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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第七章:為虎添翼
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94話

私たちはその後バスに乗りその海岸へと向かう。どうやら夏の時期には海水浴に来ている人で溢れかえるらしい。

到着すると波の音がザザァーンと聞こえ始め、潮の香りも風と共に吹いてくる。遠くには海の家らしき建物もあった。


「いや~海に行くんだったら水着持ってくればよかったね」


「……今11月だぞ」


流石にこんな時期に海で泳ごうとする人はこいつ以外いるはずもなく、周りを見渡しても人っ子一人いない。

靴裏から砂の感触を踏みしめ、果てまで続く水平線を一望する。砂浜には誰が作ったのか砂の城が立っていた。

まぁ今が7月8月だったら純桜の言葉も分からなくもない、暑い中こんなに広大な海で泳げたらどんなに気持ちいいか。

もう11月になると寒くなってくるので、暑い暑いと鬱陶しがっていた夏もかわいく思えてくる。思えば今年の夏は合宿修行で孤島に行ったが泳いでいなかったなぁと過去を振り返る。


あの時はまだ普通の怪字の存在しか知らず、特異怪字は知性を持った怪字だと思っていた時期だ。今となっては特異怪字の正体、その変身方法、奴らの名前などこの数か月であっという間に色んなことを知った。

こうして海を眺めていると、その大きさのように敵組織の巨大さが実感させられる。


怪字の呪いの力を抑制する装置、人の手で作ったパネルの怪字兵、そして特異怪字変身への方法、呪物研究協会というぐらいだから人数はいることは分かっているがどれも少人数では作れないだろう物ばかり。

奴らがどのようにして作られた組織か、また何のためにパネルを集めて研究しているのかは分からない。しかしこのまま放っておけばきっと多くの犠牲者を出すに違いない。

それだけは阻止しなければ。私はこの海に誓うようにそう心の中で宣言した。

すると服の中で、何か違和感を感じとる。その正体を察した後、彼女と再び分断することを提案。


「私はあっちの方見てくるからさ、お前はそっちを頼む」


「オッケ~」


そう言って別々の方向に分かれた後、私は隠れるように岩陰の後ろにコソコソと入り、その岩から顔を出して周囲に人がいないか確認する。

そうしてその違和感の正体を懐から出す。「為虎添翼」のパネルがまるで携帯のバイブレーションのように震えているのだ。それを感じた時本当に携帯が震えていると勘違いしそうになったぐらいだ。


「……やはりここに来て正解だったようだな」


この海岸はこいつとその前の使用者である虎狩添三郎が良く遊びに来ていたと言われている所、そんな場所に連れていけば「為虎添翼」も喜ぶんじゃないかと思った次第だ。

もう一回私は周囲を確認、誰もいないことを確認した後そのパネルを力強く握って叫んだ。


「為虎添翼!!!」


しかしそう名前を呼んでもただ砂浜に響くだけ、見たことは無いが「画竜点睛」のように現れたりなんかはしなかった。


「……駄目か」


そう上手くいくはずも無く、今回も式神を呼び出せない。

一体何が駄目なのか、ただ喜ばすだけじゃ駄目なのか?次は一体どうすれば良いのかと考えに考える。

ここは冷静になって、一方的でもいいから会話をしよう。そう思った私はパネルを砂の上に置いて自分も座った。


「……私は、怪字に兄を殺された」


そこから始まる自分語り、同情させて力を貸してもらおうとは思っていない。だが自分の想いを一度教えようと思って話し始める。


「知り合いだって操られた挙句幼馴染を殺めてしまい……恋人を殺された奴もいる。しかもそんな怪字とパネルを悪用する輩までいるんだ」


そして私は両手を地面に付け深々と頭を下げて懇願の意の土下座をパネル相手にした。


「頼む!これ以上奴らの好きにはさせたくないんだ。私は全ての怪字を倒す。そして呪物研究協会エイムも倒す。その為にはお前の力が必要なんだ!」


たかがパネル相手にと思う人もいるだろう。確かに今自分が頭を下げている相手はただの無機物かもしれない、だが私は目の前の「為虎添翼」を共に戦ってくれる式神として認識、そしてお願いをするかのように土下座をした。

