第20話 いろちゃんの昔語り イノベーションの光と影!! Bパート
『漫才で政治をネタにするなー!笑えないんじゃー!』
本庄消防署方面に現れたエモバグとディスコード。
エモバグの色は芸能関係のピンク。
わたしといろちゃんでディスコードの相手をする事になるだろう。
でもそれでいい。
「いろ!ディスコードは、妹さんは任せたわ」
「うん!」
「あおい!わたし達はエモバグを止めるわよ」
「オッケー!」
スマホの画面を正面に向けて構えるわたし達。
「キュレーティン!」
三人声を揃えて叫ぶと、近くのEPMのプロジェクターから光がが照射される。
制服の色がももはピンク、いろちゃんは黄色、わたしは青に変わる。
胸元のリボンやスカーフの位置には大きな宝石型のブローチが。
服の袖と、スカートの裾には白いフリルが付く。
髪の毛、まつ毛、眉毛、唇もそれぞれの色にチェンジ。
髪の毛もなんとなくフワッとチェンジ。
ただし、もものポニーテールは腰に届くくらい長くなった。
三人ともお揃いの羽飾りのようなカチューシャが装着される。
「咲き誇るキュレーター、プリジェクションサクラ!」
「実りのキュレーター、プリジェクションペアー!」
「はじけるキュレーター、プリジェクションソーダ!」
「現れたわね、プリジェクションキュレーター」
ディスコードは黄土色のバイザーを装着した。
「意思を貫け、マジョリティ……!」
地面から(実際は地面に投射されたEPMから)もう一体のエモバグが。
それが元々いたエモバグと合体して、巨大エモバグが現れる。
『笑いに昇華してるなら政治ネタでもいいけど、お笑いになってないのは駄目なんじゃー!』
『やること自体は構わないが、特定の思想が強く働いているのが問題なんじゃー!』
巨大化しただけでなく、凶暴化してさらに大声を張り上げる。
「しっかり頼んだわよ、いろ」
「分かったよ!」
ペアーはディスコード。
サクラは巨大エモバグ。
わたしはと言うと、姉妹の会話も気になるけど、市街地目掛けて移動するエモバグも気になる。
今まではエモバグ撃破の邪魔をするキュレーショナーを二人がかりで止めていた。
しかし、今回のディスコードはサクラよりペアーを優先して狙っている。
わたしはエモバグの進行を阻みつつ、状況によってペアーに加勢するよ。
「きい、こんな事はやめて!戻って来なさい!」
ペアーはディスコードを、きいちゃんを説得しようとする。
「お姉ちゃんこそなんで、実験都市なんか守ろうとするの?!
お兄ちゃんのかたきだよ!」
ディスコードも引き下がらない。
かつて、千葉県で二人のお兄さんがいじめに遭っていた時、EPMの実験はいじめを止められなかった。
それなのにいじめを受けた二人のお兄さんが不登校にはならなかった事を成功と判断して、実験都市計画は埼北市に移行した。
しかもそのお兄さんは卒業後に、EPMの影響から離れたら自殺した。
その事がディスコードが実験都市を憎む理由なのだ。
「わたしだって最初は実験都市計画が憎かった。
でもイノベーションに夢を託して頑張ってる人が、応援したい人達がいるの」
「うるさい!うるさいっ!」
二人はバトルしていた。
人間同士のバトルなんて、いろちゃんはしたくないだろう。
それにディスコードも、きいちゃんも多分いろちゃんとはバトルしたくないのだ。
だから、今までわたしを直接狙ってきたし、いろちゃんが東京に行ったタイミングでエモバグと共に現れたりしたんだろう。
ブックネフでも、わたしとももだけだと思って仕掛けてきた。
その二人がパンチとキックの応酬をしている。
「歪んだイノベーションを止めないとお兄ちゃんが浮かばれない!」
「だからってエモバグを暴れさせる理由にはならないよ!」
見ていて辛かった。見るに堪えなかった。
割って入って止めたかったけど、それは無神経だと思った。
わたしに止める資格はないと思った。
「どんな感じ?」
サクラがわたしの隣に着地した。
エモバグの隙を突いてわたしに話しかけてきたのだった。
「互角の勝負かなあ」
「そうね」
サクラも姉妹バトルの様子を気にしていたみたい。
「これじゃあらちが明かないよー」
