第19話 いろちゃんの秘密?! あおいとももの追跡大作戦! Aパート
エモーショナルプロジェクションマッピングのプロジェクターの故障という出来事によって、ディスコードの正体が判明した。
それは松木いろちゃんだった。
少なくともいろちゃんの姿をしていた。
と、いうのはその後普通にいろちゃんから連絡とお礼のメールが届いたのだ。
「エモバグは青だったみたいね。大丈夫だったかな?
こっちはめちゃくちゃダメ出しされちゃった( ゜Д゜)
でも、『一本書き上げただけでもすごいからまた見せに来て』だって!(*^^)v
なんかいける気がする!頑張る♪」
悪びれた風がないというより、ごまかしてる風でもないというより、端的にこちらで起こった事を知らない感じがする。
ディスコードはいろちゃんの偽物とかよく似た別人じゃないだろうかとわたしは思った。
ももはと言うと困惑していたがまずは問い正したしたりはせず、様子を見ようという話になった。
次の日、ももからメールが来た。
「あんた、あのディスコードの素顔どう思う?」
もちろんその事は気になってる。
「いろちゃんに似てた(>_<)」
「似てるなんてもんじゃないじゃない」
「でもいろちゃんがディスコードなんてそんな話あるかなあ(>_<)」
楽しい時間を過ごして、一緒にバトルして。
いろちゃんとあの冷たいディスコードが同一人物なんて信じられない。
「なんかいろちゃんじゃない気がするんだよね(>_<)」
「ところでその顔文字なに?」
「お気に入り!(>_<)」
「葵上さん!」
これは先生の声。現実に引き戻される。
「授業中に携帯を使ったら没収って言いましたよね?」
「言われましたです」
取り上げられる前に何とかももにメッセージを残す。
「スマホ没収された(>_<)」
放課後、先生にスマートフォンを返してもらったら、ももからメールが来てた。
アイオン上里店にいろちゃんには内緒で集合との事だった。
アイオンの隣のボーリング場1階のゲームセンターで待ち合わせ。むぎわら帽子と伊達眼鏡のももがいた。
帽子を持って来るように言われていたので、わたしもここで帽子を被る。
「ちょっと!紅白帽とかあり得ないでしょ!逆に目立つじゃない!」
「これしか持ってないよ」
「仕方ないなあ!これ掛けて!」
わたしはももがいつも掛けている、赤い伊達眼鏡を掛けた。
「真面目ぶって見えちゃう……」
「あんたは真面目ぶったくらいでちょうどいいって」
そう言うとぎゅっと麦わら帽子を深く被るもも。
わたしは紅白帽をしまった。
アイオン2階の本屋近くに設置された、マッサージチェアに下を向いて座るわたしともも。
しばらくするといろちゃんは現れた。
「いろは漫画雑誌を複数発売日に買っているから、必ず今日ここへ来る」
ももはいろちゃんの買う雑誌から行動パターンを読んでいたのだった。
元気そうな、張り切った感じのいろちゃん。
漫画を描いて持ち込んだ後なら、そうそういうもんだろうと思う。
怪しくなんてない。
「あ!命心こころちゃん!」
棚にかけられた青年誌の表紙にSAH40の前列センター、命心こころちゃんの姿が。
さすが東京進出のうわさもあるこころちゃん。
グラビア掲載もこれが初めてではない。
ももが漫画雑誌の発売日に詳しいのはこれが理由かな。
さて、雑誌を買ったら軽く文庫本コーナーをのぞいて、すぐに外に出たいろちゃん。
物陰でディスコードに変身なんて訳はなかった。
自転車に乗り込む。そう言えばバスじゃないなあ、とちらと思った瞬間だった。
「あれ、そっち?」
いろちゃんは自転車で北側の国道方面へ向かっていった。
梨農家に住むいろちゃんが家に帰るなら、南の農園地帯に向かうはず。
「追いかけるよ、あおい」
「あ、歩いて?!」
「走るの!」
自転車を走って追いかけるなんて!
幸運な事にいろちゃんは国道に沿って本庄方面へ向かって行った。
国道の見通しの良さと、ちょくちょく信号に引っかかる事で徒歩でもなんとか見失わずに済んだ。
でも、疲れた……。こんなに全力で走るの初めてかも。
「はぁ、はぁ、一体どこに……はぁ、向かってるの?はぁ、はぁ……」
「あおい、体力なさ過ぎ」
いろちゃんどころか、ももに置いて行かれそうになるわたし。
アイドル、梅桃さくらの運動量はやっぱり凄かった。
「曲がったわ。あそこね」
わたしには見てる余裕がなかったがいろちゃんはある店に入ったようだ。
わたし達も急いで向かった。
そこは古本屋さん、「ブックネフ」だった。
いろちゃんに遅れて店に入ったわたし達は、すでに棚の前で本を選んでいるいろちゃんを目撃した。
「何でまた本屋さん?」
アイオンの本屋さんも中古本を取り扱っているのに。
「品揃えが気に入らなかったんでしょうね」
そう言えば文庫本の棚の前にいる。
アイオンでも文庫本を少し見ていた。
「何をそんなにこだわってるんだろ?」
「……………」
ももが棚の上を指差している。
そこには本のジャンルが掲示されている。
「BLコーナー」
「BL、って何?」
「ボーイズラブの略」
「ボーイズラブって何?」
「男同士の恋愛の物語の事」
ももはさらっと言ったが、わたしは一瞬意味が分からなかった。
「な、何それ!?まあ多様性の時代ではあるけど……。それを何で女子のいろちゃんが……?」
「需要があるから出版されてるんでしょ。SAHのメンバーからも薦められた事あるし」
そう言うとももは動き始めた。
「これ以上はプライバシーの侵害。帰るよ」
確かにそうだ。尾行が無駄足だった訳でもある。
BLの事は気になるけど、後で調べてみよう。
しかし、これで帰宅という訳には行かなかった。
ブックネフ店舗前にある倉庫。
その上には刺々しい黒い仮面と装束を纏った小柄な少女の姿が。
「走ってるからどこへ行くかと思えば」
どうやらディスコードにつけられていたみたい。
「二人まとめて倒してやる」
まだいろちゃんはBLコーナーにいる!
やっぱりいろちゃんとディスコードは別人だ。
「NOと言いなよマジョリティ……」
国道沿いの店舗の壁は、運転者のメンタルヘルスのために重点的にEPMが投影されている。
その壁から黄色いエモバグが姿を現し、抑揚のない大音量の雄叫びを上げる。
『BLってクッソ気持ち悪いんだけどー!』
その話まだ引っ張るんだ。
<つづく>




