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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第六章:画竜点睛
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87話

とある中国の画家が皇帝に4匹の竜を描くように命じ、画家は3日足らずで4匹の竜を描きました。見に来た人々は本物のような竜の絵に感嘆の声を上げましたが、しかしその竜にはどれも瞳が描かれていなかったのです。

そこで「何故瞳を描かないか」と聞いたところ、画家は「竜に瞳を描いてしまうと絵から飛び出して飛んで行ってしまいます」と答えた。

その返答に皆は笑い、誰も信じません。そこで「試しに瞳を描いてみろ」と頼んだところ画家は4匹の内2匹の竜に目玉を描き足しました。

すると瞳が描かれた竜はたちまち絵から飛び出て空の彼方へと消えてしまいます。そこに残ったのは、目玉が描かれていない2匹の竜の絵だけでした。





そんな伝説の竜が今俺たちの目の前で君臨した。翼も無く宙を飛び、緑色に輝く鱗をちらつかせながら鼻息で雑草を散らす。生えてる2本の手には同島弟並みではないが立派な爪が生えていた。

自分で召喚しておきながら、まさか本当に竜の式神が現れるとは思ってもいなかったので少し動けずにいた。


「凄い……これが『画竜点睛』……!」


比野さんは遠くからその竜を口を開けた状態で傍観している。その大きさは想像以上のものでまさしく天に昇る竜であった。

堂島兄弟も突然現れた「画竜点睛」に驚きを隠せないのか、さっきまでの勢いを無くしこちらを警戒して距離を取っている。まぁいきなり竜が現れたら誰でもそうなるか。

問題はこいつがちゃんと俺の言うことを聞いてくれるかどうかだった。比野さんが「比翼連理」の式神にしたように、母性や優しさなど見せた覚えはない。召喚したからといって別に言うことを聞いてくれるとは限らなかった。

しかし竜は俺の顔を見ると、ゆっくりと頷く。


「……力を貸してくれるのか?」


そう言うと再びコクリ、どうやらこちらの言葉は分かるらしい。頷いた後再び同島兄弟の方を睨みつけた。

とにかく今は、こいつらを何とかしなければ。


「……よし、あいつらをやっつけてくれ!」


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


俺が向こうを指してそう命ずると。「画竜点睛」は雄たけびを上げながらとぐろを巻いていた長い体を真っ直ぐにし、言う通りに同島兄弟の方へ突っ込んでいった。


「なぁ!?」


その太い両腕で2人を掴み、そのまま木々をなぎ倒しながら山の中を突き進んでいく。

いけない、俺も追わないと。「疾風迅雷」を使い、竜が通ってできた道を進んだ。

どんなに太い木が前方に生えていようがお構いなし、竜は両手で握った同島兄弟を押し付けて何度も木をへし折っていく。


「このっ……図に乗るなよ蛇がぁ!!」


ここで同島弟が爪を竜に何度も突き立てるが鱗によって守られており、ただ虚しく火花が散るだけだった。

同じように兄の方も黒い手を無理やり伸ばし鞭として何度もぶつけるがその勢いが止まる姿勢は見られない。寧ろ攻撃する度に竜が激情して益々スピードが速くなっていた。


「竜!そいつらを俺の方に投げてくれ!」


ここで俺が「疾風迅雷」で竜に追いつき前へ出る。すると「画竜点睛」は命じられた通りに俺の方へ2匹を放り投げてきた。

俺はそんな投げられた同島兄弟を拳で地面に叩き落とす。地面に激突した奴らを、追撃として竜がそいつらごと自分の頭を地面に突き刺した。

そこから大きなヒビが割れ、激突された2匹もその勢いで別の方向へ吹っ飛ばされてしまう。


「なんつーパワーだ……」


流石竜、その力と速さは尋常じゃないものであんなに苦戦していた同島兄弟をこうも簡単に追い詰めていた。


「くっ……一回空に行くぞ影裏!」


「ああ兄貴!」


そう言って同島兄は黒い手で翼を形成、弟は元からある4枚の翼で両者とも空を飛んで上へと避難していく。

それを見ていた竜は俺の方を向いて頭を下げてきた。


「……もしかして乗れって言ってる?」


そう言うと竜は頷かないがジッとこちらの方に視線を向けている。「早く乗れ」という目だ。

まさか本物の竜に乗ることなるとは……人生何があるか分からないな。

少し不安に思いながら痛くないようその頭に足を乗せ、左右に2本ずつ生えている角を恐る恐る掴んだ。

すると竜は一気に上昇、ほぼ地面と垂直の状態で飛んで行った2匹を追う。


「のぉおおおおおおおおおお!!??」


まるで戦闘機の中ではない本当に上に乗っているような気分、突風レベルの向かい風に顔全体を広げられながらも必死に振り落とされないよう角を掴み続けた。

あっという間に山を超え、夜の空へと到達する。周りに民家が無いため空には綺麗な星空が広がっていた。

しかし見とれている暇は無い。今は同島兄弟の方を見なければ。


「げっ!追ってきたよ兄貴!!」


「落ち着け、迎え撃つ為にここまで飛んだんだろうが」


どうやら奴らは空中戦で自分たちを仕留めようとしているらしい。確かに今さっき竜に乗ったばかりの俺と比べて「表裏一体」を使いこなしている奴らの方が空では有利のはず。つまり、ここでは完全にこの竜に任せるしかなかった。


