第16話 君は誰にキックをする? アンチ?それとも信者? ペアーの新必殺技! B、Cパート
農協とストライプバックスコーヒー目当てで上里サービスエリアに向かったわたし達。
しかし、そこでもやっぱりエモバグに遭遇するのだった。
『アンチうざい!しねー!』
『信者うざい!しねー!』
二体のエモバグの言っている事がわたしにはさっぱり分からない。
が、とにかく迎え撃つしかない。
わたしとももは変身した。
「だ、誰に死んで欲しいの?!死ねはよくないよー!」
『嫌いなら見るな!文句を言うなー!』
『自由に意見言わせろ!文句くらい言わせろー!』
「な、何の話?」
話題がかすりもしないわたし。
そんなわたしのパンチもかすりもしない。
「サクラ、このエモバグ何を言ってるの?」
アンチってのが何なのか分からないし、信者って単語が聞こえるけど宗教の話じゃないっぽい。
「あー、アイドルの世界でもあるんだけどさ」
ももは意味は分かるようだけど、
「マナーを守って仲良くご観賞下さい」
「ご意見ご感想は入力フォームからお願いいたします」
パンチにもキックにもパワーが感じられない。
「極力関わんないようにしてるからね」
ももにもキレキレ攻撃はできない。
やっぱり黄色いエモバグはいろちゃんの専門らしい。
「あっはっはっは!しまんねえなあ」
エキセントリックが現れた。
彼女はお腹を抱えて笑っていた。
「あのおチビちゃんが来たところでよ、二体同時に相手にできるかねえ」
「いろちゃんを甘くみないで!」
と言ってみたものの今日のいろちゃんは調子悪そう。
「こんな時に黄色のエモバグが二体なんて」
『こっちの言ってる事が正しい!信者は歪んだ見方してるからダメー!』
『アンチは自分の気に入らない話はつまらない事にしようとしてるからダメー!』
反論が思いつかず、揃って吹っ飛ばされるわたしともも。
「大丈夫?二人とも!」
いろちゃんだった。野菜の入った紙袋を持っている。
農協から戻って来たんだ。
「黄色が二体だったんだね」
車を踏んづけながらサービスエリアに近づいて来るエモバグ達を迎え打ついろちゃん。
「アンチうざいーとか信者うざいーとかだって!」
「ふむふむ。そういう事ね」
納得してるみたい。
「助けて!この人達が何言ってるのか、全然分かんないの!」
「任せて!」
いろちゃんはスマートフォンをかまえて言った。
「わたしは言いたい事だらけだから」
(わたし達と対照的に)気合い十分のいろちゃん。
その姿が頼もしくもあり、怖くもあり。
「キュレーティン!」
いろちゃんにエモーショナルプロジェクションマッピングのプロジェクターから光が降り注ぐ。
頭髪と眉毛とまつ毛と唇、夏服セーラーが黄色になり、袖とスカートの裾に白いフリルが現れる。
胸には黄色い宝石の付いたブローチ。
白い羽飾りの現れたおかっぱの髪が気持ちふんわり膨らむ。
「実りのキュレーター、プリジェクションペアー!」
『文句言うなら見るなー』
ひらりとパンチをかわすいろちゃん。
「あなたがスルーすれば問題ない事でしょ!」
ペアーの肘打ちがエモバグのみぞおちに炸裂する。
『こっちの言ってる事が正しい!信者は歪んだ見方してるからダメー!』
後ろから迫るもう一体も華麗にかわす。
「正しいかどうかの問題じゃないでしょ。ストレス発散のために言いたい放題言ってるだけじゃない!」
エモバグのキックをかわす。
「そんなの、卑しい事なんだからー!」
そして、ひざ蹴り。
やっぱりいろちゃんの攻撃は黄エモバグにはキレキレだ。
そして、ブローチが輝く。これで必殺技が撃てる。
腰を落として構えるいろちゃん。
ブローチから足へ光が移動する。
「いくよ!あたしの必殺技!」
多分、特撮のなんかなんだろう。
「ペアークラッシャー!」
一体のエモバグが消滅。
まだブローチが輝いている。その輝きも足の方へ移動する。
「連発?!」
「よく分かんないけど、いけそうな気がしてたんだ」
「その命、神に返しなさい!」
なんか、なんかのなんかなんだろう。
「ペアークラッシャー!」
二発目の必殺技も命中!エモバグはかき消えた。
「サイスフィアゲットっち」
エモバグの残したさいたまを回収しようとするこむぎっちゃん。
「そうはいくかよ!」
見ればエキセントリックの仮面には黄緑のキュレーションサイトがかかっている。
「うんざりなんだよマジョリティ!」
エキセントリックが叫ぶとこむぎっちゃんの目前のサイスフィアがエキセントリックに引き寄せられる。
「さいたまー!」
わたしは叫んだけどどうにもならなかった。それどころかもう一個のサイスフィアもエキセントリックの元へ。
「おらあ!」
エキセントリックは二つのサイスフィアを握りしめた。なんて事を!
エキセントリックが両手を合わせると、サイスフィアは合体して大きくなった。
そして、大きな黄色いエモバグに変化する。
『アンチも信者もしねー』
どうやら合体して蘇ったようだ。セリフが混ざってる。
『誰でもいいから叩かせろ!誰でもいいからしねー!』
そのパワフルな踏み付けは、一撃で駐車場の車を折り曲げる。
ペアーのブローチはまだ輝いているが、相手は巨大エモバグだ。
必殺技のパワーアップを成し遂げなければ倒せない。
『オレの好きなものは神ー!オレの嫌いなものはゴミー!』
風圧が起こるほどのパンチ。
しかし、いろちゃんはひるまない。
冷静にジャンプでかわした。
「反論はしないの?いろちゃん!」
「パワーは貯まってるし。これはスルースキルって言うんだよ」
そういう事らしかった。
そして、三度しゃがんでキックの体勢になるペアー。
「ちょっとくすぐったいよ!」
なんか、なんかのなんかなんだろう、なんかね。
いろちゃんのブローチの輝きが足に向かい、ジャンプキック。
ペアークラッシャーが炸裂。
でも、やはり、エモバグは消滅しない。
しかし、ここでペアーはまだ輝いている足でエモバグを蹴りあげた!
