第22話 キュレーター達南へ レッツゴー下久保ダム!(後編) B、Cパート
下久保ダムに現れたエモバグを撃破したら現れたディスコード。
彼女を追って山中の洞窟に入ったわたし達。
洞窟にはいったらEMPは届かない。変身の解けたわたし達。
その時なんだけど、
『これ…………だ』
わたしはかすかに誰かの声を聞いた話ような気がした。
「あおい、どうしたの?」
固まってるわたしにももが話しかけてくる。
耳をすませたが、今度は何も聞こえない。
「何でもない」
敵のアジトらしき場所を見つけたのに、うだうだ言ってる場合じゃないし、心霊現象に出くわしてる場合でもない。
もう聞こえないなら、気のせいだったのだろう。
洞窟はすぐに白い人工の空間になった。
「洞窟の中にこんな場所があったの?」
こんな空間が簡単に作れたとは思えない。
児玉工業団地にあったのアジトは出張所のようなもので、ここが本来の本拠地だったのだろう。
さらに奥に進むと開けた空間に出た。
そこには夏服セーラーのおかっぱの中学生の少女がいた。
言うまでもない。いろちゃんの双子の妹、松木きいちゃんだ。
「きい!もうこんな事やめてあたしと一緒に帰ろう!」
先頭を進むいろちゃんは呼び掛けた。
「黙れ!」
しかし、きいちゃんはきつく言い返してきた。
「お兄ちゃんの心を救えるのはあたしだけなんだ!」
きいちゃんはスマホを取り出し、前に構える。
スマホの画面には黒い円形に黄色い字で「psy」と書かれたアプリが見えた。
「キュレーション!」
きいちゃんはスマホを前に向けたまま、アプリをタッチして起動する。
部屋の壁にはEPMのプロジェクターが設置してあったようだ。
きいちゃんはみるみる棘々した黒いドレスに包まれていく。
そして、
「NOと言いなよマジョリティ……」
その後、間髪入れずエモバグ召還。
EPMに照らされた床から黄色いエモバグが現れる……。
あれ、いつもの抑揚のない大音量が聞こえない、と思ったら。
「yesと言わないマジョリティー……!」
ディスコードがエモバグの中に入った。
するとエモバグの表面に変化が。
キュレーショナーの刺々しい衣装のような棘が肩や頭に現れ、目つきも鋭くなった。
そして、その中から声が。
「サイスフィアの代わりにキュレーショナーが入った後期型エモバグよ」
そう言うとエモバグはパンチとキックの素振りや、飛び跳ねを始めた。
機能を確かめているようだった。
「初めてだけど、思い通りに動く。悪くはないわ」
中のキュレーショナーの自在に動かせるエモバグのようだ。
「よく見るとひじとか腿とかもトゲ付いてる」
「これは厄介ね」
「………」
いろちゃんはしゃべらない。
神妙な顔をしている。
ふたごの妹とのバトル、思うところもある。そうに違いない。
「トゲバグ……」
ペアーはポツリと言った。
「何?ペアー」
「名前はトゲバグでどうかなって」
「……いいと思います」
名前を考えていただけだったみたい。
「キュレーティンしよっか」
わたし達も変身した。
「まあでも、実際あのトゲは厄介ね」
と、サクラ。
しかし実際はトゲがどうこうというより、人間が制御するエモバグの強力さに苦しめられる事になった。
「ここでお前達を止める!」
ディスコード(トゲバグ)がわたしに突進からのパンチ。
パンチを避けてのカウンターを狙うつもりだったが、これは実はフェイントでキックが飛んで来た。
エモバグはフェイントなんて仕掛けてこないのでまともにくらってしまう。
わたしが壁に叩き付けられると、次はサクラへ。
今度は連続でジャブを繰り出してくる。
この動きもエモバグにはなかったものだ。
巨体からの連打にサクラも防戦一方。
「そううまくはいかないんだからー!」
トゲバグの後ろからペアーがフェイスロック。
サクラへのジャブの連打は止まったが、ロックは外されてしまう。
こういう立ち回りもエモバグにはできない。
これまでのエモバグとの違いに翻弄されるわたしとサクラ。
「手ごわいよ。どうする?」
「3対1の強みを生かすしかないわ」