「叩き落としてやるよ。空中じゃ俺たちの方が一枚上手だ!」


「行くぜ兄貴ぃ!!」


同島兄弟は翼を大いに広げ兄の方が先行してこちらへ飛んで来た。

周りに足場も何もない空中、こんな戦いは今までしたことが無い。

じゃあ何に頼れば良いのか?それは今自分を乗せている「画竜点睛」のみ。


「……頼むぞ!」


『グオオオオオオッ!!』


そう言って頭を撫でると応えるかのように遠吠えを上げ、奴らへ向かって体を伸ばして飛んで行く。

お互いに向かって飛んで行く最中、通り過ぎると共に同島兄が黒い手を縦横無尽に広げて俺を竜の上から落とそうとしてきた。


「はっ!」


そこで俺は思い切って竜の上でジャンプ、奴が作った網を跳び越えてちゃんと鱗の上に着地する。落ちたらどうしようと思ったが恐れている暇は無い。

そして今度は弟の方が両腕を広げてこっちに向かってきた。


「おらぁ!!」


「ぐっ!」


切りかかってきた爪をグローブで受け止めそのまま横に払って退かす。形的には竜と兄弟が交差してぶつかり合ったようになるはずだ。

すると同島兄は目からビームを発射、竜の腹に直撃させた。


『グォオオガアア!!??』


流石に鱗で守られていてもビームの威力には耐えられないのか大きく姿勢を崩し、俺も今ので落ちそうになったが何とか耐えた。

今の一撃で怒ったのか、何と竜は奴らに向かって火球を吐いて放つ。

当たりはしなかったが吐き続けて執拗に兄弟を狙っていた。


「火吐けるのかお前……」


すると竜は火球を放ち続けながら奴らに接近、2匹はそれから逃げるように上へ飛び始める。

竜もそれを追い上昇、ビームと火球が交差し合う。やがて1発が同島弟に後ろから命中した。


「あっつぁ!?」


「影裏!」


背中を撃たれたことにより墜落し始める弟を竜は長い尻尾で叩き飛ばす。地面に落ちそうになるも4枚の翼で何とか体勢を立て直していた。


「このっ……よくもやりやがったなぁ!!」


激情した弟は怒りの表情で竜へと突撃、回転しながら突進することでスクリュー攻撃となり、凄まじい勢いでこちらへ飛んでくる。

竜もそいつに向かって何度も火球を放つがその回転力に掻き消されてしまう。


『グアガァ!!!』


そこで竜は両手で受け止めようと手を伸ばし、向かってくるスクリュー攻撃を握りしめるように掴んだ。

だがそれでもその回転と突進は止まることを知らず、そのまま両手から離れ竜の顎に直撃、大きく蹌踉めいた。


「どわぁ!?大丈夫かおい!?」


切れてはいないが今のは結構効いただろう、あのスクリュー攻撃を受けても傷1つ付いてないのは流石の防御力だが痛みは無いというわけではない。


「はっはぁ!ざまぁねぇな!!」


すると竜が突然震え始める。今の一撃でどこかを痛めたのか?そう心配すると、その眼が赤色に光っているのが見えた。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』


そして今までの鳴き声とは比べ物にならない程大きくそして低い遠吠えを上げ、スピードも加速しきった状態で同島弟の方へ向かっていく。


「うげぼぉ!?」


そのまま尻尾で何度も奴を叩きまくり、挙句の果てには口で挟み何度も噛んで牙を食い込ませていく。


「影裏!?ぐわぁ!?」


当然弟に牙が刺さった傷ができるということは同島兄の方にも同じ傷ができ、兄弟そろってこいつの鋭い牙を味わうことになった。


「ちょ……どうしたんだお前!?」


しかしさっきまでとは様子が違いすぎる。あまりに勢いが強すぎてこっちが落とされそうなぐらいだ。激怒してるのは分かっているが攻撃を受けただけで何をそんなに怒っているのだろう?

