第18話 明かされるエキセントリックの過去! だけど深まるディスコードの謎!? Bパート
ライブハウス、レッドサインのオーナー、リョウさんはエキセントリックの正体、芽崎みどりのかつてのバンド仲間だった。
アイドルのプロデュースを始めたのも芽崎みどりにチャンスを与えるためだった。
でもロックを愛する彼女には理解してもらえなかった。
また、久しぶりに親バートンの声が聞こえたんだ。
エキセントリックから手に入れた三色のサイスフィアで、エキセントリックのコーデを消滅できるみたい。
なんとかしてエキセントリックにリョウさんの想いを伝える。
その上でエキセントリックのコーデをサイスフィア《さいたま》・リベレーション・ストリームで消滅させる。
それができればハッピーエンドな感じになりそう!
そのはずだったんだけど、結局その日はエモバグは現れなかった。
ならば明日こそは!と思ったらいろちゃんから電話が。
「明日出かけたくって。最悪、黄バグが出てもお願いしたいんだけど……」
すまなそうに、本当にすまなさそうにお願いしてくるいろちゃん。
わたし達の変身後の衣装の色とエモバグの色は密接な関係がある。
色が合っていないと「キレキレ攻撃」が成立しないのだ。
余談になるが詳しく説明すると、エモバグのネガティブな叫びは色によってジャンル分けされているのだ。
そしてそれはわたし達三人の得意なジャンル分けでもある。
お父さんが役所勤めで、この街のイノベーションに関心のあるわたしが、政治経済と社会問題の青。
アイドル活動をしているももが、芸能のピンク。
マンガ、アニメ、ゲーム、特撮好きのいろちゃんが、サブカルチャーの黄色。
色が合っていないとキレキレの反論ができないため、キレキレ攻撃が成立しない。
そして、キレキレ攻撃ができないと、エモーショナルパワーが貯まらなくて必殺技が使えない。
正確にはキレキレ攻撃でなくてもちょっとだけエモーショナルパワーは貯まるが、50回は攻撃しなければ必殺技は使えない。
それはとても大変なので原則として、色は必ず対応させてバトルするのが鉄則なのだ(わたしはかつてこの事を知らずに青バグ退治を任せて、ももにめちゃくちゃ怒られたことがある)。
それを承知でお願いしてくるいろちゃん。その理由は……。
「初めて漫画が完成したから、持ち込みに行きたいんだ」
漫画雑誌の出版社に作品を見てもらうみたい。
明日の予約を以前から取り付けていたのだった。
漫画家志望のいろちゃん。
学校とキュレーター活動のかたわらで頑張って書いてたんだね。
「わたしはいいよ。頑張って、いろちゃん!」
「ありがとう!ももちゃんにも電話するね」
しかし、ももは何て言うだろう?
エキセントリックとのバトルも大詰めのこのタイミングだ。
「そんな場合じゃない!」くらい言いかねない。
と、思っていたが、その後、ももからメールで、
「明日はいろが急用だから、わたし達が代わりに頑張るよ」
とのコメントが。
よかったね、いろちゃん。
なんだかいろんな事があって胸いっぱい。
いろちゃんの持ち込みは上手くいって欲しいけど、黄バグが出たら大変。
それに、エキセントリックの件も気掛かり。
でも、サイスフィア・リベレーション・ストリームは三人揃わないので使用できない。
結局は出たとこ勝負なんだけど、そわそわしちゃってなかなか眠れなかった。
「あおい、エモバグが出たべぇ!」
果たして翌日、エモバグは現れた。
「い、色は何ベェ!?」
わたしは緊張のあまりミムベェの名前を呼んだはずが、語尾でキャラ付けしてる感じになってしまう。
「青だベェ!」
よかった。青ならわたしが頑張ればそれで済む。
どうやらエキセントリックも空気を読んで、黄バグにはしなかったようだ。
と、わたしは思ったがそうではなかった。
なぜならエモバグと一緒に現れたのはディスコードだったのだ。
「場所はどこ?」
「秋山庚申塚庚申塚(こうしんづか)古墳群だベェ」
本庄市でも旧児玉町と呼ばれる地域。
この前言ったカリヴァリ君のアイス工場もほど近い、児玉千本桜の近くだ。
ももと連絡を取ってバスで合流。
国道254号線を小山川方面へ、向かうと青い巨人の姿が見えてきた。
家と畑ばかりで変身場所に困るが、避難をもしてるし、人はそんなにいなかった。
霊園のそばの林はEPMのプロジェクターの映像が届きそうなのでそこで変身。
「咲き誇るキュレーター、プリジェクションサクラ!」
「はじけるキュレーター、プリジェクションソーダ!」
小山川方面から古墳に向かって行くエモバグ。
秋山庚申塚古墳群は六世紀頃の円墳で。
横穴式の石室があり、武器、馬具や耳飾りが出土した。
1965年3月1日付けで児玉町(当時)指定史跡に指定された。
埴輪片が採取されているという。
埼北市本庄はにぷーというゆるキャラを擁しているほどの埴輪の産地。
この古墳は何としても守らなければ!
