第4話 あおいともものすれ違い プリジェクションキュレーター解散の危機?(前編) Bパート
ミーティングの呼び出しに何だか胸騒ぎがした。
ももちゃんにはちゃんとお礼を言おう。
そう思っていた。それで済むと思っていた。
ミーティングの場所は本庄コミュニティセンター。本庄駅もほど近い本庄のメインストリート、二本松通り沿いの煉瓦造りの三階立ての建物だ。
本庄駅行きのバスからすぐ行ける。
「こんにちはー」
指定されていた一室には梅桃ももちゃんと松木いろちゃんがいた。ミムベェ、はにぷー、もいる。
こむぎっちゃんはいなかった。
みんな神妙な面持ちで、この時点ですでに嫌な予感はあった。
「昨日の事だけど、急用なら仕方ないけど、急用ができた時点で連絡するようにしましょう」
梅桃さんはあいさつもそこそこに本題に入った。
「昨日はごめんなさい」
連絡の仕方の問題についてみたいだった。
確かに5回も電話させたり、探させたりしたのはよくない。
「でもおかげでいいお話が聞けたんだ」
わたしは貴重な講演を逃さずに済んだ素直な感謝を伝えようと思った。
「お話?」
でもこの時、ももちゃんの顔つきが変わった。と、言うかわたしは睨み付けられた。
「急用じゃなかったの?」
「付属高校で講演会があったの。AI研究の権威二択博士を……」
「あおいはそのために昨日来なかったの?」
信じられないと言った顔つきだ。
いろちゃんもショックを受けている感じだ。
「それはちょっとキュレーターの自覚が足らないんじゃない?」
「ごめんなさい。でも本庄だし、すでに梅桃さんが戦ってるって聞いたし、別にわたしがいなくっても」
「死ね!」
物凄い剣幕だった。
死ねと言われたくらいで死ぬ訳ないけど、頭がグラグラしてきちゃって、もしかしたら死ぬのかも知れないとすら思った。
「だったら今後は美里のエモバグはあんたが一人で相手すれば?
町で役割分担をしたい訳?」
「死ねなんてひどい!そんなに怒んなくても……」
「急用って聞いたから仕方ないと思ったのに。本当にがっかりしたわ、葵上さん」
そう言うと彼女は立ち去った。
ドアがバタンと閉じられる。
「ま、待って。ももちゃん!」
いろちゃんが慌てて追いかける。
立ち去るももは多分泣いていた。
わたしはそんなにまずい事をしてしまったのだろうか。
目の前が暗くなった気がしてきた。
次の日。
もやもやいらいらむかむかする。
昨日は梅桃ももに凄い剣幕で怒られた。
おかげで二択博士の講演の内容は頭からすっとんでしまった。
確かに急用とは言い難い理由で、キュレーター活動をサボタージュしてしまったのはわたしが悪い。
でもあんなに強い梅桃さんがすでにバトルしていたなら、わたしが出る必要性はなかったんじゃない?
それに「死ね」は絶対言ってはいけないと思うし。
あの子はちょっと感情的過ぎるんじゃないかって気がするなあ。
名前も何か変だし。
ももめ。ももももめ。ももももももももものうちめー。
インターフォンが鳴った。
「あおいちゃんいますかー?」
聞き慣れないような、聞いた事あるような女の子の声は誰かと思ったら松木いろちゃんだった。
「こむぎっちゃんにお願いして、ミムベェに教えてもらっちゃった」
まさか家にまで来るとは思ってなかった。
いろちゃんもわたしに対して怒ってるんじゃないか、嫌われてるんじゃないか、不安な気持ちもあったのでちょっとホッとした。
「上里からわざわざ?まあ上がって」
「それより今からSAHのライブ見に行かない?」
埼北市でSAHと言ったらSAH40の事しかない。
いわゆるご当地アイドルグループで40人いる。
実験都市以前はドマイナーだったが、今は最先端のエモーショナルプロジェクションマッピングの力で大盛況。
でもわたしはライブを見に行った事はない。
一度小学校の頃、体育館で歌ってたのをあるのを見たくらい。
「そんな気分じゃないよ……」
「気分転換だよ」
「うーん」
「カリヴァリ君おごるから」
「……行く」
二人でバスに乗ってライブ会場に向かう。
いろちゃんはゲームやマンガ、アニメに加えてアイドルにも興味があったのか。
わたしは偶然にテレビで見るくらいの知識しかない。
「いろちゃんはこういうライブよく行くの?」
「ううん、二回目くらい」
あれ、よく行く訳じゃないのか。
本当ににわたしの気分転換のためだけ?
でもアイドルが好きなんて言ってないし。
埼北市本庄の商店街。
旧市役所でもある、市民交流センター、はにぷープラザのバス停を降り、本庄の商店街通りである、おなじみ銀座通りを突っ切ったT字路の突き当りにライブハウス、「レッドサイン」はある。
SAH40のライブはここで行われている。
狭いライブ会場はファンが押し寄せていた。
ステージは大熱狂だった。
SAH40のライブは感情に影響を与えるエモーショナルプロジェクションマッピングが使われていて盛り上がりが凄い。
恋愛の歌なら公園や市街地の映像が本当にデートしているかのような、友情の歌なら一緒に学園生活を送って行くような没入感を与える。
EPMの与える没入感は誰か一人が本当に自分の友達や恋人のような臨場感を与えると言われている。
今やってるのは夢と友情の歌。
わたしにもその没入感が押し寄せてくる。
中列中央にいる背の高いポニーテールの子が友達の気がしてくる。
凜とした、かっこよくもあり、かわいくもある梅桃ももは確かに憧れる部分があって、本当は仲良くなりたかった。
梅桃ももとは、もももも、梅桃……
ちょっと待て、ももって?
中列中央にいるその子をもう一度よく見る。
やはりその子は最近知り合った、プリジェクションサクラの、「死ね」と言われた、あの梅桃ももにしか見えない。
わたしはメンバー表を見直した。
と言ってもこういう顔写真は意外と本人に似てないものだ。
何人かいるポニーテールから比較的梅桃ももに似ている子の名前を見る。
「梅桃さくら」
これだ!
ももはステージではももももではなかったんだ。
<つづく>
 




