第5話 あおいともものすれ違い プリジェクションキュレーター解散の危機?(後編) Aパート
「あの子アイドルだったんだ!」
「そう。ももちゃんは梅桃さくらちゃん」
いろちゃんはこれを見せに来たのか。
「まだ中列だけど、結構頑張ってると思うんだ」
確かに背が高くて凜としたももには存在感がある。
そして、歌やダンスに詳しくないわたしにも伝わるオーラのようなものがあった。
彼女への没入感も知り合いだったからだけではないと思う。
「本当はこの前のカラオケ屋で教えてびっくりさせようと思ってたんだ」
アイオン上里店に集まった日の事。結局エモバグが出てカラオケ店には行けなかったけど、個室で変身ポーズを教えるためだけじゃなかったんだ。
「おとといもライブがあったの」
「……え?」
「じゃあライブは?」
「途中で抜けたよ」
そうだ。彼女にだって日常があって。
しかもアイドル活動をしてたなんて。
「それで怒ってたんだ」
「まあ中抜けはこれが初めてじゃないし、エモバグが出たら仕方ないってももちゃんも思ってるよ」
ステージには満面の笑顔の歌とダンスで観客を魅了するもも。
「でも青いエモバグの時はやっぱり来て欲しかったかな」
青い……?そうだ。おとといも青いエモバグが出たからって。
「色が合ってないとキレキレ攻撃にならないでしょ」
「色?」
色が合ってないとキレキレ攻撃にならない……?
そうだったのか。
でも色に関する会話は何回かあった。
気付くべきだったのだろう。
しかしキレキレ攻撃にならないと言うなら……
「じゃあどうやって必殺技を?」
キレキレ攻撃で必殺技を使うためのエモーショナルパワーが貯まるはず。
「一応普通の攻撃でもパワーは貯まるよ。前も青バグをやっつけた事あるの」
しんどそうに語るいろちゃん。その時の事を思い出しているようだ。
「50回くらい攻撃しなきゃだけどね」
50回!
「そんなに……」
「おとといもエモバグやっつけるの夜までかかったんだ」
そうだったんだ。わたしが行かなかったばっかりに。
そういう事なら「死ね」はともかくあんなに怒ったのも理解できる。
「どうしよう。わたし、あの子の夢の邪魔をしちゃった」
自分の都合ばっかりで、身勝手だった。初めてそれを思い知った。
胸がすごく苦しい。
「わたし、あの子に謝る……」
「今は止めておいたほうがいいと思う」
それはそうだろう。そもそもアイドル梅桃さくらに近づけるかも分からない。
「あたしも二人には仲直りして欲しいんだ」
いろちゃんは泣きそうなわたしの肩に手を置いて、優しく微笑んだ。
その後、ももと接触する機会を得た。
本庄にピンクバグが出た。
わたしが出る幕ではないが、現場に向かう。
いろちゃんも来てくれた。
現場に来た頃には鮮やかな速攻でバトルは終わっていた。
「あ、あのももちゃん……。この前はごめんなさい」
わたしは勇気を出して謝った。
「いいのよ。わたしも死ねはよくなかったと思ってる」
「じゃあ……」
「葵上さん、あなたは美里の事だけ気にしてくれればいいの」
「う……」
「美里にピンクバグが出た時もわたしを呼んでくれていい」
やっぱり声のトーンは冷たかった。
「でもあなたに背中を預ける気はないわ。キュレーターとしての気構えが違うもの」
怒っているのではない。
この前は怒ってたのだろうが、今は感情で言ってはいないんだろう。
わたしは、信頼されていないのだ。
そしてそれはかえってキツイ……。
「気にしないで。わたし達はプリジェクションキュレーターってだけで、友達でも何でもないんだから」
「ううー……」
友達にはなれないんだ……。
「大丈夫?あおいちゃん」
いろちゃんだ。
気が付いたらももはいなかった。
「わたし、プリジェクションキュレーターやめた方がいいのかなあ?」
「な、何を言ってるの?」
「やっぱりわたしはふさわしくないのかも。誰か…他にいい人が……」
涙まで出て来てしまう。
「いい人なんかいないベェ」
ミムベェだった。
「ボクらが見えるエモーションの持ち主はあおい達三人だけだベェ」
「そうなの?」
「他の適合者も探してるけど見つかってないベェ」
「そうなんだ」
身体から力が抜けてきた。どうしようもない。何もできる事がない。何も考えられない。
「ミムベェもあの日、連絡しなくてごめんね」
わたしは美里に戻る事にした。
力の入らない身体を引きずるようにバスに乗り込んだ。
なんて憂鬱なんだろう。お父さんの講演をワクワクしながら聞いていたのが嘘みたい。
そんな憂鬱な日々を送っていたある放課後、バスで家に帰るわたしの目の前でエモバグが現れた。
ホームセンターユメリ美里店の前だった。
バスを下車して迎え撃つわたし。
それはピンク色だった。
『恋愛禁止のルールを守れないアイドルはアイドルやめろー!』
<つづく>




