第8話 イケメンとか特撮とかに夢中なお年頃 松木いろちゃん大いに悩む! Aパート
松木いろちゃんはコロコロしていてかわいい。
背が小さくて、目がくりっとしていて、おっとりしていてかわいい。
明るくて、人懐っこくて、とにかくかわいい。
美人だけど近づきがたい雰囲気のももももとは対照的。
だけど戦う時はパワフル。
そして、マンガやアニメが大好きで結構ノリノリでヒーローをやってるのだ。
今回はそんな松木いろちゃんの話。
今日やって来たのは多目的モール、ウミクス上里町店。
上里町ではかなり本庄よりの、この前行ったショッピングモールアイオンとは線路の反対側。
スーパーマーケット、レストラン、ゲームセンター、ジム、服屋、靴屋、スポーツ用品店、書店に加えて映画館まである上里町の一つの中心だ。
敷地面積はアイオンほどではないが、アイオンと勝るとも劣らない盛り上がりを誇る。
待ち合わせの場所に背の高い、ポニーテールで、赤い伊達眼鏡の黒ブレザーの梅桃ももが。
「おはよう、いろちゃんは?」
「買いたい本があるって」
ほどなく本屋からいろちゃんが現れた。
……のだが何だか表情が暗い。
「おはよー!いろちゃん」
「おはよう、あおいちゃん。お待たせ……」
「どうしたの、いろ?待ちきれない感じで本屋に入ったのに」
「これ見てよ……」
特撮の雑誌だった。
と、言っても表紙に写っているのは特撮ヒーローではなく、若い男性俳優だった。
若いイケメン俳優目当てで女性が購入するのを期待して、出版されている特撮雑誌なのだった。
いろちゃんの開いたページは近日公開の特撮映画の記事だった。
「リュウジンジャーVSコウアンジャーにヨクリュウジャーの4人、参戦!」
と、書かれていた。
ヒーローシリーズの過去作品とのコラボ映画の記事。
わたしにはそんな風にしか見えなくて、落ち込む原因がどこにあるのか分からなかった。
「本当はナッキーのやってたヨクリュウグリーンも出演するはずだったんだよー……」
ああ、そうか。
記事のポイントは「4人」というフレーズだった。
わたしが特撮に詳しくなくても、ヒーロー戦隊が基本5人組である事くらいは知っている。
そして、いろちゃんの話のもう一つのポイントは「ナッキー」。
ナッキーと言ったら若きイケメン俳優、「冬樹夏樹」の事だ。
甘いマスクと高い演技力でドラマや映画に引っ張りだこの今注目の男性俳優。
彼の初レギュラーが戦隊ヒーロー番組だった事は有名だ。
「ナッキーが忙しくて出れないから、その、ヨクソウジャーは4人だけなんだね」
「ヨクリュウジャーね……」
いろちゃんに訂正された。
いろちゃんは本当に残念そうだ。落胆していたと言ってもいいくらい。
何もそこまでと思ったが、それを言ってしまうのはデリカシーに欠けた言動だ。
「何もそこまで落ち込む事ないんじゃない?」
ももの言動だった。ももももめー!
「ナッキーは他の映画で頑張ってるんでしょ?」
「そうなんだけどさ」
やはり曇ったままのいろちゃんの表情。
「ちょっと前のインタビューでさ、ナッキーが『ヨクリュウジャーは監督やスタッフの考えに納得して出演したけど、子供だましの特撮自体は出たくなかった』って言っててさ、やっぱり本当にそう思ってるのかなって」
わたしは俳優にも特撮にも詳しくないから、いまいちピンとこない。
でもいろちゃんにとっては、大好きな特撮出身の、大好きな俳優が、実は特撮が嫌いというのはショッキングな事だったようだ。
「ナッキーにとってあたしが大好きだったヨクリュウジャーは黒歴史だったのかな……」
「いろちゃん、EPM見て元気出そうよ」
「うう……」
わたしは店舗の壁面の、小麦畑のプロジェクションマッピングを指差した。
人々の心の平穏を促すEPMの映像を見せ、いろちゃんのリラックスを促すのだ。
「ほら、畑だよ、すごい!」
「これはナイスな小麦畑ですね……」
きっとEPMというイノベーションがいろちゃんの心を癒してくれる、と思っていたら辺りが騒がしい。
「エモバグが出たっち!」
小麦畑のプロジェクションマッピングからこむぎっちゃんが飛び出して来た。
続いてミムベェとはにぷーも。
広い駐車場の向こうから、黄色い巨大な姿が迫って来る。
車を蹴散らしたり、踏み潰したりしながら。
抑揚のない、ゆっくりとした大声が聞こえてくた。
やはりエモバグは、インターネット上の心ない者達の悪意を撒き散らしているのだろう。
『冬樹夏樹は特撮にまた出演しろー!特撮をなめるなー!』
害悪なる、卑屈な、邪念に満ちた叫びが…………
って、あれ……?
<つづく>