さっきの出来事を振り返ってみよう、同島弟のスクリュー攻撃が竜の顎に命中。このシーンを何度も脳内で再生してみる。


「……もしかして()()か?」


そう、竜の顎の下にあるといわれる1枚だけ逆さに生えると言われる鱗、これを触られることは竜にとって非常に嫌なことで、もし触れば激怒すると聞いたことがある。現に「逆鱗に触れる」という言葉まであるぐらいだ。

しかもさっきは触れるというより攻撃だ、だとしたらまぁそんなに怒るのも分かる。


「弟を放してもらおうか!」


すると同島兄は弟を救うべく黒い手を大量に出して一斉にそれらを伸ばしてきた。正気を取り戻した竜は噛んでいた弟を放り投げその黒い手から逃げる。

全ての手が自動追尾のように俺たちを追い、すると向こう側からも多くの手が迫ってきた。


「上昇して回避!そのまま奴に突撃だ!」


そこで俺がそう命じると竜は言われた通りに回避、前後から襲ってくる黒い手に対し上へと逃げ、その方向にいる同島兄へと火球を放ちながら飛んで行く。

兄は黒い手を瞬時に自分の所まで縮め、撃たれた火球をそれで弾き返した。そして突進してこようとする竜を止めようと一気に手を伸ばしたが……


「どぉおらぁあああああ!!」


「ぐわぁ!?」


そこで俺が奴に跳びかかって重いパンチを食らわせた。竜が突撃してきたらその竜しか注目しないと思い、俺が予想外の不意打ちとして跳んだのだ。

そしてジャンプした自分を落ちる前に竜が回収、真っ逆さまに落ちる前に拾ってくれて助かった。

すると兄弟が並んでこちらと対峙する。やはりダメージと傷を共有しているからか2匹とも既にボロボロになっていた。


「トドメだ!また回収頼む!!」


そう言って俺は「画竜点睛」と共に上昇、そして奴らの真上から勇気を出して飛び降りる。

このまま「一触即発」を使って待機状態で落ちて奴らに触れ、2匹もろとも粉砕するつもりだった。しかし……


「そう何度も同じ攻撃は受けん!」


「頼むぜ兄貴!」


同島兄は黒い手で回りを囲み弟と自分を黒い繭で覆う。確かにあの繭はプロンプトスマッシュも耐えるほどの防御力がある。つまりこのまま落ちても無意味だということだ。

ならば、こっちにも考えがある。パワーが足りないのなら威力を足せばいいのだ。


「竜!()()()()()()火球を撃ってくれ!!」


それを聞いた「画竜点睛」は驚くような素振りを見せるも俺の意図を理解したのか特大の火球を俺目掛けて放つ。

そう、俺が考えているのは火球を受けてその衝撃で加速しスマッシュの威力を高めることだった。

しかしいくら俺でも火球を受けてただじゃすまないだろう。しかしそれは……


「はぁあ!!」


今回手に入れたグローブで受ければいいのだ。

耐火性にも優れているグローブを付けた両手でその火球を真正面から受け、炸裂した時の勢いで俺の降下は更にスピードを増す。

そして上の方を向いていた体を逆にし黒い繭の方を見て、ようやくここで「一触即発」を使用。


「一触即発、プロンプト……」


研究所の皆さんが作ってくれたグローブ、そして新たに手に入れた「画竜点睛」、それらを合わせたからこそできるこの技を、思い切り奴らにぶつけてやる!

そうして爆風に乗ったまま待機状態になった俺は、その黒い繭にぶつかった瞬間、凄まじい一撃を遠慮なくぶつけた!


()()()()スマッーーシュッ!!!!」


竜の協力で更に威力が上がった「プロンプトゲキリンスマッシュ」、2匹を覆っていた黒い手は割れるように粉砕、そしてその威力は中の同島兄弟にまで浸透していった。


「ぐわぁあああああああああ!!!!」


「畜生っーーー!!」


結果全身にヒビが入った状態で墜落、地面に激突しそのせいで更にダメージが入り、2匹同時に特異怪字の体が粉砕された。人間としての姿の2人が倒れる。


「よし!倒せた……って落ちるううううう!!!」


倒した達成感に浸る前に今は落ち続けているこの状態をどうにかしなければ。手をバタバタさせ無駄な抵抗を繰り返すもそんなので降下の勢いが無くなれば苦労はしてない。

絶体絶命のピンチだと思ったその時、竜が落ちる俺を回収し再び頭の上に乗せてくれた。


「はぁ……はぁ……助かった。サンキュー」


『グルルルルル……』


そう言って竜はゆっくりと地面に近づいて降りていく。俺はこいつの頭の上で仰向けになり、息を荒げながらも倒したという実感を湧かせていた。

そう言えば戦闘中は気にならなかったが、本当に星空がきれいだな。田舎だからこその景色だ。

そう、夜空を見上げながら地上に戻っていく。

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