私はそうまでしても怪字と協会を倒したかったのだ。

しかしそれでも「為虎添翼」はただ震えているだけでそれ以外の反応を示してこない。流石に頭を下げただけじゃ駄目か……


「何してんのトーマ君」


「のわぁ純桜!?」


するといつの間にか純桜がこっちの方へ来ており土下座しているところを目撃されてしまった。

やばい――急いで下に置いていた「為虎添翼」を回収、懐に隠して何事も無かったかのように立ち上がる。


「ど、どうだったそっちの方は……」


「いや……トーマ君のそれ何?」


しかしすぐに隠しても見られてしまった。まぁ木の板みたいな物に土下座して懇願している人の姿なんか見たら誰だって怪しく思うか。問題はどうやって今さっきの状況を誤魔化すかだった。


「いやあの……これはだな……」


「……()()()()()()()()()よ」


「……え?」


彼女が言ったその言葉、もう隠さなくていい?一体どういう意味だ?これだとまるで純桜はパネルのことを知っているような口振りではないか。


「……私見たんだ、夏休みに入る前……トーマ君が刀みたいのを握って変な怪物と戦っているところ」


「……!」


夏休みに入る前、ということは「神出鬼没」の怪字の時か!

まさか人に目撃されていたとは思ってもいなかった。あの時傍から彼女にでも見られてしまったのだろう。完全に自分の落ち度だ。


「見ていたのか……誰かに話したりしたか?」


「……ううん、多分トーマ君も知られたくないことだろうし……」


その通り、よっぽどのことじゃないかぎり怪字の存在は人に話してはいけない。だから私はクラスメートや近所の皆様を巻き込まないよう必死にこのことを隠し通していた。

しかし、まさか彼女に見られてしまったとは……何故誰にも話していないのか、普通なら警察や親しい人に話すことだろうに。


「……私実は去年転校してきたの。英姿町は……怪物が出るって噂だったから気になって」


「ああ……」


英姿町の怪字出現率増加、そのせいでオカルト好きな人があの町に来ているとは聞いたことがあるが純桜もその1人だというわけらしい。それにしても気になったからという理由だけで転校してくるなんて、その時点で行動力があることが分かる。


「だから夜中遅くに出歩いたり散歩して見たり……だけど怪物は見つからなかった。そんな時にトーマ君とあの怪物が戦っている姿を見たの」


すると純桜はこっちに向き合い顔を近づてくる。急なことについ後退してしまうがその分彼女が詰め寄ってくる。


「だから教えて。あの怪物のこと、そして君のことも」


「……」


さてどうしようか、本来ならここで適当に誤魔化して話を終わらせるが、現場を見られたため誤魔化しようがない。

私は彼女の要求に対し沈黙でしか答えられない。下手に本当のことを話せば彼女はより興味を持ちもしかしたら私たちが戦っている場面を見ようとしてくるかもしれない。そうなったら話さなかった場合より危険だ。

かといってもう誤魔化せない、見られたのが怪字だけならまだ夢幻で片付けられるが私の姿まで見られていると駄目だ。


「……もしかして、今回付き合ってくれたのもそれが理由か?」


「いや、翼の虎さんが気になったのは本当。でも偶然さっきの見ちゃって……それで思い切って聞いてみようかなって……多分その木の板みたいのが関係してるんでしょ?」


流石の推理力だ。もうパネルと怪字の関連性に気づけかけている。

仕方ない、少し不安だったが無理に騙し通すと意地でも調べようとしてくるかもしれない。ここは興味を必要以上に湧かせないためにエイムや特異怪字のことは伏せておこう。

そして私は話した。大昔に日本に持ち込まれた呪いのパネル、それらが人間の心の中に寄生し条件が揃うと怪字という四字熟語の怪物になって人間を襲うこと、私たちがそれをパネルの力で倒していることを全て。

