第11話 巨大エモバグ大暴れ! キュレーションサイトはダメゼッタイ! Aパート
その後のわたし達のキュレーター活動は順調だった。
三人でバトルして、エモバグの色に対応した一人以外が、セゾン姉妹の二人を食い止める作戦は上手く行った。
気まぐれに姉妹は見てるだけの時もあった。
本庄早稲由駅での青バグとのバトルだったが、夜なんかは眠くってあまりやる気がなかったのかも。
サクラとペアーが来る前にわたし一人でやっつけてしまった。
街の人々の認知度も上がっていて、応援してくれる人も出て来た。
はっきり言って快進撃だった。
「お母さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい、あおいちゃん」
その日は久しぶりにお父さんの車で登校する事になった。
「今日はどうして早いの?お父さん」
「うん、エモーショナルバグの件について情報が手に入ったんだよ。児玉方面に犯人の本拠地があるかも知れないんだ」
これは、わたし達が手に入れた情報かな。
セゾン姉妹の口から児玉千本桜の名前が出て来たのだった。
果たして、児玉にマジョリティのアジトはあるのだろうか。
車にはラジオがかかっていた。
お父さんがいつも聞いているニュース番組だ。
「今日のコメンテーターは元外交官で小説家の孫享猛さんです」
この前聞いたのとは違う人みたい。
「今日のテーマはこちら。『AI研究の第一人者、二択陽一の未公開論文出版へ。実験都市埼北市の今後は?』」
お父さんの纏めた本の話題だった。内容の一部はこの間の講演会と同じなのだ。
「お父さんすごい!」
「ははは、すごいのは二択博士さ」
行方不明の二択博士の未公開論文。その利益のほとんどは二択博士の家族に送られている。
そして、本はお陰様で大好評!
なんだけど、放送の内容はげんなりするものだった。
「ロボットの能率分の利益を労働者に還元し、ベーシックインカムの財源とする。労働時間も短くなる、との話ですが」
「ベーシックインカムならこんな実験都市なんかやらずに、その分のお金を使ってさっさと配ればいいんですよ」
「しかし、ロボットの導入は人口減少時代を切り開く新たな産業のモデルになる、とも書かれていますよ」
「どうせ企業の利益にされてしまうだけで、国民の生活は変わらないですよ」
「本書では二択陽一氏が特区計画のかなり早い段階で、実験都市の場所を埼北市に選定していた事も書かれています。理由は悪天候や災害が少ない事と東京へのアクセスのしやすさだとしています」
「本当のところはどうでしょう?特区計画なんて、結局は汚ないお金の流れがあったんじゃないですかねえ?ふっふっふ」
どっかで聞いたような事を言われた。なんで笑うのか分からないし。
「人の感情を操るEPMとやらも国民を支配する道具になり兼ねない、危険なものだと思いますねえ」
うう、散々な言われ様……。
「しかもプロジェクションマッピングの誤作動で怪物が現れるそうじゃないですか、百害あって一利なしです!特区なんて今すぐ止めるべきです」
またもやどっかで聞いたような事を言われた。
怪物をやっつける美少女ヒーローの話はなかった。
「お父さん、作業の能率を上げてベーシックインカムの財源にしようとしても企業の利益にされちゃうの?」
「そうならないように実験で労働者に還元する仕組みを明文化して、前例にしようとしてるんだけどね」
「EPMが人の心を支配するって」
「そうならないようにオープンな実験都市を作ったんだけどね」
「どうして実験都市は目の敵にされるのかなあ?」
「分かりやすい敵がいればすっきりするからさ。すっきりできるかどうかが重要なんだ」
「そうなんだ」
だからネットのアンダーグラウンドのネガティブな書き込みも消えないのかも知れない。
エモバグの弾切れは期待できそうもない。
