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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第七章:為虎添翼
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96話

「為虎添翼」は白い翼を大きく広げ、堂々とこの大地に降臨する。まさかこのタイミングで召喚できるとは思ってもいなかったので嬉しい誤算だ。

虎の威を借りる狐とはまさにこのこと、式神を召喚できたことによって勝機が見えてきて気持ちを後押しされる。

自分で呼んだのだ、こいつだけに戦わせるわけにはいかない。そう思って私はボロボロの体を無理やり起こして虎と共に火如電と対峙した。


「くっ……まさか召喚できるようになったとは……だがな!いくら式神だろうが俺の『電光石火』の前にはどうすることもできまい!!」


そう言って奴は棍棒を構えていつでも交戦できるよう準備する。どうやら向こうも式神が敵側に1匹ついたところで恐れるような輩ではないらしい。

「為虎添翼」もすぐに火如電を敵と認識、目を強張らせ牙を剥き、太い前足で何度も地面を擦りながら唸っている。

そういう私も「伝家宝刀」を純桜から受け取り、再び握って構えなおした。いつでも来ても良いように刀身に全身全霊をかける。

すると先に動いたのは「為虎添翼」、大きく鳴きながら奴に向かって走り出した。

4本の足で砂浜を蹴り、まるで戦車の突撃のように思えてしまう程のパワー、あいつが走る度に僅かに地面が揺れている。

そして口を大きく開けそのまま火如電に突進していった。


「ぐおおおおっ!!!」


対する奴は噛まれないよう虎の上顎と下顎の間に棍棒を挟み口を閉じらせないようにし、そのまま棒を支えて真正面からタックルを耐え忍ぶ。

式神の顎の力に挟まれても折れない棍棒は流石ともいえるが、その勢いだけはどうにもならず棍棒と共に後ろへ吹っ飛ばされた。


「糞がっ!反則だろうがそのパワー!!」


奴は着地した後すぐに虎を見て応戦しようとしたが、目の前にいたのは虎ではなく刀を振り下ろそうとしている私。

「為虎添翼」が突っ込んだ際に私も後ろから追い、虎の頭を踏んで跳び越えて前に出たのだ。

またもや「伝家宝刀」と棍棒がぶつかり合い、耳を劈くような音を周囲に響かせる。

そこから奴は何度も棍棒で乱打してくるが全て防がれてしまい、逆に私によって足を斬られてしまった。


「づぁがっ!?」


傷口は浅いがそのバランスを崩すには十分であり、奴は斬られた瞬間大きく転倒しそうになるも棒で体を支えて何とか踏みとどまる。

しかし休んでいる暇は無い、体勢を立て直そうとしていると上から飛んで来た「為虎添翼」の強烈な殴打、とどのつまり()()()()()()()()殴り飛ばされた。


「どあがぁ!」


地面に倒れる火如電、虎は倒れている奴を思い切り踏みつけようと足を落とすが地面を転がって奴は回避する。

そこから転がりながら逃げる火如電に対し、「為虎添翼」はそれを追いながら踏みつぶそうという、まるでもぐら叩きのような状態に陥った。

しかし火如電もいつまでも転がって避け続けるほど馬鹿じゃない、棍棒を地面に付けて素早く体を起こし、真上から迫りくる肉球に対し棒を横にして受け止める。

そのまま地面に押し付けようとする「為虎添翼」の力は凄まじく、その重みに耐えきれないのか奴の体もプルプルと震え始めた。

今だ――奴が「為虎添翼」の足に気を取られている今がチャンス。私は「紫電一閃」を使用し紫色の斬撃を飛ばす。

虎の足裏を支えるのに忙しい火如電がその斬撃を避け切れるはずもなく、斜めにかかるように亀裂が体に走った。


「ぐあがぁああ!!」


そして胴体を斬られたダメージにより体の力が一瞬抜けてしまった奴は、そのまま虎の肉球に押し潰された。

瞬間、まるで何かが爆発したかのような勢いの突風が巻き起こり、隕石でも落ちたのかという程のクレーターができている。

何てパワーだ。踏んだだけであそこまで地面を変形させるとは。

私の斬撃と「為虎添翼」の踏みつけ攻撃をもろに受けたあいつはボロボロの状態でクレーターの中心に倒れている。

トドメと言わんばかりに、虎がもう一度踏み潰そうと足を下ろした瞬間、幾つもの音がほぼ同時に炸裂し、刹那虎の足が何者かに殴られたかのように上へ押し上げられた。