そして、可能ならばエキセントリックを説得したいと思っていたのだけれど、エモバグの肩に乗っていたのは小柄なキュレーショナー、ディスコードだった。
刺々しい黒いドレスと仮面は一緒だが、髪は仮面からわずかにはみ出す程度の、短か目の黒髪でボブカットに見える。
「アイツがあおいが戦ったっていう?」
「うん、ディスコードだって」
「不協和音か。不吉な名前ね」
「…………」
「このコード」とは言わなかった。
今までは生身で戦ったが、彼女もエモバグを出せるようだ。
まあ当たり前か。
「手を引けと言ったわ」
静かな物言いのディスコード。
「どうなっても知らないから」
そんな物言いも静か。怒ってもいない。
どうでもいいのかも知れない。
「エキセントリックは出て来ないの?」
これはもも。
「彼女は乗り気じゃないみたい。わたしが変わってもらった」
さいたま・リベレーション・ストリームを警戒しての事ではなさそうだ。
「わたしもエモバグをいろいろ試したい」
そう言うとディスコードはふところからバイザーを取りだした。
それは黄土色だった。
ディスコードはそれを掛けると叫んだ。
「意思を貫け、マジョリティー……!」
地面からもう一体の青いエモバグが現れ、一体目のエモバグと合体した。
「いろいろね……」
やはりエモバグは巨大かしてパワーアップ。
最初から巨大エモバグでのバトルになってしまった。
例によって抑揚のない大音量の声がする、が。
『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだー!』
うん?いつものインターネット上のネガティブな意見じゃない。
有名な本の一説みたい。
これにキレキレの反論なんてできないけどなあ。
と思ったがノシノシ歩くエモバグの続けた言葉は、
『下らない連中には関わっちゃダメー!』
『アホの相手をしてるとアホになってしまうー!』
それで納得した。
なるほど。
解釈する人次第で偉人の名言も反知性主義に変わってしまうという事みたい。
「あおい、なんか変な事言うエモバグだけど平気?」
「大丈夫だよ。サクラはキュレーショナーをお願い」
「オッケー」
巨大エモバグの肩のディスコードに向かって行くサクラ。
わたしも古墳群に接近される前に決着を付けないと!
『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだー!』
サクラを狙ってパンチを繰り出す巨大エモバグ。しかし、わたしはその隙を狙って…!
「その言葉を、のぞかなければ済むという意味だと思っているなら大きな間違いなんだよ!」
反対の腕に飛び膝蹴りをくらわせた。
エモバグはバランスを崩した。
「キレキレダだベェ!」
ミムベェが叫ぶ。ちゃんとキレキレ攻撃は成立している。
体勢を整えたエモバグは雄たけびを上げた。
『下らない連中には関わっちゃダメー!』
こちらに突進してくるエモバグ。
「その言葉はすでに怪物を目の前にしている際の言葉よ!関わらないで済む状況の言葉じゃない!」
スライディングからの足払いでエモバグを転倒させる!
ここで転倒中にもう一回攻撃を加えようとしたわたし。
もうちょっとでエモーショナルパワーを貯められると思ったからだ。
『アホの相手をしてるとアホになってしまうー!』
ここで倒れてる状態のエモバグから予想外のパンチが飛んで来た!
と言っても狙いすました一撃ではなく、ただ暴れただけなので回避は可能だった。
「相手をしてもしなくても、あなたは怪物と同じ環境にいて同じものを見てる!」
かかと落とし!そして……、
「深淵から目を背ける事は反知性主義の始まりなんだからー!」
ここでわたしに当たらなかったエモバグのパンチがEPMのプロジェクターに当たった。
わたし達の変身が一瞬乱れた。
明らかにプロジェクターの柱が折れ曲がってしまう。
でも、すぐに映像は元に戻ったのでバトルを継続した。
マウントからの正拳突き!
ここでわたしの胸のブローチが輝く。
もう新必殺技も小慣れたもの。
巨大エモバグが起き上がるまでに、エモーショナルなメントヌは完成していた。
ブローチから出たエモーショナルなソーダは、突き出した手の先のエモーショナルなメントヌによって勢いを増し、巨大エモバグに命中。
エモバグは雲散霧消した。
「サイスフィアゲットだベェ!」
ミムベェが後に残った青いサイスフィアを回収して、サイストレージに収める。
これで一件落着と思ったら……!
「スキあり!」
ディスコードが一足飛びにわたしに向かって攻撃を仕掛けてきた!
「あっ、こら待て!」
サクラの声がする。
どうやら逃げると見せかけてこっちに仕掛けてきたみたい。
だけどここでさっきエモバグの攻撃を受けたプロジェクターが倒れてしまう。
プロジェクションマッピングの映像が届かなくなった事で、わたし達の変身が解ける。
わたしは紺のベスト。
ももは黒のベスト。
そして、わたしのすぐ近くのディスコードは白い夏服セーラーの姿になっていた。
急に変身が解けたせいで、バランスを崩して転倒している。
「大丈夫?」
手を差し伸べるわたしだったが、その手は無言で払われる。
走り去っていくディスコードだった少女。
わたしとももはその顔を見た。
そのセーラー服の少女は、小柄で、おかっぱの、目がくりっとした、その少女は……、
松木いろちゃんだった。