国内では実験都市計画は必ずしも支持されていない。
そもそも人工知能への偏見も根強い。
いまだにロボットの反乱の映画なんか作られている。
お父さんはなんとかこの国や世界のためになるように頑張ってるけど、このままではいけないのも事実ではある。
自律型AI。意思を持ったロボット。
その完成と運用のデータをもってしか、実験都市計画の成功はあり得ないのだ。
その日の放課後、例によってわたしはヤバンセで夕ご飯とカリヴァリ君を買って帰ることにした。
帰り道のヤバンセの駐車場で、わたしは二人の少女に出会った。
というより多分、わたしを待ち構えていた。
同じ顔立ちと背格好。双子のようだった。
揃いのえんじ色の上着と黒のスカート。
夕暮れ時に映えると言えば、そうなのかも知れない。
しかし、わたしはその時、なぜか不吉な感じがしたんだ。
少女達はわたしを睨んでいた。
「あんた、ヤバンセでよく見かけるよね」
そして、話しかけてきた。
「ご近所さんなんだ」
美里町民としては本庄(旧児玉)のヤオローに行く人も多いが、わたしはヤバンセ派だ。
「あなた達もヤバンセによく来るの?」
「これが三回目」
ニコリともせず答える少女達。ヤバンセ派ではないようだ。
「三回なのに毎回会う奴っておかしいよね」
「そうかな?」
奇遇だな、とは思うけど。
「おかしいって。ぞっとしないって」
わたしは固まった。この口癖には心当たりがある。
少女達はわたしの反応を見てニヤニヤ笑っている。
「でも『そいつがそうなら』ぞっとするよねえ」
わたしもぞっとした。違う方の意味で。
「あなた達がもしや……」
少女達はニヤリと笑った。
「背格好から当たりは付いてたんだけどさ」
「この前の美里中のジャージは決定的だったね」
「お前がプリジェクションソーダだろ?」
二人は揃ってわたしを指差した。
目の前のこの二人は……、
「セゾン姉妹なの?!」
ついにわたしの正体が突き止められてしまった。
まだ名前は知られていないが、ヤバンセ常連である事と、美里中のカリヴァリ君カラーの青ジャージが知られてしまった。
「勝負しろ、プリジェクションソーダ!」
「今日こそあたし達が勝つし」
少女達はスマートフォンを取りだし、手を繋いだ。そして、
「キュレーション!」
そう叫ぶとスマートフォンをこちらに向けたままアプリを起動した。
アプリには白黒半分の円形で、赤い字で「psy」と書かれていた。
エモーショナルプロジェクションマッピング用のプロジェクターからふたりに光が投射される。
刺々ししたフォルムの左右対象の仮面とドレス。
何度もバトルしたセゾン姉妹が出現した。
「NOと言いなよ、マジョリティーッ!」
ヤバンセの壁面のプロジェクションマッピングから三度、エモバグが出現する。
『ロボット労働の能率からベーシックインカムを算出するなんて、ウソっぱちだー!』
色はまたもや青。
「プリジェクションソーダの大活躍は次回をお楽しみに!<つづく……」
「待ったー!」
二人揃っての大声だった。
「勝手に終わるな!ぞっとするし」
「まだ終わりじゃない!ぞっとしないし」
姉妹はふところから何か取り出した。
えんじ色のゴーグルのようなものだった。
二人はそれをかけた。
仮面の上からでもかけられるみたいだ。
「キュレーションサイト!」
「すごい!力がみなぎってくる!ぞっとするし」
「今までとは一味違うね!ぞっとしないし」
セゾン姉妹はもう一度手を合わせた。
「想像しなきゃマジョリティーッ!」
もう一体のエモバグが店舗の壁面のプロジェクションマッピングから現れたが、何も叫ばずもう一体のエモバグに近づいていき、重なって行く。
そして……
『どうせ利益は企業に持っていかれるだけだー!』
巨大化した!
二倍というかもっと大きく見える。
店舗よりも大きくなった。
「ええー……」
<つづく>




