第12話 倒すより助け合いたい! 想いを一つに、三人の新必殺技! Aパート
「イノベーーーショ……ぐっ!イタタ……」
あおいちゃんの1日はイノベーションでは始まらなかった。
両足を肩幅に開き、左手は腰、右手を高らかに掲げる、親指と人差し指を90度に開き、天を指差すわたしのイノベーションポーズをしようとしたが、左肩が痛い。
昨日、巨大エモバグの無差別攻撃からセゾン姉妹を守って負傷したわたし。
バトルの後、すぐに病院に行ったが、大事には至らなかった。
左肩の打ち身。
安静にしていれば炎症も避けられるとの事。
でも大きなアスファルト片が飛んで来たとの話はなかなか信じてもらえなかった。
それならもっと大ケガだったはずと言われた。
実際は飛んで来たのではなく、もっと近くにあったものが倒れて込んできたのではないか、と言われた。
軽傷で済んだのは、プリジェクションキュレーターのEPMの身体能力向上のおかげ。
今日は学校は休みだし、言われた通り、安静にしていよう。
そう思っていたら携帯のアラームが鳴った。
ミムベェだった。
「た、大変だベェ!」
窓の外を見る。
家の近くのエモーショナルプロジェクションマッピングのプロジェクターに投射されたミムベェの姿が見える。
ミムベェ、はにぷー、こむぎっちゃんは、プロジェクションマッピングの投射される場所ならばどこにでも出没する。
おまけに変身アプリの場所を探知できるようでプライバシーもへったくれもない。
だから不意にミムベェが現れるのは慣れっこだ。
最近はミムベェが「大変だベェ!」と言っても「ああ、またエモバグが出たんだね」としか思わない。
しかし、その日のミムベェの呼び出しだけは、本当に大変な事態だった。
「セゾン姉妹が市庁を襲撃して来たベェ!」
エモバグではなく、セゾン姉妹が?
ヤバンセのバトルでは巨大エモバグの破壊力を怖がっていたし、ももに怒られて泣いてもいた。
だからもしかしたら反省して、もう戦わないで済むんじゃないかと思ってた。
ケガをした肩がちょっとだけ痛む…。
市庁舎にバスで辿り着くとすでにももといろちゃんもいた。
「来たわね、あおい」
「ケガは大丈夫?あおいちゃん」
「うん、何とかね」
みんな、表情が暗い。
セゾン姉妹の事はショックだ。
この前あんな事があった、その次の日に今度は本人が暴れているなんて。
「キュレーティン!」
とにかくわたし達は変身した。
「咲き誇るキュレーター、プリジェクションサクラ!」
「実りのキュレーター、プリジェクションペアー!」
「はじけるキュレーター、プリジェクションソーダ!」
果たしてセゾン姉妹はいた。
黒い刺々しいデザインのマスクとドレス。
間違いなく、マジョリティのキュレーショナー、セゾン姉妹だ。
県庁のガラスが割られて、散乱している。
すでに機動隊も駆け付けていたが、キュレーショナーの身体能力に翻弄されていた。
わたし達の姿を見つけると、姉妹はこっちに向かって来た。
「プリジェクションキュレーター……、お前達を倒す……」
虚ろな表情で言う二人。
「少しは懲りたと思ったのに、本当にしょうがない連中ね」
サクラは本気で怒ってるようだった。
「お前達を倒す!」
セゾン姉妹は問答無用で襲いかかって来た。
わたし達は飛び退いて回避したが、すぐさまわたしとペアーの方に向かって来る。
「ちょっとやめようよ!」
人間とバトルするなんて、そんなのただのケンカだし、暴力だ。
やり返すなんてできない。
パンチとキックの連打を仕掛けてくるセゾン(左)に、わたしはガードに徹するしかなかった。
「こんなのヒーローじゃないよー」
ペアーもセゾン(右)の猛攻に耐えるばかりだった。
「やめなさい!あんた達」
サクラがわたしに攻撃するセゾン(左)を押し飛ばした。
さらにサクラはペアーを攻撃するセゾン(右)もパンチで引き剥がした。
セゾン姉妹はすでに態勢を立て直していて、こちらを睨んでいる。
「あんた達もちゃんと戦って。やられるわよ」
「あの子達をやっつけるの?」
エモバグとバトルする一人をフリーにするために戦うのとは訳が違う。
「そんなのいやだよ」
わたしは言った。
「この街を守るヒーローなんでしょ?ペアー」
「こんなの考えた事なかったよ。人間と戦うなんて」
「悪いけど、一人でやるとは言えない。あいつら、いつもより容赦がない」
左手で右手を抑えるサクラ。
「わたし達で止めるのよ」
サクラも辛そうな表情だった。
「こんな事…!」
そう簡単に割り切れない。
「弱らせてどうにかする方法はないのかな?」
ペアーの提案だった。
「そうね。それを狙ってみましょう」
サクラも承諾した。
「やっぱりバトルするしかないの?」
わたしはそれでも人間同士の殴り合いなんて嫌だった。
「すでに機動隊でも歯が立たない。わたし達でも止められないなら銃器を使う可能性だってある」
「銃……!」
そんなもの使ったら……!
