表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/100

第12話 倒すより助け合いたい! 想いを一つに、三人の新必殺技! Bパート

 埼北市庁舎を襲撃してきたセゾン姉妹。

 なんだかいつもと様子が違う。

 誰かに操られているのかも。

 彼女達を止めるために必殺技を使おうと思ったら、謎の声が聞こえてきたんだ。


(エモーショナルアーツを彼女達に使ってはならない。身体にも精神にもダメージを与え、命を奪う可能性もある)


 エモーショナルアーツなんて言い方、聞いた事ない。一体誰なんだろう?

 そして命を奪うって。


「じゃあどうすればいいの?」

(サイスフィアを使うんだ。彼女らの作ったエモバグには彼女らのエモーションが保存されている。

 それを使った技なら、セゾンのコーデをディタッチできる)


「セゾン姉妹の本来のエモーションを使えば、コーデを解除できるかも知れないって事ね?」

(さすがに筋がいいね、あおい君)

 わたしの名前も知っている。本当にこの声は一体?


(君達三人が三色のエモーションを同時にぶつければ、あの子たちをコーデの呪縛から引き剥がす事ができる)

「そうなんだ!やった!」

 わたしはすぐにもセゾン姉妹を助けたいと思った。でも、


「待ちなさい!」

 サクラだった。

「いきなり誰だか分からない奴の言う事をはい、そうですかって鵜呑みにできないわ」

(そうかね)

「姿を見せて、名を名乗りなさい」


 しばらく間が空いた。そして、

(姿を見せる事はできないが、名は親バートンとでも名乗っておこう)

「ふざけてんの?」


 子バートンにかけただじゃれだろうか?

 しかし、ももは余計に眉間に皺を寄せてしまった。


(信じる信じないは君達の自由だ。だが、これはわたしが提出できる唯一の解決法だ)


「…………」

 ももは不信感を拭えてない。

「どうする?また来ちゃうよー」

 と、いろちゃん。

 セゾン姉妹は起き上がって態勢を立て直してきた。


『もういや!戦いたくなんてない……。うちに帰りたい……』

『つまんないなんて言わないから、お父さんとお母さんに会いたい……』


 聞こえてくるのは、インターネットのアンダーグラウンドの悪意なんかじゃない。

 助けを求める子供達の声だ。


「やろうよ!」

 わたしは言った。


「あの子達を助けたい。可能性があるならやってみようよ」

「わたしも。倒すのがヒーローじゃない、助けるのがヒーローだよ!」

 ペアーもやる気まんまんだ。

「そりゃあわたしだって助けたいに決まってるでしょ」

 と、サクラ。


 セゾン姉妹を迎え打つわたし達。

 本気でバトルなんてできない。

 あくまでも時間稼ぎ。


「ミムベェ!サイストレージを出して」

「な、なんだベェ?」

「いいから!はやく!」


 わたし達はサイスフィアの保管された、サイストレージの前に集合した。

 どうやら親バートンとの会話はミムベェ達には聞こえてないみたい。


(それぞれの色のサイスフィアを取りたまえ)

 わたしが青、ももがピンク、いろちゃんが黄色のサイスフィアを手に取る。


(サイスフィアをエモーショナルドライブ……、胸のブローチに格納するんだ)


 エモーショナルドライブって言葉も初めて聞いた。

 わたし達のブローチの正式名称なのかな?

 言われた通りにブローチに当てると、サイスフィアは吸い込まれた。


(これで準備は整った)

 必殺技を出す前みたいに気持ちが盛り上がってくる。


(後はエモーショナルパワーを投射するだけだが、三人で同時に当てなければ、対象のエモーションを再現できない)


 三人が同時に。

 顔を見合わせたわたし達。

 でも、ここまで来たらやるしかない!


