第5話 あおいともものすれ違い プリジェクションキュレーター解散の危機?(後編) B、Cパート
「キュレーティン!」
わたしはスマホを取りだし、変身アプリを起動した。
EPMのプロジェクターから光が投射される。
プロジェクションマッピングの光に照らされたわたしのブレザーが変化していく。
紺色のブレザーが鮮やかなシアンに変わる。
胸元のリボンの位置には大きな宝石型のブローチが。
服の袖とスカートの裾には白いフリルが付く。
髪の毛、眉毛、まつ毛、唇が青く変わる。
髪はフワッとなって、羽飾りのようなカチューシャが装着されている。
「ピンクバグベェ」
ミムベェも現れた。
「はにぷーの話だとももはライブで、一曲終わるまで伝えられないらしいベェ」
「……はにぷーにももには知らせないでって言って」
「何言ってるベェ」
「あの子の夢の邪魔はもうしたくない。このエモバグはわたしが倒す」
「50回攻撃しなきゃだベェ」
色違いのエモバグへの攻撃はキレキレ攻撃にならない。
必殺技を撃てるほどエモーショナルパワーを貯めるには、50回くらい攻撃しなければならない。
「ももは50回で済んだけど、もっとかかる可能性もあるベェ」
「それでも!それでもやらなきゃ!」
償いがしたいのももちろんだけど、それだけじゃなかった。
「ライブ中のもも、すごく輝いてた。あの子には夢を追いかけて欲しい」
ピンクバグと対峙するわたし。しかし……
『恋愛禁止のルールを守れないアイドルはアイドルやめろー!』
「ばかー!」
『恋愛やっているアイドルを好きになる人はいないー!』
「あほー!」
『運営企業が恋愛が禁止しているのに、なんで恋愛禁止を守れないメンバーが出るんだー!』
「うすらとんかちー!」
わたしの反論はピンクのエモバグに対してキレキレではない。
それどころか、
『ルールを守れないのはプロ意識が足りないんだー!アイドルになるなー!』
「ぐっ!」
パンチやキックを繰り出しても、エモバグはよろめきもしないので、わたしに隙ができる形になって、パンチを食らってしまう。
「キレキレじゃない反論はしない方がマシベェ」
「それもそっか」
「ど、どうしたの?ももちゃんは?」
いろちゃんがプリジェクションペアーに変身して駆けつけて来た。
「ももは呼んじゃダメ…!このエモバグはわたしがやっつける…!」
「そんな……!」
やはりわたしにはピンク色のエモバグにキレキレ攻撃はできない。
でも、同じ状況でももは50回も攻撃したのだ。
しかも、彼女の夢であるアイドルとしてのライブを抜けて。
わたしが行かなかったせいで。
何度も攻撃して疲労していたところに受けたパンチはきつかった。
起き上がれないわたしに近付いて来るエモバグ。
「無理だよー、ももちゃん呼ぼうよ」いろちゃんが叫ぶ。
「それはダメ。ももは夢を追いかけているんだから!」
拳を振り上げている。避けられそうにない。何とか防御しようと腕で全身をガードしようとしようとする。
エモバグのパンチが飛んで来る。
ああ、なんとかしなきゃ。ももは頑張って青いエモバグをやっつけたんだから、わたしだってやらなきゃ。
この攻撃をガードして、それから……。
『恋愛禁止のルールを守れないアイドルはアイドルやめろー!』
「今は携帯のカメラやSNSの普及で秘密が漏れやすいだけ!昔のアイドルだって恋愛してたでしょっ!」
攻撃したはずのエモバグが吹っ飛ばされている。
見上げるとそこには長いピンクのポニーテールがあった。アクセントの白い羽飾りの付いたカチューシャも。
ピンクの衣装と白いフリルは、プリジェクションサクラだった。
「色違いは大変でしょ?」
すらりと伸びた長い足。エモバグを吹っ飛ばしたのはももの飛び蹴りだった。
「どうしてここに……?」
「本当に役割分担できると思ったの?」
「ううん。ライブ中のももを呼びたくなかったの」
プリジェクションサクラがここにいるなら、梅桃さくらはライブハウスにいない。
「どうしてここに?いろちゃんが呼んだの?」
いろちゃんは首を振っている。
「あいつらよ」
ももが指差した先にはミムベェとはにぷーとこむぎっちゃんが。
「ライブを抜けてきたの?」
「そうね」
「結局また迷惑かけちゃった」
なんか涙が出てきた。
「わたしはもうももの夢を邪魔したくなかったのに……」
しかしももは笑顔で言った。
「この街のイノベーションが失敗したら、わたしの夢も終わりじゃない」
エモバグが立ち上がってくる。
「EPMを使ったアイドルとしてわたしはやっていくって決めたの。
この街のイノベーションを守る事はわたしの夢を守る事でもある。エモバグから街を守る事はアイドルやるのと同じように大事」
起き上がって突進してくるエモバグ。
『恋愛やっているアイドルを好きになる人はいないー!』
「ルールの話は会社と個人の話。ファンだろうと何だろうと部外者には関係ない!」
ももは身体を反転させての後ろ蹴りで、エモバグにかかとを叩き込んだ。
『運営企業が恋愛が禁止しているのに、なんで恋愛禁止を守れないメンバーが出るんだー!』
エモバグの反撃のパンチをかわし、
「アイドルは奴隷じゃない。アイドルを人間扱いしてないからそんな事を考えるのよ!」