「あいつらを助けたいならわたし達がバトルするのよ」
サクラはそういうと自分から姉妹に仕掛けてていった。
「いこう、ソーダちゃん!」
「ううー!」
サクラはがセゾン(左)、わたしとペアーがセゾン(右)の相手をする。
「ソーダをあんな目に合わせて、まだこういう事を続けるつもりなの?」
サクラはセゾン(左)とバトル。
「…プリジェクションキュレーター!倒す!」
「もうこんな事やめようよ。あなた達だって怖い思いをしたんだよね?」
わたしはセゾン(右)のパンチとキックを防ぎながら問いかける。
「うう、プリジェクションキュレーター……、倒す…!」
なんだか話し方がおかしい。
いや、おかしくないのがおかしい!
「二人とも今日、この子達が一回でも『ぞっとする』とか『ぞっとしない』とか言ったの聞いた?」
「…聞いてないわね」
「そう言えば一回も言ってない」
それらのセリフばかりか、彼女達とまともな会話が成立していない。
「もしかして正気じゃないのかも」
さすがに話が通じな過ぎる。
「操られているとか?」
ペアーは言った。
「だからってどうするって言うの?やる事は変わんないでしょ?」
サクラの言う事ももっともだった。
セゾン姉妹とのバトルは続く。
激しい打ち合いの中、わたし達三人のブローチが輝く。
「あれ?キレキレ攻撃してないのに」
「いや!キレキレ攻撃の時と同じくらいのエモーションの変動をしてるベェ!」
ミムベェだった。
初めてのキュレーショナーとのバトルだから、何が起こるか予測がつかない。
それに感情のざわつきが、実際普通じゃないというのも事実だ。
だからと言って人間相手に必殺技を放てばいいものなのかも分からない。
応戦は続く、が……。
『もう帰りたい…』
『バトルなんて…したくない』
「!?」
どこからか声が聞こえてくる。
セゾン姉妹の声だけど、
「…プリジェクションキュレーター……、倒す…!」
目の前のセゾン姉妹もしゃべってる。
「この声…!」
「何なの?これ」
「二人も聞こえた?」
サクラとペアーにも聞こえたみたい。
わたしの気のせいじゃない。
『みんなに注目されて楽しいって言われたけど……』
『もうこんなの全然楽しくない……!』
心の声、なのかな?
エモーショナルパワーが貯まると聞こえてきた。
エモーショナルな感度が上がった事によって、心の声が聞こえているのかも。
キュレーターとキュレーショナー、どっちの衣装もエモーショナルな力を利用してる訳だし。
こんな事が起こってもおかしくない。
「これが心の声ならやっぱり本人の意思じゃないんじゃ」
「操られてるのかな」
『工業団地で働くお父さんとお母さんは毎日忙しくて……』
『お父さんもお母さんも、遅くまで働いていて……全然家にいない…』
『寂しかった毎日を楽しくできると思った』
『才能があるって言われた……』
次々聞こえてくるセゾン姉妹のエモーション。
『あたし達はつまらない毎日がぞっとしなかっただけ』
『人を傷付けたかった訳じゃない。そんなのぞっとするし』
この子達は……!
実験都市計画さえ成功していれば、きっとお父さんとお母さんにも時間ができるはずなのに。
わたしに何ができる訳でもないんだけど、もどかしい気持ちになってしまう。
「やっぱりこの子達を助けたいよ!」
わたしは叫んだ。
「でもどうするって言うの?ソーダ」
「パワーも貯まったんだし、イチかバチか必殺技で……」
エモーションを用いた必殺技なんだからもしかしたら上手くいくかも。
(やめるんだ)
その時声がどこからともなく聞こえて来た。
セゾン姉妹じゃない。
低い、多分大人の男の人の声。
姿はなく、声だけだった。
まるで心に直接語り語りかけられているような。
「な、何?」
(エモーショナルプロジェクションマッピングにエモーションを乗せる事で君達に話しかけている)
「何でもエモーションて言えばいいと思ってるでしょ?」
「これってテレパシー?」
ももといろちゃんにも聞こえているみたいだ。
「あなたは誰?」
(今は言えない。それよりエモーショナルアーツを彼女達に使ってはならない。身体にも精神にもダメージを与え、命を奪う可能性すらある)
<つづく>