「かけ声でタイミング合わせるよ」

 アイドルグループをやってるももは、こういうのは慣れてそう。


「じゃあサイスフィア・リベレーション・ストリームでどうかな?」

 ペアーが言った。

「何それ?」

「必殺技の名前!」


 さすがヒーロー大好きのいろちゃん。

 もう名前を思い付いていた。


「名前は好きに決めていいわ。でもちょっと長いかも」とサクラ。


「そんな時は、サイスフィアをさいたまにすればいいんだよ!」

 わたしはここぞとばかり言った。


「さいたま・リベレーション・ストリーム……か。まあ、語呂はよくなったわね」

「言いやすいね。これならいいかも!」

 やった!今回のさいたまは二人の承認が得られた!


「プリジェクションキュレーター、倒す!」


 迫って来るセゾン姉妹を迎え打つ三人のプリジェクションキュレーター。


「絶対お父さんとお母さんの所に返してあげるからね!」

「こんなのちゃちゃっと済ませるよ。今日もライブあるんだから」

「三人で力を合わせて……!」


(三人同時にエモーションを解き放つんだ。タイミングがずれればただの攻撃技になってしまう)


 わたし達は片手を前に出して、手を広げた。

 絶対にこの技を成功させて、あの子達を助ける!

 三人の想いは一つ!……と思ったら、意外にもペアーは震えていた。


「三人同時になんて……、できるのかな……。もしこれを失敗したら、あの子達が……」


「できるよ」

 わたしはペアーの広げた手を後ろから握った。

 ペアーの手の震えが伝わってくる。

「震えなくって大丈夫……」

 こうすればペアーの震えは止まる。止まるはず。


「あんたまで一緒に震えてどうすんの」

 わたしの手も震えていた。

 そのわたしの手をサクラが包み込む。


 するとサクラの手も震え出した。

「ももももだって」

「ももももって言うな」


 でも、同時に二人のセゾン姉妹を助けたい想いも伝わって来た。

 二人のエモーションが、伝わってきた。


「これはきっとEPMを通じてわたし達のエモーションが繋がってるんだよ!」

 そして、確信した。

 わたし達の想いは同じ。不安な気持ちも含めて。


「今まで三人で頑張ってきたわたし達ならできるよ!」

 わたしは握った手に力を込めた。


「そうね、しっかり息を合わせて練習したライブの前みたい」

 サクラもわたしの手を強く握ってきた。


 その時、ペアーも上を向いた。

「あたし達はヒーロー!あたし達ならできる!」


 もう誰も震えてなんかいない。


 重ねた手を迫って来るセゾン姉妹に向ける。


「せーの!」


 それぞれのブローチから三色の輝きが、広げた手に伸びて行く。


「さいたま・リベレーション・ストリーム!」


 叫びと共に、三色の光が一つになって、大きな光線になった。

 光線はセゾン姉妹を包み込む。


「お願い!」

 いろちゃんが叫ぶ。


「こんなところでつまづいてなんかいられないでしょ!」

 ももが叫ぶ。


 あの子達を必ずお父さんとお母さんの元へ返す。

 実験都市計画も成功させて、両親と一緒にいられる時間を作る。


 ただ失うだけの、ただ奪われるだけの、ただがっかりするだけの世界なんてもうたくさん。

 あの子達を助けて、実験都市を守って、そして世界を変えるんだ。

 それがわたしの、わたしたちの……


「イノベーーーション!!!」


 セゾン姉妹のコーデから黒い小さな四角いかけらが、ゲームやなんかのドット片のようなものが剥がれ落ちて行く。


「上手くいってるの?!」

 ももが叫ぶ。


 彼女達の本来のエモーションを保存しつつ、コーデにダメージを与える事に成功している、と思いたい。


「児玉千本桜はきれいなんでしょ!連れてってくれるんでしょ!」


 コーデの間から、彼女達の普段着のえんじ色が見えかけている。


「頑張って!もう一息!」

 誰に言うでもなくわたしは叫んでいた。そして、


「いけーっ!」

 わたし達三人の叫びの後、黒いコーデは完全に消滅し、光線の投射は終わった。


「二人は無事?!」


 急いでセゾン姉妹に駆け寄るわたし達。

 わたしはセゾン(左)、ももはセゾン(右)を抱き上げる。


 いや、もうセゾン姉妹じゃない。

 仮面を付けてない二人は、どこにでもいる普通の姉妹だ。


「千本桜に連れてくなんて言ってないし……。ぞっとするし……」


「でもこれじゃ……連れてかないとぞっとしないし……」


 意識はある。

 衰弱してるけど無事だ。

 無事に二人を助けられた!