手刀打ち。さらに、
『ルールを守れないのはプロ意識が足りないんだー!アイドルになるなー!』
「それはあなたにカンケーない!」
鋭い正拳突きが決まった。
ブローチが輝く。エモーショナルパワーが貯まったのだ。
「サクラブリザード!」
そのエモーショナルな桜吹雪が竜巻となってももの周囲に現れ、エモバグに向かって行く。
あっさりと倒されるエモバグ。
それがピンクバグのセオリーなんだろうが、わたしはあんなに苦労したのに、やっぱりあっけなく感じた。
色の関係性をつくづく思い知らされる。
勝利したももはわたしに近づいて来る。
バトルが終わってホッとした表情だ。やはり怒ってる感じではない。
「青バグはあなたの担当ね」
「うん」
「来れない時はちゃんと連絡できる?」
「はい」
倒れてるわたしに手を差し出すもも。
「今回は許してあげる」
「え?」
「この前の講演はあなたのお父さんの講演だったのね」
「うん、どうしてそれを?」
「ミムベェが教えてくれたの。あおいにとっては大事な講演だったんだって」
正確にはお父さんの講演だからではなく、二択陽一の未発表論文が大事だったんだけど。
「わたしがアイドル目指してるのもお母さんがアイドルだったからなんだ」
それは知らなかった。
「わたしのお母さん、桃山ももえ。知ってる?」
芸能人には詳しくないわたしだが名前は知っていた。
確か人気絶頂の最中に引退したはずだ。
「わたしが生まれるから引退したお母さんの夢を、わたしが代わりに叶える。それがわたしの夢」
「そうだったんだ」
「わたし達似てるのかもね」
ミムベェがももを説得してくれたんだ。
でもミムベェに講演の内容は話してないのによく分かったなあ。
まあ葵上って珍しい名字だよね。
「もうエモバグはやっつけたっち?」
こむぎっちゃんだった。
「わたしのいない日に大変な事になってたって聞いてるっち」
そう言えばあの日はこむぎっちゃんはいなかった。
「婚活パーティーはどうだったの?」
いろちゃんが尋ねる。
「ろくな男がいなかったっち」
こむぎっちゃんの中の人、婚活パーティーに行ってたんだ。
「ふーん、じゃあもうあおいちゃんとももちゃんは仲直りしたっちね。詳しく話すっち」
わたしは事の顛末をこむぎっちゃんに話した。
「なーんか引っかかってたんだけどさー」
難しい表情のこむぎっちゃん。
「ミムベェ、あんたさあ」
わたし達からミムベェに視線を移す。ミムベェがドキッとした表情になる。
「やっぱりエモバグの色の話を、あおいちゃんにきちんと話してないんじゃないの?」
そう言えば、確かにミムベェからその話は聞いていない。
「でも今までの戦いを見て分かってもよかったはずだから、やっぱりわたしが悪いよ」
今さらそれを責める気はしない。
「そうじゃなくってさ、色とジャンルの関係性の話」
「ジャンル?」
「青が政治経済と社会問題、ピンクが芸能、黄色がサブカルチャー、つまり漫画、アニメ、ゲーム、特撮。エモバグとあんた達の色の関係性」
「そういう事だったの?」
「やっぱり知らなかったっち」
お父さんが役所勤めでこの街のイノベーションに関心のあるわたしが政治経済と社会問題の青。
アイドル活動をしているももが芸能のピンク。
マンガ、アニメ、ゲーム好きのいろちゃんがサブカルチャーの黄色。
こういう事だったみたい。
確かにここまで知っていればキレキレ攻撃と色の関係性は分かったかも。
「ミムベェ~~~!!」
こむぎっちゃんがミムベェを睨み付ける。頭の小麦の穂がミムベェの方に向く。
そういう構造になってたんだ。
「こ、こむぎっちゃん、落ち着くベェ!」
「今回のケンカはあんたのせいじゃん!」
「つい忘れて……。色々立て込んで大変だったんだベェ」
「てめー、ガールズバーは行ってただろ?!待て!逃げるなー!」
「思い出したら講演の最中で、もう連絡できなかったんだベェ!堪忍だベェ~!」
逃げるミムベェと追いかけるこむぎっちゃん。
「ちゃんと説明を受けてなかったのね、あおい」
「でもやっぱりわたしの不注意だし、自覚が足りなかったよ。ごめんなさい」
ももの手を取り、立ち上がるわたし。
「改めてよろしくね、あおい」
その言葉でなんだか感動してしまう。
「もももも~!」
感激のあまり抱き付くわたし。
「ももももって言うな!」
いけね、心の中で言ってたからだ。
「ふふっ、あおいちゃん、おかしー!」
そんなこんなで大変な事になったけど、お互いの事を深く知る機会になった。
「さて、戻らなきゃ。ライブまだやってるかも」
ライブを中抜けして来たもも。バトルの後はライブが終わってたとしても、片付けのために戻ったりしてるみたい。
「そうだ!ライブの後、カラオケ行こ」
いろちゃんの提案だった。
「なんで?」
「変身ポーズ!あおいちゃんに教えなきゃ」
わたし達はその日、三人でカラオケ屋に行った。
正しい「キュレーティン!」を習い、アイドル梅桃さくらの生歌も聞けた。
帰りにはSAHのCDまで買ってしまった。
最高に楽しい一日になった!
☆☆☆
一方その日、ミムベェはこむぎっちゃんにみっちり叱られたんだって。
その夜はガールズバーには行けなかったんだって!




