第10話 あおいピンチ!封じられたブレザー ジャージはエモくありません! Aパート
「イノベーーーション!」
あおいちゃんの一日はイノベーションで始まる。
目が覚めた瞬間ベッドから飛び起きるわたし。
両足を肩幅に開き、右手は腰、左手を高らかに掲げる。
親指と人差し指を90度に開き、天を指差す。
これがわたしのイノベーションポーズ。
毎日がイノベーション。
イノベーションはわたしの命。
今日もイノベーティブな一日が始まる。
ロボットアームの件だけど、残念ながらガスダンパーの実験は家庭ではできなかった。
ガス管を抜く事はお父さんに止められてしまった。
しかし、わたしは早くも別の方法でバーチカルな力を生み出す方法を思い付いていた。
メントヌというお菓子がある。
大きな錠剤のような形のチューイングキャンディでオランダ産だ。
世界中で販売されているほどの人気のお菓子だが、味以外にも特殊な性質がある。
炭酸飲料の中にメントヌを数粒入れると、泡が一気に数メートルも吹き上がるのだ。
それは、メントヌを入れた状態でペットボトルのフタを閉じると、ペットボトルが破裂する危険があるほどの勢いなのだ。
世に言う「メントヌソーダ」である。
そう、この「メントヌソーダ」と呼ばれる現象を利用するのだ!
ソーダをチューブに繋ぎ、そのチューブにメントヌを入れ、ダンパーに接続。
その爆発的な勢いでダンパーに反力を与えるのだ。
実験はもしもの事態に備えてお風呂場で行う事にした。
事前にチューブとダンパーを接続し、隙間のできない事を確認。
あおいちゃんにぬかりはないのだ。
いよいよチューブにメントヌを注入。チューブが狭くて思うようにメントヌが入らない。
しかし、菜箸を使うとちょうどいい感じに押し込めた。よかった、よかった。
あとはこのチューブに栓を……。
「わぶっ!」
その瞬間チューブから泡が逆流して来た。
「わぶっ……!げふっ!げほげほ!」
チューブから勢いよく飛び出して来たソーダで、すっかりソーダまみれになってしまうわたし。
「けほっ…けほっ……!」
しまった。実験が済んだらすぐ登校しようと思っていたので制服を着ていた。
しかし、制服は確か二着ある。
急いで着替え直さなければ。
もう一着の制服は…と。
「お父さん、ブレザーもう一着どこだっけ?」
「この前、クリーニングに出さなかった?」
しまった。最近はエモバグ対策で休日でも制服で出かけるようにしてるので、クリーニングに出していたのだった。
「うーん、イノベーティブ…!けほっ!」
「いってきます、お母さん」
「いってらっしゃい、あおいちゃん」
仕方がないので今日はジャージで登校する事にした。
色は青。カリヴァリ君カラーでお気に入り。
運動部をはじめ美里中ではジャージ登下校は珍しくない。
体育の授業や掃除の時間に着替えなくて済んでむしろ楽だったくらい。
もう毎日ジャージでいいじゃんと思ったくらいだが、やはりそうは問屋がおろさないのだった。
「若泉公園に青バグが出たベェ!」
こんな日に限ってエモバグは出てしまうのだ。
放課後の帰り道の事だった。
二着の制服のどちらもクリーニングに出している状態だ。
本庄地区の若泉公園は結構遠い。青バグなら急いで向かわないと。
わたしは急いでバスに乗り込んだ。
「なんでジャージベェ?」
カリヴァリ君カラーのジャージを見たミムベェは、当然ながら驚いていた。
バスの中でミムベェに事情を説明する。
「ああ、メントヌソーダね。そういう訳ならしょうがない……」
よかった。納得してくれた。
「ってそんな訳あるかベェ!」
そんな訳なかった。
「今までジャージでキュレーティンした人はいるの?」
「いないベェ。そもそも制服がかろうじてプリジェクションキュレーターになれるほどのエモーションを獲得できるんだベェ」
「セゾン姉妹のあれは?」
「いろいろ謎の技術だベェ。
プリジェクションキュレーターと似てはいるが、ベースにする服がいらないみたいだベェ」
わたし達みたいに制服が必要な訳ではないと。
『コーデ』とか言ってたっけ。
「子バートンによると応用発展型らしいベェ。
ネガティブなエモーションを活用できるらしいベェ」
ネガティブなエモーションの持ち主がキュレーショナーになるのか。
それでエモバグなんかを作り出せるのかも。
そんな話をしてる間に、若泉公園に到着。
すでに変身しているサクラとペアーが、セゾン姉妹とバトルしてるのが見える。
そして例によって抑揚のない声の大音量が聞こえてきた。
『デモは迷惑ー!社会のルールを守るべきー!』
<つづく>




