第12話 倒すより助け合いたい! 想いを一つに、三人の新必殺技! Bパート
埼北市庁舎を襲撃してきたセゾン姉妹。
なんだかいつもと様子が違う。
誰かに操られているのかも。
彼女達を止めるために必殺技を使おうと思ったら、謎の声が聞こえてきたんだ。
(エモーショナルアーツを彼女達に使ってはならない。身体にも精神にもダメージを与え、命を奪う可能性もある)
エモーショナルアーツなんて言い方、聞いた事ない。一体誰なんだろう?
そして命を奪うって。
「じゃあどうすればいいの?」
(サイスフィアを使うんだ。彼女らの作ったエモバグには彼女らのエモーションが保存されている。
それを使った技なら、セゾンのコーデをディタッチできる)
「セゾン姉妹の本来のエモーションを使えば、コーデを解除できるかも知れないって事ね?」
(さすがに筋がいいね、あおい君)
わたしの名前も知っている。本当にこの声は一体?
(君達三人が三色のエモーションを同時にぶつければ、あの子たちをコーデの呪縛から引き剥がす事ができる)
「そうなんだ!やった!」
わたしはすぐにもセゾン姉妹を助けたいと思った。でも、
「待ちなさい!」
サクラだった。
「いきなり誰だか分からない奴の言う事をはい、そうですかって鵜呑みにできないわ」
(そうかね)
「姿を見せて、名を名乗りなさい」
しばらく間が空いた。そして、
(姿を見せる事はできないが、名は親バートンとでも名乗っておこう)
「ふざけてんの?」
子バートンにかけただじゃれだろうか?
しかし、ももは余計に眉間に皺を寄せてしまった。
(信じる信じないは君達の自由だ。だが、これはわたしが提出できる唯一の解決法だ)
「…………」
ももは不信感を拭えてない。
「どうする?また来ちゃうよー」
と、いろちゃん。
セゾン姉妹は起き上がって態勢を立て直してきた。
『もういや!戦いたくなんてない……。うちに帰りたい……』
『つまんないなんて言わないから、お父さんとお母さんに会いたい……』
聞こえてくるのは、インターネットのアンダーグラウンドの悪意なんかじゃない。
助けを求める子供達の声だ。
「やろうよ!」
わたしは言った。
「あの子達を助けたい。可能性があるならやってみようよ」
「わたしも。倒すのがヒーローじゃない、助けるのがヒーローだよ!」
ペアーもやる気まんまんだ。
「そりゃあわたしだって助けたいに決まってるでしょ」
と、サクラ。
セゾン姉妹を迎え打つわたし達。
本気でバトルなんてできない。
あくまでも時間稼ぎ。
「ミムベェ!サイストレージを出して」
「な、なんだベェ?」
「いいから!はやく!」
わたし達はサイスフィアの保管された、サイストレージの前に集合した。
どうやら親バートンとの会話はミムベェ達には聞こえてないみたい。
(それぞれの色のサイスフィアを取りたまえ)
わたしが青、ももがピンク、いろちゃんが黄色のサイスフィアを手に取る。
(サイスフィアをエモーショナルドライブ……、胸のブローチに格納するんだ)
エモーショナルドライブって言葉も初めて聞いた。
わたし達のブローチの正式名称なのかな?
言われた通りにブローチに当てると、サイスフィアは吸い込まれた。
(これで準備は整った)
必殺技を出す前みたいに気持ちが盛り上がってくる。
(後はエモーショナルパワーを投射するだけだが、三人で同時に当てなければ、対象のエモーションを再現できない)
三人が同時に。
顔を見合わせたわたし達。
でも、ここまで来たらやるしかない!