わたしが頭を抱えていると、
「ねえ、覚えてる?親バートンの話」
「何だっけ?」
「同じキュレーショナーから手にいれた三色のサイスフィアを使えば、『コーデ』を引き剥がせるって話」
そう。
それがサイスフィア・リベレーション・ストリームを発動する条件だ。
「このピンクバグを倒せばディスコードに対してもあの技が使える」
「あっ……!」
そうか。すでにエキセントリックからは三色のサイスフィアを手にいれているが、ここでピンクバグを倒せばディスコードのコーデも引き剥がせる。
「説得するより早いかも知れない」
そう言うと、サクラはエモバグに向かっていく。
『漫才で政治をネタにするなー!笑えないんじゃー!』
大声を張り上げながらウミクス上里店のある市街地を目指す巨大エモバグ。
「ワイドショーやバラエティでの、芸人の露悪的で人を傷つけもするようなは発言には寛大なくせに!なんで漫才で政治をネタにする事には厳しいの!」
後ろから水平チョップを仕掛けるサクラ。
巨大エモバグはさすがにちょっとよろけただけだが、サクラに注意を向けてきた。
『笑いに昇華してるなら政治ネタでもいいけど、お笑いになってないのは駄目なんじゃー!』
大振りのパンチをしかけてくるエモバグ。
パンチは地面に激突し、畑の土が巻き上げられる。
「女芸人がわざと不細工なメイクしているのをブスと言う事が、お笑いの体をなしているなんて全く思わないわ!質の問題だなんて詭弁も甚だしいんだからー!」
その土砂を掻き分けるように飛び蹴りを繰り出すサクラ。
それを受けたエモバグは倒れそうになるが、片膝をついて何とか持ちこたえる。
『やること自体は構わないが、特定の思想が強く働いているのが問題なんじゃー!』
そして、飛びかかってくるエモバグだが、空振りに終わってしまう。
再び舞い上がる土砂。
それをかき分け現れたサクラは……
「それぞれの思想で発言して、見る人に多様な考え方を与えることができたらそれでいいじゃない!」
上空から旋風脚!
「敢えて政治や社会問題にコミットしない時代はとっくに終わってるんだからー!」
袈裟斬りにヒットさせた!
「必殺技いけるぷー!」
サクラの胸のブローチが輝く。
「遊びは終わりよ!」
サクラは間髪入れず、桜吹雪を発生させ、身に纏った。
そして、よろけるエモバグに突進していき、
「サクラブリザード・繚乱!」
パンチとキックの連続攻撃を放った。
桜吹雪を纏った攻撃は一撃一撃が重く、エモバグを揺さぶっていく。
ジャンピングアッパーがとどめの一撃となり、エモバグは雲散霧消していった。
後には舞い散る桜吹雪と、ピンク色に輝く球体が残される。
「サイスフィアゲットぷー」
はにぷーはその球体、サイスフィアをサイストレージにしまう。
「もうエモバグがやられたのか!」
ディスコードも狼狽するが、
「観念しなさい!」
「誰が!あたし一人だって……!」
戦意を喪失してないディスコードだった。が、
「オラァッ!」
二人の間に割って入ったのは背の高い、黄緑色の長髪の、キュレーショナーだった。
「エキセントリック!」
突然の乱入にわたしとサクラも驚く。
「退くぜ、ディスコード」
「邪魔をしないで!」
「どうやらサイスフィアを集められ過ぎるとヤバいらしいぜ、あたいもお前も」
エキセントリックに耳打ちされたディスコード。
二人はジャンプを繰り返し、飛び去って行った。
その後、子バートンが現れた。
「みんな!今新たな事実が判明した……」
「お父さん!!」
わたしはそこで話を遮った。
「今すぐ来て!ここに!」
わたしがあんまり声を張り上げるから、二人も、ゆるキャラ達もびっくりしてる。
しかし、これはエモバグが現れたから先伸ばしにしただけで、元々どうしても聞かなければならなかった事だ。
お父さんは消防署そばのコンビニに車でやってきた。
わたし達三人も変身を解除し、その駐車場にいた。
ゆるキャラ達も一緒だ。
「説明して、お父さん!」
わたしはさっそく詰め寄った。
「千葉県の学園都市で、EPMの評価実験を自殺者が出たのに成功と判定したの?
お父さんもそれに関わっていたの?!」