作戦を考えるわたしとサクラ。
でもペアーは黙って神妙な顔をしている。
トゲバグよりいい名前が浮かんだのかな。
「きい、それ疲れるんでしょ?」
ペアーから聞こえたのは意外な一言だった。
そう言えばトゲバグが肩で息しているような。
「放っておいてよ…!」
トゲバグの中からの声も息が上がってる感じがする。
「あたし達は敵なんだから」
「敵じゃないよ」
「あたしはキュレーショナーだよ。怒ってるでしょ!もう嫌いでしょ!」
ペアーにつかみかかってきたトゲバグだが、
「そりゃあ怒ってるよ」
素早く回避して、トゲバグのひじや肩のトゲにを上手く使って組み付くペアー。
「だって、きいまでいなくなったら、兄妹はあたしは一人になっちゃう……。
わたしはそんなの嫌……」
わたしとサクラもトゲバグの足を押さえ付ける。
やはり振りほどく力が弱くなっている。
疲労させる作戦は有効だ。
「一緒に帰ろ。きい……」
しかし、ペアーはエモバグの胸にしがみついた。
「ちょっと、ペアー!」
わたしもサクラもどきっとした。
「止まっちゃダメだよ、ペアー!」
ペアーはエモバグにしがみついたまま、完全に無防備だった。
「離せーっ!」
ディスコードの声と共にエモバグは片腕をふりかぶった。
「よけるのよ!ペアー!」
こんな無防備に張り付いた状態で、パンチを受けたら大変だ。
「うわあああーーーっ!」
ディスコードの掛け声が響く。
しかし、エモバグの腕はだらんと下がった。
「お姉ちゃんに攻撃なんかしたくないよ……」
ディスコードの声は震えていた。
「したい訳ないよ。
でも、どうしたらいいか分からない……。本当に分からないの……」
うなだれるエモバグ。
ディスコードは可能な限り、ペアーとの接触を避けてきた。
ペアーを、いろちゃんを攻撃したい訳がない。
「お兄ちゃんの事を割り切るなんて、できないよ……」
「あたしにみんな、任せて」
いろちゃんはエモバグから離れると、見上げた状態で語りかけた。
「割り切ったりしないよ。
あたしがこの街のイノベーションを見守るから。仲間と一緒に。
この街のイノベーションが間違わないように見てるから」
「じゃあ、あたしはこれからどうしたらいいの……?」
「戻ってくればいいんだよ」
「サクラちゃん!ソーダちゃん!」
いろちゃんはエモバグから離れた。
「いっくよー!」
わたしとサクラはうなずくと、エモバグから離れ、前に立って横並びになった。
「こむぎっちゃん、お願い」
「分かったっち」
こむぎっちゃんがサイストレージを取り出す。
わたし達はそこから三色のサイスフィアを取り出すと、胸のブローチに当てた。
サイスフィアを吸い込んだブローチが三色の光を放つ。
そのまま、片手を前に突き出すわたし達。
「準備はいい?あんた達」
呼び掛けるサクラ。
「うん!」
セゾン姉妹の時は三人寄り添って発動したが、今回は横並びだ。
必ず成功させる。
きいちゃんをディスコードのコーデから解放するんだ。
「さいたま・リベレーション・ストリーム!」
三色の光が重なって、大きな一つの光になってエモバグを包む。
するとエモバグがかき消え、中からディスコードが現れる。
さらにディスコードのコーデが剥がれ落ちて行く。
「やった!もう一息!」
コーデが完全に消え失せると、そこにはセーラー服のおかっぱ頭の少女が残った。
ディスコードのコーデは消滅した。
光が消滅すると、宙に浮いていたきいちゃんの体が落下してくる。
三人でしっかりとキャッチ。
「大丈夫?!きい」
「気を失っているよ」
「でも鼓動があるし、呼吸もしてるわ」
お父さんに電話をして来てもらう事にした。
わたし達は先に進む。
今日こそマジョリティと決着を付け、街に平和を取り戻すよ。
☆☆☆
これは後で聞いた話なんだけど。
わたしが洞窟に入ろうとした時に聞こえた声はやっぱり気のせいではなかった。
その時、親バートンはわたし達にメッセージを送ろうとしていた。
山あいの電波状態の悪さからか、そのメッセージがわたし達に伝わる事はなかった。
『これは罠だ。すぐに戻るんだ』




