわたしはあおいの事をよく知らない。
キュレーターになるまでは接点はなかったのだから、仕方がないと言えば仕方がないけど。
そう言えばアイツ、なんであれほどイノベーションにこだわるんだろう。
「イノベーションはわたしの命、か……」
でも必要があれば、いつかその内に、それを知る機会はあるだろう、くらいに考えていた。
その時は。
☆☆☆
これも後で聞いた話。
大久保山を美里方面へ抜ける道を這うように進む白衣の老人がいた。
マジョリティ首領、ゴッドGこと、日上一平博士である。
「こんな所で終われるか!」
二択陽一も、葵上蒼介とその娘も忌々しい限りだ。
そもそもEPMで自殺を防げた事は、評価されて然るべきなのだ。
対象がEPMの影響外で自殺するくらい仕方がない事だ。
コーデシステムもプリジェクションキュレーターより優れている。
わしは弟子である二択陽一より優れている。
わしの頭脳は失われる訳にはいかん。
「わしはこんな所では終われん。こんな所では……!」
やがて、待ち構える人影がある事に日上博士は気付いた。
短髪で長身、がっしりとした体格。
黄色いブルゾンとジーンズ姿。
一見すると端正な顔立ちの、たくましい青年。
しかし、それが女性である事を日上博士は知っていた。
「おお、綺羅星子!」
「お待ちしてましたよ、日上博士」
堂々として、上品な、美しい声が響く。
「よく来てくれた!一刻も早く、ここから逃がれるのじゃ!」
「そう慌てる事はありません」
綺羅星子は日上博士に手を差しのべた。
と、思いきや……
「ぐわっ、何をする?!」
星子は博士の腕を掴むと、背中の方向にひねり上げた。
その太い腕を日上博士は振りほどく事ができない。
そして星子は博士の白衣のポケットにあったUSBメモリを取り出した。
「コーデシステムのドライバーのデータ、消去して持ち去っていたのですね」
「どういうつもりだ?!」
「先ほどプリジェクションキュレーターのドライバーのハッキングに成功したと連絡があったのです。
後はこのデータさえ手に入れれば我々は次のステージに進めます」
「わしを切り捨てるつもりか?!」
「あなたは裁きを受けるべきだ」
星子は博士の首を締め上げた。
「大丈夫。気絶してもらうだけです。後で警察に連絡しておきますからご心配なく」
「……わしを……利用したな…………」
「恨みと妄執にまみれたあなたは、我々と志を同じくするものではない」
博士は意識を失い、崩れ落ちた。
星子は奪い取ったUSBメモリをポケットにしまった。
「大丈夫?星子」
そこに一人の少女が現れた。
灰色の巻き毛の、小柄な、セーラー服姿の少女だった。
両手でタブレットPCを抱えている。
「ああ、終わったよ」
星子は爽やかな笑顔で答える。
『問題点はないかね?綺羅星子』
ここでタブレットPCから声がした。低い男の声だった。
「ああ、データは回収したよ。この通り」
星子はUSBメモリを見せた。
「これで必要なものはそろったって事?」
少女がタブレットPCに話しかける。
『ああ、大槻月姫。ハッキングで得たデータと合わせれば条件は整ったと言っていいだろう』
「やったね!ダーク親バートン!」
少女はタブレットは掲げて小躍りしている。
その様子を見て、微笑む星子。
「未来を切り開くのは老人の妄執でも、プリジェクションキュレーターのイノベーションでもない」
星子は両腕を広げて、くるくると回転した。一回転、二回転、三回転。
「それができるのは我々だけ。
ガールズルールのレボリューションだけだ」
両腕を広げたまま哄笑する星子。
「さあ、『革命』を始めようか」
なんだか、なんだかすっごいね!
これで前半部分マジョリティ―編、完結です。
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