「あたし達やったんだね……!」

 いろちゃんは泣き出した。

「そうだね、わたし達のイノベーションだね……!」

 わたしも泣いていた。

「おおげさ過ぎ……」

 そんなももだって涙ぐんでる。

「でも、助けられてよかった」


「よくやったベェ」

「あんな技をよく編み出したぷー」

「救急車を呼んだから、来るまでに変身を解除するっち」

 確かに(元)セゾン姉妹の二人は、病院に連れて行くべきだろう。


「親バートンと名乗ったベェ?」

「その声に従ってさっきの技が出たぷー?」

「子バートンに知らせるっち」


 やはりゆるキャラ達は親バートンの事を知らなかった。

 親バートンの方も今は話しかけてこない。


 その後もパトカーとか、市の職員の人の車とかが続々とやって来た。


 到着前に変身は解除した。


 やって来た車の中にお父さんの車があった。

 実験都市アドバイザーで、エモバグが現れたら、事後処理に追われていたのは知ってたけど、バトルの後で出会うのは初めてだった。


 お父さんはまず救急車の方に向かった。

 お父さんと看護士さんのやり取りの後、救急車は発進した。

 そう言えばミムベェ達ゆるキャラは、普通の人には見えないんだっけ。


「あれがあおいのお父さん?」

「そうだよ、実験都市アドバイザーなんだ」

「かっこいいね」


 二人にお父さんを見せるのは初めて。なんかわたしの方が緊張してきた。


 お父さんはわたし達の方にやって来た、けど……。


「諸君、よくやってくれたトン」


「トン……?」


「親バートンを名乗る人物が現れたんだってトン?!」


 んん?お父さん……?


 わたし達は固まった。

「あ、あおいちゃんのお父さん、変わったキャラ付けしてるんだね」

 いろちゃんの声がひきつっている。

 いやいや、家ではそんなキャラ付けしてないって!