強力な一撃でエモバグは空中に打ち上げられる。
さらにエモバグを追いかけてペアーもジャンプ。
エモバグの身体を捕まえると片足をエモバグの首に引っかける。
さらにエモバグの両腕を両手で捕まえ、締め上げる。
「ペアークラッシャーハーヴェスト!」
その複雑な関節技の形はまるで風に揺られる稲穂のよう。
そのまま落下するとすごい衝撃音が。
さすがの巨大エモバグも消滅した。
「上里の特産品、小麦を表現した美しい落下激突技っち」
こむぎっちゃんも満足そう。
ペアーの勝利だ。巨大エモバグを見事撃破した!
「サイスフィア、ゲットっち」
後には黄色いサイスフィアが。こむぎっちゃんはそれを回収する。
「チッ、おチビちゃんのくせにやるじゃねえか!」
エキセントリックは飛び去って行った。
「任務完了っ!」
変身を解除したわたし達。
「一時はどうなる事かと思ったけど、やったわね、いろ」
落ち込んでいたいろちゃんだったが、見事新必殺技を編み出す事に成功!
二律背反のエモバグの、心揺らす言葉も役立たずの大勝利だった!
「実はあの必殺技はこれのおかげなんだ」
いろちゃんがお土産コーナーで買ったのはこむぎっちゃんチーズケーキ。
「このパッケージの小麦畑で思いついたの。二人のおかげだね!」
しょうもない言い争いだったが、思わぬ収穫があったみたい。
「次はももももの番だね」
後は、ももの必殺技がパワーアップすれば、ピンクバグにも対応できる。エモバグの巨大化も怖くない。
「あんたねえ、あんまりももももって言ってるとあんたの事もあおあおって呼ぶわよ」
ところが、腕組みをして、いらっとするもも。だったが、
「えっ……!」
何故かいろちゃんが声を上げた。
「あおあおはなんかラブラブな感じがする……」
「ちょ、何言ってんの?いろ!」
赤面しているいろちゃん。
ももまでみるみる赤面してくる。
「二人は絵になるかな、とは思ってたけど」
「変な事言わないでよ!」
「いいよ、あおあおって呼んでも。ももももー」
「呼ばない!ももももって言うな!」
こうして巨大黄色エモバグは倒され、上里サービスエリアの平和は守られた。
プリジェクションペアーの必殺技もパワーアップ。
次はサクラの番だよ、もももも!
☆☆☆
これは後で聞いた話なんだけど。
その夜、埼北市某所にエキセントリックはいた。
室内ではあるが、エモーショナルプロジェクションマッピング用のプロジェクターが設置されている。
公共の設備ではない。
ハンドメイドのプロジェクターだ。
そこには仙人のような老人の姿のキャラクターの姿もあった。
マジョリティの首領、ゴッドGだ。
そこはマジョリティの新しいアジトだった。
扉を開け、黒い刺々しいキュレーショナーのドレスを着た小柄な少女が。
ディスコードだった。
「お、来やがったか?」
「呼び出しとは珍しいのう」
ディスコードの姿に気付いた、エキセントリックとゴッドGは口々に言った。
「ゴッドG、確認したい事があるわ」
ディスコードは殺気立っていた。
「ふむ、何かのう?」
「セゾン姉妹は最後のバトルの時、あなたに操られていたと言うのは本当?」
張り詰めた空気が流れる。
ゴッドGはただひげを撫でつけていた。
エキセントリックは一瞬動きを止めたが何も言わなかった。
「本当じゃ」
しばらく後にゴッドGは言った。
「キュレーショナーにはそんな仕掛けがあるって言うの?」
「それが気にくわないという事かのう」
「当然でしょ!」
「まあ面白くはねえなあ」
エキセントリックはここで口を開いた。
「あたいらも操れるって話だろ」
「ほっほっほ……」
ゴッドGは一笑に付した。
「操れるのはシンクロニシティ能力のあるセゾンのコーデだけじゃよ」
「……それを信じろって言うの?」
「と、言うより操る事などできん。エキセントリックのコーデもディスコードのコーデも相当の暴れ馬じゃ。アンビバレントのコーデほどでないにしてものう」
「本当だろうなあ?」
エキセントリックも不信感を露わにした。
「わしの目的はあくまでこの街のイノベーションを破壊する事なのじゃ」
「わたしも同じ思いだけど、隠し事は気に入らないわ」
「セゾン姉妹を操ったのも我らの秘密を守るためじゃ」
実際、姉妹の敗北をきっかけに児玉工業団地のアジトは放棄する事になってしまった。
「分かったわ。わたしも歪んだイノベーションは必ず破壊する」
「ま、そうだわなあ、やる事はやらなきゃな」
三人ともこの街のイノベーションへの敵意に関しては意気投合するのだった。
「ディスコード、お主用のキュレーションサイトも近い内に完成じゃ」
「そう」
「その前にあたいも本腰入れねえとなあ」
黄緑のキュレーションサイトを真上に放り投げるディスコード。
「あのピンク色が新しい技を手に入れる前に潰してやるぜ」
そしてキャッチ。
「お前の出番はねえぜ、ディスコード」
なんだかすごいね!