「かけ声でタイミング合わせるよ」
アイドルグループをやってるももは、こういうのは慣れてそう。
「じゃあサイスフィア・リベレーション・ストリームでどうかな?」
ペアーが言った。
「何それ?」
「必殺技の名前!」
さすがヒーロー大好きのいろちゃん。
もう名前を思い付いていた。
「名前は好きに決めていいわ。でもちょっと長いかも」とサクラ。
「そんな時は、サイスフィアをさいたまにすればいいんだよ!」
わたしはここぞとばかり言った。
「さいたま・リベレーション・ストリーム……か。まあ、語呂はよくなったわね」
「言いやすいね。これならいいかも!」
やった!今回のさいたまは二人の承認が得られた!
「プリジェクションキュレーター、倒す!」
迫って来るセゾン姉妹を迎え打つ三人のプリジェクションキュレーター。
「絶対お父さんとお母さんの所に返してあげるからね!」
「こんなのちゃちゃっと済ませるよ。今日もライブあるんだから」
「三人で力を合わせて……!」
(三人同時にエモーションを解き放つんだ。タイミングがずれればただの攻撃技になってしまう)
わたし達は片手を前に出して、手を広げた。
絶対にこの技を成功させて、あの子達を助ける!
三人の想いは一つ!……と思ったら、意外にもペアーは震えていた。
「三人同時になんて……、できるのかな……。もしこれを失敗したら、あの子達が……」
「できるよ」
わたしはペアーの広げた手を後ろから握った。
ペアーの手の震えが伝わってくる。
「震えなくって大丈夫……」
こうすればペアーの震えは止まる。止まるはず。
「あんたまで一緒に震えてどうすんの」
わたしの手も震えていた。
そのわたしの手をサクラが包み込む。
するとサクラの手も震え出した。
「ももももだって」
「ももももって言うな」
でも、同時に二人のセゾン姉妹を助けたい想いも伝わって来た。
二人のエモーションが、伝わってきた。
「これはきっとEPMを通じてわたし達のエモーションが繋がってるんだよ!」
そして、確信した。
わたし達の想いは同じ。不安な気持ちも含めて。
「今まで三人で頑張ってきたわたし達ならできるよ!」
わたしは握った手に力を込めた。
「そうね、しっかり息を合わせて練習したライブの前みたい」
サクラもわたしの手を強く握ってきた。
その時、ペアーも上を向いた。
「あたし達はヒーロー!あたし達ならできる!」
もう誰も震えてなんかいない。
重ねた手を迫って来るセゾン姉妹に向ける。
「せーの!」
それぞれのブローチから三色の輝きが、広げた手に伸びて行く。
「さいたま・リベレーション・ストリーム!」
叫びと共に、三色の光が一つになって、大きな光線になった。
光線はセゾン姉妹を包み込む。
「お願い!」
いろちゃんが叫ぶ。
「こんなところでつまづいてなんかいられないでしょ!」
ももが叫ぶ。
あの子達を必ずお父さんとお母さんの元へ返す。
実験都市計画も成功させて、両親と一緒にいられる時間を作る。
ただ失うだけの、ただ奪われるだけの、ただがっかりするだけの世界なんてもうたくさん。
あの子達を助けて、実験都市を守って、そして世界を変えるんだ。
それがわたしの、わたしたちの……
「イノベーーーション!!!」
セゾン姉妹のコーデから黒い小さな四角いかけらが、ゲームやなんかのドット片のようなものが剥がれ落ちて行く。
「上手くいってるの?!」
ももが叫ぶ。
彼女達の本来のエモーションを保存しつつ、コーデにダメージを与える事に成功している、と思いたい。
「児玉千本桜はきれいなんでしょ!連れてってくれるんでしょ!」
コーデの間から、彼女達の普段着のえんじ色が見えかけている。
「頑張って!もう一息!」
誰に言うでもなくわたしは叫んでいた。そして、
「いけーっ!」
わたし達三人の叫びの後、黒いコーデは完全に消滅し、光線の投射は終わった。
「二人は無事?!」
急いでセゾン姉妹に駆け寄るわたし達。
わたしはセゾン(左)、ももはセゾン(右)を抱き上げる。
いや、もうセゾン姉妹じゃない。
仮面を付けてない二人は、どこにでもいる普通の姉妹だ。
「千本桜に連れてくなんて言ってないし……。ぞっとするし……」
「でもこれじゃ……連れてかないとぞっとしないし……」
意識はある。
衰弱してるけど無事だ。
無事に二人を助けられた!