 お父さんはしまったという顔をした。


「そもそもわたし達がプリジェクションキュレーターだって知ってるって事?」

 ももからもツッコミが入った。


「でなきゃ親バートンの事なんか聞かないんじゃない?」

 確かにそうだ。


「でも、わたしは話してないよ」

 話してないはず。

「どういう事?お父さん!」

「いや、これはだねー」


 ミムベェ達は目を反らしていた。

 どうしていいか分からないみたい。


 結論から言うとわたしのお父さんが子バートンだった。


 お父さんは役所で実験都市アドバイザーをしていて、エモバグの件に対応している。

 プリジェクションキュレーターの事を知っているのは不自然じゃない。

 ミムベェ達と繋がりがあっても不思議はない。


 よくよく考えると、キュレーターシステムの責任者が子バートンならば、中の人に一番ふさわしいのは実験都市アドバイザーのお父さんだ。


「隠していてごめんね」

 まあ、わたし達にも正体を隠せと言った張本人だし、その件で責める気はない。


「でも、選んだのはあくまでゆるキャラ達だ。ミムベェからあおいちゃんの名前を聞いた時は驚いたよ」

 キュレーターに選ばれたのは、あくまでゆるキャラ達が見えるエモーションの持ち主だったからのようだ。


「でも気になる事はあるわ」

 ももだった。

「親バートンという名前を知っているんですね?」


「まさか?!」

 わたしははっとした。

「子バートンがわたしのお父さんなら、親バートンはおじいちゃん?」

「いや、そういう訳じゃないよ」

 まあ親バートンという名前も取り敢えず名乗っただけみたいだしね。


「その親バートンを名乗る人物は二択博士の可能性がある」


「えーーーっ!!」

 わたしはびっくり仰天した。

 EPMを創り出し、AI研究の第一人者でもある二択陽一博士。

 お父さんの友人でもある。


「実験都市が埼玉に決まった時、お父さんがSNSのハンドルネームを子バートンにした事があるんだ」

 懐かしそうに語るお父さん。


「その時に陽一が『じゃあ実験都市計画の責任者のわたしは親バートンかな』と言ったんだ」


「じゃあ、親バートンは二択陽一博士?」


「かも知れない。そして、キュレーターシステムを発案したのも彼じゃないかと思ってる」


 そう言えば、親バートンは必殺技を「エモーショナルアーツ」と、変身すると現れる胸元のブローチを「エモーショナルドライブ」と呼んでいた。

 親バートンがキュレーターシステムを作った、と考えるとつじつまが合う。


「でもどうして姿を隠しているのかなあ?」

 博士がいなくなった事で、自律型AIの研究は行き詰まってしまったのだ。

 わたしも会って話がしてみたいのに。


「彼がキュレーターシステムに関与しているという事は、マジョリティという組織と関係があるのかも知れないね」


 そうだ。エモバグの初出現を予見して埼北市に送られたキュレーターシステムのデータ。

 マジョリティのキュレーショナーが作り出すエモバグへの、唯一の対抗手段であるキュレーターシステム。


 そのキュレーターシステムに詳しい親バートンが二択博士なら、博士はマジョリティと敵対しているのかも知れない。

 それが原因で姿を隠す事になったのだろうか。


「子バートンがあおいのお父さんで、親バートンは二択陽一?」

「あおいちゃんのお父さんが二択博士の知り合いだったんだね」

 ももといろちゃんにとっても初めて聞く話だ。


「いやー、そうみたい」

 わたしも今日は頭がパンクしそう。


「みんな、今日は早く休むベェ」

「子バートンとボクらが後始末はやるぷー」

「子バートンじゃなくて葵上(あおいのうえ)さんがいいっち?」


 ゆるキャラ達の声がする。

 彼らもお父さんと顔見知りって事になるのかあ……。


 顔見知りかあ……。

 顔見知りってか部下だよね。

 仕事仲間だよね……。


 あっ…!ああああ!


「実際疲れたわ。帰りましょう、あおい」

「後でセゾン姉妹のお見舞い行こうよ、あおいちゃん」

 帰ろうとするみんな。


「待って!」

 わたしだった。


 張り詰めた声にみんなが驚いている。


()()()()()()()()


 何という事だろう。


 わたしだけが気が付いた。

 わたしにしか気付けない事だった。


 露見した本人さえ気付いていない。

 わたしはその人物を指差した。


()()()()!」


「な、何だい?あおいちゃん」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「は?あおい何の話?」

「ガールズバー?」

 ももといろちゃんは何の事か分かってない。


「子バートンがオーナーさんに会ったというあの日、お父さんも飲み会で遅く帰って来たの」


 子バートンが、ももがプリジェクションキュレーターである事を、ライブハウスのオーナーさんに説明した日の事だ。


「仕事の飲み会って言ってたけど、洗濯物のお父さんのスーツから香水の匂いがして、おかしいと思ってたの」


 ミムベェは葉っぱのような羽で顔を覆った。

 はにぷーはそっぽを向いている。


「ミムベェ達と一緒に、本当はお父さんもガールズバーにいましたね?!」


「し、仕事だよ……、あおいちゃん!」


「お母さんという人がありながら!」

 あおいちゃんの名推理が隠された真実を明らかにした。


「こんなところで話すのもなんだし、まずは一緒に家に帰ろう」

「今日はお父さんの車で帰りたくありません!」

「あおいちゃーん!」


 とは言えこの日、守りに回っているだけだったわたし達のキュレーター活動は、初めて勝利の手応えを得たのだった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