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第13話 新たなるキュレーショナー! エキセントリックとディスコード登場 B、Cパート

「バブル時代はジャパンアズナンバーワンのいい時代ー!」


 マジョリティの元アジトを埼北警察と共に調査したわたし達は、パトカーで帰宅していた。

 しかし、途中にあるスーパーマーケット、ヤオコニで青いエモバグに遭遇してしまう。


「あおい、変身するベェ!」


 手近なエモーショナルプロジェクションマッピングのプロジェクターから美里町のゆるキャラ、ミムベェが現れる。


 サッカーボールくらいの大きさの紫色の鳥のような姿をしていて、手は葉っぱになっている。

 これは美里町の特産のブルーベリーの葉に由来する。

 語尾の「ベェ」がトレードマークだ。


 と、言ってもプロジェクションマッピングで作られたキャラクターでオペレーターの人がいるみたい。

 普通の人には見えない。

 わたしはミムベェが見えた事でプリジェクションキュレーターに選ばれたんだ。


 手近なATMの陰でスマホを取り出すわたし。

 お父さんの前での初めての変身だった。


「キュレーティン!」

 水色の丸の中に黒く「psy」の文字が書かれたアプリを起動。

 プロジェクションマッピングの光に照らされたわたしのブレザーが変化していく。


 紺色のブレザーが鮮やかなシアンに変わる。

 Yシャツも同じ色になり、ブレザーと区別が付かなくなる。

 胸元のリボンの中心に大きな宝石型のブローチが。

 服の袖とスカートの裾には白いフリルが付く。

 髪はなんとなくフワッとしたくらいだが、羽飾りのようなカチューシャが装着されている。


「安全なところにいて、お父さん」

「気を付けるんだよ、あおいちゃん!」


 とても心配そうなお父さんに胸を締め付けられる。

 わたしがプリジェクションキュレーターである事を以前から知っていたんだから、ずっと心配かけてたんだろうな。


「サクラとペアーもこっちに向かっているベェ」

「分かった!」


 二人もまだ帰宅途中のはず。

 そう時間はかからないだろう。


 まあ青バグならわたしがやっつけちゃえばいいんだけど。

 そう思ってエモバグに向かっていくわたし。


 しかし、そう簡単には事は運ばないのだった。


「オラァ!」


 エモバグ目前のところで、飛びかかって来る黒い影。

 わたしは空中で防御するしかなかった。


 もちろんエモバグには近づけない。

 駐車場の車を蹴散らしながら店舗に近づいていくエモバグ。


「てめえ、邪魔してんじゃねえぞ」


 そこにいたのは黒い仮面と黒いドレスの女性。

 セゾン姉妹と同じキュレーショナーに違いなかった。


 背が高い。高校生くらいかもっと上かも。

 口元の見える黒い仮面から黄緑の長髪がのぞいている。


「そっちこそエモバグ退治の邪魔をしないで!」

「はっ!そうはいかねえよ。この腐った街をぶっ壊すのがあたいの役目だかんな」


 このキュレーショナーも街に恨みを抱いているのだろうか。


「ソーダ!待たせたわ!」

「新しいキュレーショナーが出たの?」

 サクラとペアーも駆け付けて来た。


「お揃いじゃんか。埼北プリジェクションキュレーターのお嬢ちゃん達」

 店舗の屋根に着地したキュレーショナーは不敵に笑う。


「あたいはマジョリティのキュレーショナー、エキセントリックだ。よろしくな」

 エキセントリック。セゾン姉妹の情報にあった内の一人。

 さっそく現れたのだった。


「あおいはエモバグの相手をして」

「オッケー!」


 わたしは青バグ。

 ももといろちゃんはエキセントリックと交戦。


 これまでのセオリーを通りバトルを進める。

 3対2なのでセゾン姉妹の時より戦いやすいはず。


 わたしは青バグに集中する。


『海外旅行に、豪遊に、あの頃はサイコー!あの頃が懐かしいー』


『バブル時代のゴージャス感、おしゃれー!』


 一見、ネガティブじゃないけど、ここはやはり間違いを正すべきだろう。

 バブルは泡沫でしかないのだ。


 ちなみにエモバグの大きさは普通だ。

 今のところ、エモバグを強化したバイザー、「キュレーションサイト」は使っていない。


『バブル時代はジャパンアズナンバーワンのいい時代ー!』


 エモバグがパンチをしかけて来たのをかわし、


「バブル時代は実体経済からかけ離れた投機によって成り立っていた時代なんだよ!」


 わたしのひじ打ちがヒット。


「キレッキレだベェ!」

 ミムベェが叫んだ。

 キレキレの反論と共に攻撃する事で「キレキレ攻撃」は成立する。


 よろけたエモバグだが、すぐに膝蹴りで反撃してくる。


『海外旅行に、豪遊に、あの頃はサイコー!あの頃が懐かしいー』


「バブル崩壊もロストジェネレーションも近代以降何回も起こっているのよ!そんなものを懐かしがってどうするの!」

 わたしは足元を払うように回し蹴りを放った。

 片足立ちだったエモバグは盛大に転倒した。


 立ち上がって来るエモバグ。


『バブル時代のゴージャス感、おしゃれー!』

 大きく振りかぶって、殴りかかって来た。


 それを回避して、

「過去の栄光より、未来へのイノベーションでしょ!」

 カウンターの膝蹴りをエモバグのみぞおちに。そして、


「災害や異常気象に備えて、必要なのは天下百年の計なんだからー!」

 空中での後ろ蹴りがヒット。


 ここでわたしの胸元のブローチが光輝いた。


「必殺技、いけるベェ!」

 ミムベェが叫ぶ。

 キレキレ攻撃を当て続ける事でエモーショナルパワーは貯まる。