「あたし達やったんだね……!」
いろちゃんは泣き出した。
「そうだね、わたし達のイノベーションだね……!」
わたしも泣いていた。
「おおげさ過ぎ……」
そんなももだって涙ぐんでる。
「でも、助けられてよかった」
「よくやったベェ」
「あんな技をよく編み出したぷー」
「救急車を呼んだから、来るまでに変身を解除するっち」
確かに(元)セゾン姉妹の二人は、病院に連れて行くべきだろう。
「親バートンと名乗ったベェ?」
「その声に従ってさっきの技が出たぷー?」
「子バートンに知らせるっち」
やはりゆるキャラ達は親バートンの事を知らなかった。
親バートンの方も今は話しかけてこない。
その後もパトカーとか、市の職員の人の車とかが続々とやって来た。
到着前に変身は解除した。
やって来た車の中にお父さんの車があった。
実験都市アドバイザーで、エモバグが現れたら、事後処理に追われていたのは知ってたけど、バトルの後で出会うのは初めてだった。
お父さんはまず救急車の方に向かった。
お父さんと看護士さんのやり取りの後、救急車は発進した。
そう言えばミムベェ達ゆるキャラは、普通の人には見えないんだっけ。
「あれがあおいのお父さん?」
「そうだよ、実験都市アドバイザーなんだ」
「かっこいいね」
二人にお父さんを見せるのは初めて。なんかわたしの方が緊張してきた。
お父さんはわたし達の方にやって来た、けど……。
「諸君、よくやってくれたトン」
「トン……?」
「親バートンを名乗る人物が現れたんだってトン?!」
んん?お父さん……?
わたし達は固まった。
「あ、あおいちゃんのお父さん、変わったキャラ付けしてるんだね」
いろちゃんの声がひきつっている。
いやいや、家ではそんなキャラ付けしてないって!
お父さんはしまったという顔をした。
「そもそもわたし達がプリジェクションキュレーターだって知ってるって事?」
ももからもツッコミが入った。
「でなきゃ親バートンの事なんか聞かないんじゃない?」
確かにそうだ。
「でも、わたしは話してないよ」
話してないはず。
「どういう事?お父さん!」
「いや、これはだねー」
ミムベェ達は目を反らしていた。
どうしていいか分からないみたい。
結論から言うとわたしのお父さんが子バートンだった。
お父さんは役所で実験都市アドバイザーをしていて、エモバグの件に対応している。
プリジェクションキュレーターの事を知っているのは不自然じゃない。
ミムベェ達と繋がりがあっても不思議はない。
よくよく考えると、キュレーターシステムの責任者が子バートンならば、中の人に一番ふさわしいのは実験都市アドバイザーのお父さんだ。
「隠していてごめんね」
まあ、わたし達にも正体を隠せと言った張本人だし、その件で責める気はない。
「でも、選んだのはあくまでゆるキャラ達だ。ミムベェからあおいちゃんの名前を聞いた時は驚いたよ」
キュレーターに選ばれたのは、あくまでゆるキャラ達が見えるエモーションの持ち主だったからのようだ。
「でも気になる事はあるわ」
ももだった。
「親バートンという名前を知っているんですね?」
「まさか?!」
わたしははっとした。
「子バートンがわたしのお父さんなら、親バートンはおじいちゃん?」
「いや、そういう訳じゃないよ」
まあ親バートンという名前も取り敢えず名乗っただけみたいだしね。
「その親バートンを名乗る人物は二択博士の可能性がある」
「えーーーっ!!」
わたしはびっくり仰天した。
EPMを創り出し、AI研究の第一人者でもある二択陽一博士。
お父さんの友人でもある。
