第21話 キュレーター達南へ レッツゴー下久保ダム!(前編) Aパート
「説明して、お父さん!
千葉県の学園都市で、EPMの評価実験を自殺者が出たのに成功と判定したの?
お父さんもそれに関わっていたの?!」
松木いろちゃん、きいちゃんとそのお兄さんの過去の話は衝撃だった。
埼北市が実験都市に選定される前に千葉県の学園都市でおこなわれていたEPMの心理実験。
その時、EPMはクラスぐるみのいじめを止めさせる心理効果を発揮しなかった。
ただいろちゃんのお兄さんに自殺や不登校を思いとどまらせる効果はあった。
その効果で、EPMの評価実験は成功とみなされたと言う。
だとしたらわたしはお父さんを許せないと思った。
エモバグをやっつけるなり、その場にお父さんを呼び出して、まくし立ててしまうわたし。
「まずは……」
お父さんはいろちゃんの方を向いた。
「いろちゃんがあの松木さんの遺族である事は知らなかった」
お父さんはいろちゃんに深く頭を下げた。
「本当に申し訳ない」
それから改めてみんなに向き直る。
「その実験の時期は、お父さんはすでに埼北市での実験都市計画実施の交渉に入ってた。というより他の候補地も回って日本中を飛び回っていた時期だ」
確かにお父さんが仕事で日本中を回り、いろんなお土産を買ってきた時期はあった。
「それだけではなく、二択陽一博士も自動運転車用AIの開発が大詰めで、EPMに関しては他の研究者に任せていたんだ」
AIとEPM、この二本柱が埼北市の実験都市の目玉で、その両方の中核であった天才、二択陽一博士。
とは言え何でもかんでも一人ではできないだろう。
「当時、二択博士の代理でEPMの担当をしていたのは、その分野に関しては、陽一にとっては師匠にあたる高名な人物だった。
しかし、残念ながら陽一の求めるほどの心理効果は達成できなかった。
結局この人物は現在の、いじめ、犯罪、運転マナーにまで影響を与えるEPMは構築できなかった」
つまり千葉県での実験時のEPMの効果は、埼北市で用いられているものより劣っていたという事なのかな。
「しかし、当時の千葉県の教育委員会は在学中に自殺しなかった案件を、わざわざ荒立てたくなかった。だから当時の博士と口裏を合わせて実験を成功と評価したんだ」
「ひどい!」
学校ぐるみのいじめの隠蔽。それにEPMの実験は利用された。
「しかし、陽一はこれに気付いた。
激怒してその博士を解任し、新たなEPMプロジェクトを立ち上げた。
そして、今の埼北市で使われているような心理効果を発揮するEPMを作り上げたんだ」
そんな事があったんだ。
「陽一はこの件にとても心を痛めて、思い詰めていた。心配になるくらいに」
「確かに謝罪に来た二択博士からは誠意を感じました」
といろちゃん。
「子供の命が奪われた事を許されるとは思ってない。でも、今の実験都市の姿は事実を歪めて成り立ってる訳ではないよ」
二択博士によるちゃんとした心理効果を発揮するEPM。
今、埼北市で使われているのはそのバージョンだという。
「それは信じて欲しい」
実際運転マナー向上の効果によって、自動運転車の運用はできてる訳で。
だとすると二択陽一博士はつくづくすごいと思う。
行方不明なのはつくづく残念だけど。
「いろちゃん、どう?信じてくれる?」
「うん。あおいちゃんのお父さんだもん」
笑顔で言ってくれるいろちゃん。
「ごめんね、いろちゃん!」
泣きながら抱き付いてしまうわたし。
「わたしこそ心配かけてごめんね」
「そう言えば何か言いかけてませんでした?」
ももがお父さんに話しかける。
「ああ、そうだったね」
確かに。「新たな事実」って言ってだけど。
「実はマジョリティのアジトらしき場所が分かったかも知れないんだ」
なんと!それは大発見じゃない!
「マジョリティのアジトで見つけたEPMのプロジェクターと同じパーツが送られている場所が見つかったんだ」
児玉工業団地にあった以前のマジョリティのアジト。
もぬけの殻だったが、ハンドメイドのプロジェクターが見つかったとか言ってたっけ。
「どこなの?そこは!お父さん」
それが判明すればエキセントリックともディスコードとも決着を付ける事ができる。
「神川さ。埼北市神川地区」
「やっぱり!」
わたしは思わずさけんだ。
「やっぱり?」
反応するもも。
「……って、どういう事?あおい。マジョリティのアジトが神川だって、分かってたって言うの?」
「うん。だってゴッドGだよ」
「だから何よ?」
一層いぶかしむもも。
「だからあれだって!」
察しの悪いももに業を煮やしたわたしは、本庄消防署を指さした。
本庄消防署の各種緊急車両のガレージには埼北市各地区のゆるキャラの姿が描かれ、地域の人々に親しまれている。
ゆるキャラの絵の下にはネームプレートも大きく掲げられていた。
左から、
本庄地区のキャラクター、はにぷー。
美里地区のキャラクター、ミムベェ。
神川地区のキャラクター、ゴッドGとなっちん。
上里地区のキャラクター、こむぎっちゃん。
「神川地区の……ゆるキャラ?!」
「うん、常識でしょ」
「ちょっと待って」
そんな馬鹿な、と言った顔をしているもも。
だが、埼北市でゴッドGと言ったら、神川のゴッドGの事なのだ。
実際に神川に潜伏している可能性があるというのだから、これは揺るぎない事なのだ。
「だったらさっさと言いなさいよ……。はにぷー達も知ってたの?」
頭を抱えながらうめくもも。
「知ってはいたけど、そんな露骨な真似はしないと思ってたぷー」
「以前は児玉にいた訳だし、これは偶然と思うベェ」
「でなければゴッドGの姿をしている必要があったんじゃないかなっち」
うーん、偶然かなあ?
「大々的に突入してまた逃亡されたくない。夏休みに観光を装って神川へ行くのはどうだろう?」
お父さんの提案だった。
夏休みは一週間後だ。
「それまでに神川の役場と警察にも調査をお願いしておくよ」
「ダムの放流は見れるかなあ?」
神川と言えば、首都圏の水がめである利根川水系8ダムの一つでもある、下久保ダムで有名だ。
「観光は装うだけだって言ってるでしょ」
ももに小突かれる。
「そうでした。ごめんね、いろちゃん。はしゃいじゃって!」
「ダ、ダムセーヴァーに会えるかなあ!?」
何故かはしゃぐいろちゃん。
「ダ…、何?」
「鬼人戦隊ダムセーヴァーだよ!下久保ダムを心霊スポットの風評被害から守るご当地ヒーローだよ!」
心霊スポットの風評被害から守るヒーロー???
時々いろちゃんの言う事は分からなくなるが、本当にそういう触れ込みのヒーローがいるようだ。
「すっごい楽しみ!」
「だから観光じゃないっての。……まったくもう」
ため息をつくもも。
ともあれマジョリティとの決戦の時は迫っているのだった。