彼女は最初こそ驚いていたが徐々に興味津々と再び目を輝かせて頷きながら私の話を聞いていく。

流石に兄が殺されたことも伏せた。怪字の危険性を教えるには丁度いいかと思ったが何かと暗い話になってしまう。


「……そうなんだ、ありがとね!今まで秘密にしてきたことを教えてくれて!」


「分かってるとは思うが他言無用でな」


「任せて、私口は堅いから~」


すると元ののんびりとした喋り方に戻ってのほほんとした表情に再びなる。とてもじゃないが口が堅い人には見えない表情だ。冷や汗をかいて少々不安になる。


「じゃあさっきのパネルも何か関係あるの?」


「ああ、実はな……」


「……僕もそのことについて聞きたいんですけど」


「「……え?」」


すると今回の遠出の目的を彼女に話そうとしたその時、突如後ろから聞きなれない男性の声が耳に入る。後ろ振り返ればその声の主である人がいた。あまりにも突然だったので驚きもせずただ急に現れたその人を見る。

前髪が長く印象も薄暗い、身長は私ぐらいで結構高かった。服装もヨレヨレの物を来ており華やかさなんか存在しない人だ。目蓋が閉じかけているその目は長い髪によって更に見えづらくなっている。


「あの……急になんですか?どちら様でしょうか?」


「ああごめなさい……急に話しかけてくるなんて非常識ですよね。僕ったら普段控えめなのにこんな時に限って行動力があって……そのくせ上手くいかないんです」


「あ、あの……?」


見た目もそうだが何だか性格も暗くて、向こうが年上の筈なのに同情してしまいそうなほど気弱い素振りだった。

しかし同情なんかという気持ちは、次のそいつの言葉で無くなった。


「でも言われたんです……『為虎添翼』を奪ってこいって。触渡発彦の方が式神を呼び出せちゃったんで、もう片方も早めに始末しろとも……」


「……純桜、少し離れてろ」


「え……ちょっとトーマ君!?」


その言葉を聞いた瞬間、私は無言で「伝家宝刀」を形成し一気に抜いて峰打ちを当てようとした。しかしそいつはどこから取り出したのか銀色の()()を取り出しそれで受け止める。

衝突した瞬間、ガキンという鋭い音と共に火花が散り、痺れが刀身から手まで伝わってきた。


(くっ……刀で斬れない……!?)


「ごめんさいごめんさい……僕も仕事なんで君を殺さないといけないんです……それが先生の頼みなんです」


こちらに下手で出ている態度を見せつつも男は棍棒を大きく動かし「伝家宝刀」を払いのけ、そのまま胴体を突こうとしてきた。

こっちもそれを刀で受け止め、そのまま後ろに引き下がる。奴も同じように後退し間に距離を作った。


「茨木にまで来やがって……その棍棒が四字熟語か?」


「伝家宝刀」で斬れないとなるとただの棍棒じゃない。おそらくこっちと同じように呪いのパネルの四字熟語でできた武器かと思われる。


()()()()()、僕の四字熟語は今から使うんです」


すると男は片手で棍棒を地面に付け、もう片方の手で懐から装置が付けられた4枚のパネルを取り出した。

やはり特異怪字に変身するのか……それでできる四字熟語は「()()()()」。


「させるかっ!」


特異怪字に変身する前に仕留めようと、私は走り出し持っているパネルを刀で弾こうとするが奴は棍棒を自在に振るい私の一太刀を受け止める。

そしてそのまま棒高跳のように棍棒で体を支えて後ろに高く跳び、私の刀が届く範囲から離れた。

地面に着地した後片手で棍棒を回し始め上に投げ飛ばし、棍棒が宙を飛んでいる間に男はパネルを体に入れこむ。


「純桜……この際だから安全な距離から見ておけ。これが私たちの戦いだ!」


見る見るうちに男の体が延長されていき、怪物の姿に変貌する。

今までの筋肉質な怪字とは違い、今度の奴は無駄な肉が無いスリムな体型になっていた。体中に生えている黄色の毛が逆立っており、まるで針鼠のように鋭利な体毛によって包まれている。

特異怪字になった男は、先ほど投げた棍棒をキャッチしパフォーマンスのように上手く扱った後先端をこちらに向けて挑発してきた。


「ヘイヘイヘイ!!それじゃあ始めようぜ!!」


何故か性格も変わっており、さっきまでの気弱な男の姿は姿と共に変化している。さっきのが根暗だと例えるのなら今はハイテンションという言葉が似合っているだろう。

しかし例え性格が変わろうが関係ない、私は伝家宝刀を強く握りなおした。


電光石火……動きが非常に素早いという意味。または非常に短い時間の例え。稲妻や火打石から出る火花という意味でもある。

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