第7話 判明!敵の組織はマジョリティ YESでいいのか、マジョリティ Aパート
埼玉という地名はさきたま古墳群(現行田)に由来する。
さきたまとは幸魂に由来する。
そして、幸魂とは幸いをもたらす恵みの魂に由来する。
つまり埼玉とは幸せをもたらす魂に由来する。
その幸魂を祀った県の、エモーションの塊であるサイスフィアならば、さいたまと呼んでも差し支えはないだろう。
「そんなメールを送られてもサイスフィアをさいたまとは呼ばないからね」
ももももから返信があった。
「あおいちゃんって物知りだね^^でもサイスフィアはサイスフィアなんじゃないかな」
いろちゃんから返信があった。
学校のお昼休みに二人にメールを送ったのだった。
サイスフィアをさいたまと呼ぶのを広める試みはうまくいかなかったようだ、残念。
仕方がないので、わたしはイヤホンを取り出した。
ダウンロードしてあったSAH40の曲を聞く。
今まで興味を持ってなかったアイドルの世界だが、聞いてみると結構いい曲だと思う。
また、ライブにも行きたいな。
キュレーター活動は危険な戦いにプライベートを割かれるものなんだけど。
でも、何だか最近すごく楽しいなあ。
さして共通点もなくて、他校の、ももといろちゃんと知り合っただけの事なのに、すごく心が暖かくなった感じがする。
その日の放課後、わたしはヤバンセ美里店に買い物に行った。
今日の夕食はわたしが作るのだ。
肉や野菜、カリヴァリ君ソーダ味などを買って外へ出る。
駐車場まで来て、そういえば初めてエモバグとバトルしたのもここだったなとふと思った。
店舗の壁に写し出されたプロジェクションマッピングからエモバグが出て来たんだっけ、と店舗を振り返る。
その場所はシートがかけられ、足場が組まれていた。
まだ補修は終わっていない。
そして、屋根の上には二人の人影があったんだけど、それは作業者じゃなかった。
それは二人の少女達だった。多分わたしより年下の。
多分というのは二人が仮面を付けていて、背格好くらいしかわからなかったからだ。
仮面を付けているだけでも異様だが、服装自体も異様だった。
それはドレスと言うべきものだったが、肩の袖口もスカートの裾も鋭角的な刺々しいデザインだった。
仮面の方もやはり刺々しかった。口元だけが露出したデザインになっている。
わたしは店舗の方へ取って帰した。彼女達がまともな訳がない。そして、これまでのまともじゃなかった事に関係ない訳がない。
わたしの見てる前で、二人は互いの手を合わせた。
そして叫んだんだ。
「NOと言いなよ、マジョリティーッ!」
二人の合わせた手が輝くと、彼女達の真下の壁面のプロジェクションマッピングから、巨大な姿がはい出して来る。
ピンクのエモバグだ。
それはエモバグ出現の瞬間だった!
エモバグが出現しただけで、壁の補修のために組まれた足場が崩れてしまう。
ヤバンセの修理が遅れちゃうじゃない!
『最近は攻めてる発言がすぐクレームで叩かれるー!』
抑揚のない声を上げ、店舗を殴り付けるエモバグ。直りかけてたところだったのに!
こうしてはいられない。
わたしは物影で「キュレーティン!」した。正体は隠さなきゃね。
「きゃははは、やっちゃえ!エモバグ!」
「こんな店ぶっ壊しちゃえ!」
はしゃぐ黒装束の少女達。
「待ちなさい!」
プリジェクションソーダとなったわたしが立ちはだかる。
「せっかく修理してるとこに何て事するの!」
「出て来た!邪魔なやつー。ぞっとするし」
「壊すとスカッとするからじゃん。わかんねーの?ぞっとしないし」
スカッとするために破壊活動をしてる?
そんな理由でエモバグを出現させているなんて!
あと話し方変だし。
「サクラとペアーも呼んだベェ」
「サンキュー、ミムベェ」
芸能関係の話題を叫ぶピンクエモバグに、キレキレ攻撃できるのはプリジェクションサクラだけ。
でもヤバンセへの被害は出来る限り喰い止めなければ。
常連のわたしも困るし!
『攻めてる発言がないと世の中がつまらなくなるやろー!』
叫び声を上げるエモバグ。
とにかく動きを止めるため、近づこうとするわたし。
しかし、その前にあの黒装束の二人が立ちはだかる。
「邪魔すんなって言ってんじゃん。ぞっとするし」
「邪魔はさせないよ。ぞっとしないし」
二人のパンチとキックの攻撃。
受け止める事はできたが、エモバグには近付けなかった。
「このセゾンのコーデの調整が済んでバトルできるようになったんだから、これからは簡単にはいかないっての」
「ぞっとしないよねー」
「ぞっとするよねー」
ハイタッチする二人。
セゾンのコーデ?
これはあの二人もプリジェクションキュレーターと同じように、エモーショナルな衣装の力によって、身体能力が上がっているという事なの?
『今は攻めた企画ができないから、バラエティー番組がつまんないんじゃー!』
さらにヤバンセが破壊されていく。
あの二人がいてはエモバグを阻止できない。このままじゃ……
「ヤバいって!ヤバンセだけに」
「何つまんない事言ってんの」
「お待たせ、ソーダちゃん」
ピンクと黄色の姿が颯爽と飛び込んできた。
ももといろちゃん、プリジェクションサクラとプリジェクションペアーが来てくれたのだ。
<つづく>
【あおいちゃんのイノベーティブ現代用語講座】
・幸魂
人に幸福を与えると言われる神の霊魂の事。
埼玉の由来とされる前玉神社の前玉の語源は幸魂になって、これがすなわち幸魂!
つまり、埼玉は人を幸福にする魂が宿ってる県だって事なんだよ。