 そして、ブローチが光輝くと必殺技が使えるようになるのだ。


「行くよー!」


 わたしは両腕をエモバグに向かって突き出し、両手を広げた。

 気持ちを集中するとブローチの光が突き出した手のほうに移動し、


「ソーダスプラッシュ!」


 わたしの掛け声と共に、光は炭酸のような泡の水流に変わる。

 プリジェクションソーダのエモーションがエモーショナルな炭酸に変わったのだ。


 それを浴びたエモバグは雲散霧消していき、後には青い光の球体がのこされる。

「サイスフィア、ゲットだベェ」


 ミムベェはその球体、サイスフィアをどこからともなく取り出した箱、サイストレージにしまう。

 ミムベェがプロジェクションマッピングのキャラクターならば、サイストレージもプロジェクションマッピングのデータなのだろう。

 サイスフィアもそうだ。


 サイスフィアはエモバグの元になっている、人々のネガティブなエモーションの塊だ。

 ネガティブとは言え、収集する事は自律型AIの研究に重要な役割を果たすと言われている。


 さて、首尾よくエモバグを撃退したわたし。

 サクラとペアーがエキセントリックを食い止めてくれたおかげでもある。


 まあセゾン姉妹とのバトルと違って2対1だし、幾分楽なはず、と思いきや。


 ガックリと膝を折っているサクラとペアー。

 その前に余裕の表情で立つエキセントリック。


「あんだよ?エモバグはやられちまったのかよ?これから加勢しようと思ってたんによぉ」


 二人掛かりで歯が立たなかったという事なのだろうか。


「まあ今回は様子見だからなあ。また会おうぜ」

 そう言うとジャンプを繰り返して去って行くエキセントリック。


「二人とも大丈夫?」


 わたしは二人に駆け寄った。

「さすがにセゾン姉妹とは違うわね」

「あとちょっとでソーダちゃんの方に向かわれるとこだったよー」


 どうやら今度の敵は一味違うようだ。

 わたしもエモバグの色が青でなければエキセントリックとバトルする事になる。

 これは油断はできない。

 気を引き締めなければ!


 ☆☆☆


「キミ何ヴァリくーん!オレカリヴァリくーん♪」


 その日の夜、わたしはコンビニでカリヴァリ君を買い、上機嫌で家に帰ろうとしていた。


 ところがそこに飛びかかってくる黒い影。

 間一髪で交わすが、影は着地後、素早い身のこなしで付近の電柱の上に跳躍した。

 わたしはその姿を見上げた。


 刺々しいデザインの黒い仮面とコスチューム。

 間違いなく、キュレーショナーだ。

 仮面というかヘルメットのような頭部を覆うデザインだけど。


 でも、昼間出会ったエキセントリックとは別人。

 小柄な女の子だった。

 セゾン姉妹と同年代かも。


「わたしの名前はディスコード」

「ま、またキュレーショナー?!」

 エキセントリックに続いて、またもや新しいキュレーショナーの登場だった。


「ディスコードの意味、知ってる?」

 尋ねてくる少女。


「このコード!」

 これば即答。英語は得意なんだ。

「違う」

 違った。


「不協和音」


 少女は言った。

「ディスコードの意味。わたしは実験都市計画を阻止する不協和音」


 やっぱり他のキュレーショナーと目的は同じみたい。

 それは順当なんだけど、重大な疑問はあった。


「な、なんでわたしを襲うの?」

 三里中の制服の長髪の少女でしかないわたしを、キュレーショナーが攻撃する理由はないはず。


「葵上あおい、あなたがプリジェクションソーダ」

 名前まで!セゾン姉妹も多分知らないのに。


「梅桃ももがプリジェクションサクラ。全部知ってる」


 ついに敵に正体が知られてしまった。

 でも、昼間のエキセントリックはそんなそぶりは見せなかった。


 そう言えば、世ゾン姉妹の話によるとキュレーショナー同士は仲が悪いらしい。

 情報を共有してないのかも。


「この歪んだ街のイノベーションを破壊する」

 それでもこの子もやっぱりイノベーションが気に入らないようだ。


「イノベーションは歪んでなんかないよ」


「あなたが分かっていないだけ。わたしは実験都市なんて認めない」

 そう言うとディスコードは身構えた。

「変身してわたしと勝負しろ」


「喧嘩はしたくないよー」

 セゾン姉妹とのバトルだって、すごく嫌だった。

 人間同士で戦いたくなんかない。


 沈黙するディスコード。

 しばらくすると、

「実験都市計画を中止させるのがわたしの目的。邪魔をするなら排除する」

 そう宣言された。


「邪魔はするけど、わたしは誰も傷つけたくない。戦いたくないよ」

 そう答えるしかない。

 街の平和は守りたいけど、傷付け合いたい訳じゃない。


「警告はした。次は生身でも構わず攻撃する」

 そう言うとディスコードは構えを解いた。

 そして、ジャンプを繰り返し去っていった。

 その黒い姿は夜の闇に消えて行った。


 イノベーションは偽りじゃないし、歪んでない。

 未来を変えられる限られた可能性だ。


 この子にも何か、セゾン姉妹のように事情はあるのだろう。

 でもわたしはこの街のイノベーションをあきらめる気はない。

 断じてない。


 争いたくない。傷付け合いたくない。

 でも、新たな二人のキュレーショナーがイノベーションの障害になるのならわたしは……

 雲の多い、月のない夜空をわたしはただ見つめていた。

【あおいちゃんのイノベーティブ現代用語講座】

・ディスコード

不協和音や不和、仲違いの事。

名乗るにはちょっと不穏だよね。

でも「このコード」でも間違いじゃないと思(ry

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