「実験都市が埼玉に決まった時、お父さんがSNSのハンドルネームを子バートンにした事があるんだ」
懐かしそうに語るお父さん。
「その時に陽一が『じゃあ実験都市計画の責任者のわたしは親バートンかな』と言ったんだ」
「じゃあ、親バートンは二択陽一博士?」
「かも知れない。そして、キュレーターシステムを発案したのも彼じゃないかと思ってる」
そう言えば、親バートンは必殺技を「エモーショナルアーツ」と、変身すると現れる胸元のブローチを「エモーショナルドライブ」と呼んでいた。
親バートンがキュレーターシステムを作った、と考えるとつじつまが合う。
「でもどうして姿を隠しているのかなあ?」
博士がいなくなった事で、自律型AIの研究は行き詰まってしまったのだ。
わたしも会って話がしてみたいのに。
「彼がキュレーターシステムに関与しているという事は、マジョリティという組織と関係があるのかも知れないね」
そうだ。エモバグの初出現を予見して埼北市に送られたキュレーターシステムのデータ。
マジョリティのキュレーショナーが作り出すエモバグへの、唯一の対抗手段であるキュレーターシステム。
そのキュレーターシステムに詳しい親バートンが二択博士なら、博士はマジョリティと敵対しているのかも知れない。
それが原因で姿を隠す事になったのだろうか。
「子バートンがあおいのお父さんで、親バートンは二択陽一?」
「あおいちゃんのお父さんが二択博士の知り合いだったんだね」
ももといろちゃんにとっても初めて聞く話だ。
「いやー、そうみたい」
わたしも今日は頭がパンクしそう。
「みんな、今日は早く休むベェ」
「子バートンとボクらが後始末はやるぷー」
「子バートンじゃなくて葵上さんがいいっち?」
ゆるキャラ達の声がする。
彼らもお父さんと顔見知りって事になるのかあ……。
顔見知りかあ……。
顔見知りってか部下だよね。
仕事仲間だよね……。
あっ…!ああああ!
「実際疲れたわ。帰りましょう、あおい」
「後でセゾン姉妹のお見舞い行こうよ、あおいちゃん」
帰ろうとするみんな。
「待って!」
わたしだった。
張り詰めた声にみんなが驚いている。
「大事な話があるわ」
何という事だろう。
わたしだけが気が付いた。
わたしにしか気付けない事だった。
露見した本人さえ気付いていない。
わたしはその人物を指差した。
「お父さん!」
「な、何だい?あおいちゃん」
「あなたはレッドラインのオーナーと、ミムベェと、はにぷーと一緒に、ガールズバーに行きましたね?」
「は?あおい何の話?」
「ガールズバー?」
ももといろちゃんは何の事か分かってない。
「子バートンがオーナーさんに会ったというあの日、お父さんも飲み会で遅く帰って来たの」
子バートンが、ももがプリジェクションキュレーターである事を、ライブハウスのオーナーさんに説明した日の事だ。
「仕事の飲み会って言ってたけど、洗濯物のお父さんのスーツから香水の匂いがして、おかしいと思ってたの」
ミムベェは葉っぱのような羽で顔を覆った。
はにぷーはそっぽを向いている。
「ミムベェ達と一緒に、本当はお父さんもガールズバーにいましたね?!」
「し、仕事だよ……、あおいちゃん!」
「お母さんという人がありながら!」
あおいちゃんの名推理が隠された真実を明らかにした。
「こんなところで話すのもなんだし、まずは一緒に家に帰ろう」
「今日はお父さんの車で帰りたくありません!」
「あおいちゃーん!」
とは言えこの日、守りに回っているだけだったわたし達のキュレーター活動は、初めて勝利の手応えを得たのだった!