「電光石火」の能力だ。見えなかったが超高速であいつの足裏を殴ったに違ない。


「このぉ……!!やりやがったなぁ!!」


激情した火如電は怒りの表情で棍棒を向け、気付いた時には私の腹を思い切り殴っていた。


「なっ!?」


馬鹿な、私とこいつとの差は3mぐらいあったはず。いくらあの棍棒も届かない距離だし、それに今奴はこの距離を目にも止まらぬ速さで移動した。

話を聞くに「電光石火」の短時間超高速攻撃は「疾風迅雷」のように移動時に速くなるわけではない、それなのに一体どうやって私との差を埋めたのか?

殴打を受け苦痛の表情になりながらも今さっきあいつがいた場所を見てみると、奴の足跡がいくつもある。それを見て察した。


(こいつ……攻撃としてのキックで地面を何度も蹴ってそれで加速したな……!!)


あいつは1秒間にパンチを100回以上もできる。それを利用して移動する直前に超高速で地面を何度も蹴り、その勢いで私の元まで来たというわけだ。

今奴が何回蹴ったのかは分からない、ただほぼ一瞬で移動するように見えるくらい沢山蹴ったのだろう。

その分加速しその分速くなった、単純計算なら通常の1()0()0()()()()()()()。速くなるのは攻撃だけかと油断していたが、まさかこんな応用の仕方があるとは……


「お前よぉ……四字熟語の使い方が上手くないぞ!」


「何……?」


そう言って奴は棍棒を何度も振り下ろしてくる。刀を横にして刀身でそれらを受け止めつつ奴の間合いに近づきすぎないよう後退していく。

いくら超高速の連打が可能で標的が間合いの中にいても、そいつが棍棒のギリギリ届くぐらいまでの距離だったらその威力も速さも少し落ちる。棍棒を当てる奴が離れていればいるほど余計に棒を振らないといけないし力も入りにくい。

現に奴は「電光石火」の能力を使わず必死に自分との距離を詰めようとしてきている。多分この状態で使っても大したダメージは与えられないと気づいているのだろう。だから私は後退し続けながら奴の攻撃を受け止めていく。防戦一方になるがそこは「為虎添翼」がフォローしてくれるはずだ。

しかしさっきの「使い方が上手くない」とはどういうことだろうか?


「お前はその『伝家宝刀』に頼りすぎて他の四字熟語を活かしきれていないんだよ!!それじゃあ俺には勝てんぜ!!」


確かにこいつは上手く「電光石火」を利用して先ほど私に一撃与えた。

しかしその台詞は、夏休みの合宿の時に鷹目さんから嫌という程言われた!


「誰が……活かしきれてないって!?」


そう言って私は「剣山刀樹」を使って地面に刀を突き刺す。すると無数の刀が()()()()生えてきた。

その刃は私には当たらず追ってきている火如電に何本も突き刺さる。貫通はしなかったがかなりの大ダメージだろう。


「お前……!!自分には当たらないよう刀を生やしたな……!!」


「生憎、こいつの練習はやりまくった!」


鷹目と一緒に練習した「剣山刀樹」の扱い、地面に刀を生やすその技は、生える場所、向きを自由に操ることができる。

しかしそれにはかなりの集中力が必要だが、それを鍛えたという訳だ。

おかげで自分には当たらぬよう相手にだけ刺さることがほぼ一瞬でできるようになった。

確かに私は「伝家宝刀」に頼りすぎているかもしれない。だがその分他の四字熟語を活かして使えるというわけだ。


「このっ……へし折ってやる!!」


そして自分に刺さった刀を棍棒で折ろうとするも傷1つ付かない。

「伝家宝刀」を刺して「剣山刀樹」を使ったわけだから、「絶対に折れない」という性質も生えてくる刀にあるということだ。


「お前こそ……たかが1つの四字熟語を応用できてるからといって、いい気に乗ってるなら……私には勝てんぞ!」


「この……生意気なぁ!!」


すると火如電は無理やり刺さった刀の森から脱出、そしてそれを跳び越えて私に棍棒を振り下ろそうとするも……


『グガルッ!!』


「のわぁ!?」


翼で低空飛行をし、宙にいた奴を「為虎添翼」が向かいそのままタックルと地面に叩きつける。

これも応用のうち、「剣山刀樹」で目まぐるしく攻撃することによって敵の注意をこちらに引き寄せる。何せ数十本という刀が一斉に自分の方へ向かってくるのだ、よそ見することなんかできない筈。

