もふもふ、のち、婚約破棄?
恋愛の予定はありますか?
3ヶ月以内にありますか。
積極的に結婚したいとは思わないけどいい人がいれば。なんて言ったばかりにセッティングされたお見合い。今は忙しく(取引先の人が)会うのは3ヶ月先だが、この3ヶ月という部分が僕の周りで話題になった。
「3ヶ月は彼女が絶対できない予定の人」
なんて揶揄してくるのはまだマシな輩で、
「女の子から見てどうなのよ、3ヶ月恋愛しない予定の男って」
などと女子にわざわざ訊き回るヤツもいたりする。でも言わせてもらえば3ヶ月なんてあっという間に過ぎると思う。
それにしても小さすぎてよくわからない彼女の写真である。
そんなある日、僕はラッシュのホームで一人の女性と知り合った。
「あ~もう取れないな。時間ないですよね」
「はい…」
レースのブラウスに僕のイヤホンが引っかかり、しょうがなく彼女がイヤホンを預かることになった。
「じゃ代わりに…あ、このもふもふのストラップ持っててください」
「わかりました。あ、ほんとにもふもふだ」
そうして彼女と僕は友だち以上恋人未満の関係になった。
「そう言えば、お見合いもうすぐじゃん。順調?」
時々めざといヤツが訊いてくる。
「何が」
「恋愛なしで3ヶ月間過ごし切れるか」
確かに、過ごしきれない可能性が出てきたことは否めない。僕は取引先の人に電話をした。
「もしもし、佐々木です。あの…直前で申し訳ないんですが、お見合い、会わないでお断りしても差し支えないんでしょうか。ちょっと色々あって…すいません」
そして晴れ晴れした気持ちで彼女に会いに行くのだった。
「こんにちは!」
「…こんにちは」
挨拶を返す彼女の顔は少し曇っていた。そして次には思いもかけない言葉を聞いた。
「お見合い、断られたんですね」
「え? …なんで…」
「相手が私って、わかってたんですか」
「え」
言われてみれば…いや言われてみても一致しない。それほどにぼやけててわかりにくい写真なのだ。
「私は途中で気づきました。だからその日を待ってたんです。でももういいです。最初からなかったことにしますから」
最初からも何も…まだ何も始まってない。僕は完全に置いてけぼりをくらっていた。
「僕が断ったのは」
「なんか、婚約してないのに婚約破棄された気分です」
え、そうじゃない。違う。違うんだ。
「えっと」
「さよなら」
いやちょっと待って。何か言わなきゃ。あ
「好きです!」
気がつけば彼女は出会った日と同じレースのブラウスを着ていた。