自慢げに解説しているも今さっき思いついた作戦だ。「剣山刀樹」を使う直前で「為虎添翼」にアイコンタクト、すると虎は空を飛び大きく羽ばたいて威力を付けて突っ込んできた。


「このっ……虎がぁあ!!」


火如電は棍棒で虎を牽制しながら後ろに下がっていく。状況を落ち着かせて冷静になり少しずつ対処していくつもりだろう。

そうはさせない――「神出鬼没」を使ってあいつの真後ろにまで瞬間移動する。

すると奴はそれを読んでいたのか、後ろに目をやっていて「為虎添翼」の方ではなくこちらに棍棒を向けていた。


「馬鹿がっ!相手が瞬間移動できることさえ分かっていれば次の一手など余裕で読める!こういうのは大体後ろにテレポートしてくるんだよなぁ!!」


「ああ、だから私も()()()()()()!」


私は奴の棍棒が当たる前に素早くまた瞬間移動、今度は完全に後ろを向いていて疎かにしていた前方に移動した。

最初の瞬間移動は囮、相手がこちらの動きを予測してくるだろうとそれを逆に予測して、その注意を完全に1回目の瞬間移動の方へ向けさせるための罠!本命は2回目の瞬間移動による不意打ちだ!

すると「為虎添翼」が私の上を通過し、火如電に再びタックルして地面に擦りつける。私も走っている「為虎添翼」の頭の上に乗った。

――そうだ。例え発彦のように新しい力などなくても、私は私で()()()()()()()()できる限りの応用をすればいいんだ。皮肉にも、それを教えてくれたのは火如電(こいつ)だ。

ならば、お礼をしなければならない。


「だぁああ!!畜生がぁあああ!!」


「為虎添翼」に突進され地面と擦りつけられている奴は、何とか体勢を立て直そうとするも虎の突進力は凄まじくとてもじゃないが立ち上がれなかった。

そしてその口で噛まれ上の方へ放り投げられる。そのタイミングで私も頭から跳び、空中で奴に一太刀入れようとした。


「このっ……また防いでやるよ!!」


たが宙でも棍棒を横にし私の刀を受け止めようとする。そこで「一刀両断」を久しぶりに使い、残った全ての力を刀に込めた。

そして力強く振り下ろし、棍棒と衝突させた。


「一刀両断ッ!!!」


すると文字通りその棍棒は一刀両断され、それを持っていた火如電も縦に斬り裂かれる。


「馬鹿なっ!?この棍棒が斬られるなんて……!!」


「お前も……その棍棒に頼りすぎたな!」


まさか自分の武器が切断されるとは思っていなかったのか、奇声を上げながら体を崩壊させていき、人間に戻ってから地面に落ちていった。

対する私は虎の肩に着地し、滑るように地面に降りた後、倒れている火如電の方を見る。


「うぅ……ごめんさいごめんさい、僕みたいな根暗が生意気なことしてごめんさい」


その性格も初対面の時と同じように戻っており、先ほどから見せていた威勢のよさは影も形も無くなっていた。

おっと、早く拘束して連れていかなければまた狙撃されてしまうかもしれない。そう言って急いで奴の元へ駆け寄ると……


「ッ!?」


ズサッ!という音と共に何かが前方に落ちてきてその行く手を邪魔してくる。

それは()――しかも明らかに普段見慣れているサイズの物じゃなく、さっきまであいつが使っていた棍棒と同じ長さと太さだった。

巨大な針――それを見て誰の仕業かすぐに分かった。あの日からどこにいるか探し続けていたあいつが……!


「まさか……!!」


目を凝らしてよく見てみると、倒れている火如電の近くに小人のような者が立っていた。しかしそのサイズは見る見る内に大きくなっていき、いつしか人間サイズに巨大化していく。

白い仮面をつけ、裁縫の針山のようなものを腰回りに身に付けた針を使う特異怪字……私たちが最初に見た特異怪字……!

合宿の時に現れ、虎徹さんと鷹目さんのパネルを奪っていったあいつが、再び私の前に現れた。

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