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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第六章:画竜点睛
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86話

一方私と刑事はまだ万丈炎焔と戦っていた。奴の炎を斬って撃って何とか突破しようとしていた。既に奴が出現させた怪字兵もすべて片付いている。


「だりゃあ!!」


私は伝家宝刀で斬りかかり続けるがその刀身が奴を捉えた時は数える程しか無く、斬れるものといったら奴が放射し続けている火の粉と熱波くらいだった。


「どうしたどうした!そんなんじゃいつまで経っても()()()()()()ぞ!!」


万丈炎焔の挑発と更に盛り上げるが如くその猛火もどんどん強まっていき、放出され続ける火炎はどんどん上っていって火柱を立てている。

時間が経てば経つほど火の勢いが増している。私たちを囲っている火の土俵も同じようになっており最早斬っただけで突破できるレベルじゃなかった。


「熱いねぇ!最高だねぇ!こんなに盛り上がると自分ごと燃え尽きそうになるねぇ!!」


「さっきから煩いぞ!」


そして盛り上がるのは炎だけではなく万丈炎焔のテンションもまさしく火に油を注いだような勢いで上がっている。そろそろ冷えてくるこの季節、まさかこんな時期にダラダラと汗をかくとは思わなかった。

すると奴は機関車の煙突のように腕から複数の火柱を噴き出し、燃え上がりながらこちらに突撃してくる。


「くっ……仕方ないな!」


このまま戦いを長引かせたらますます奴は炎と勢いを上げてくるだろう、そうなる前に決着をつけなければ。

さっきまでは奴が発する火炎に恐れて頭で思っている程足を踏み出していなかった。だから今回は、恐怖を克服しこのタックルを真正面から……


「受けるかっ!!」


私は「神出鬼没」で万丈炎焔のすぐ後ろに瞬間移動、背後から首を落としてやろうと刀を走らせた。

しかし目の前から私が消えたことにより後ろからの不意打ちを見破ったのか、私が首を斬る前に奴が振り返り熱風を浴びせてきた。


「ぐあぁ!!」


その突風と温度に吹っ飛ばされるが、奴の前方から十手を握りしめた刑事が突撃する。

そしてその腹を思い切り殴打した。


「ぐっ……お前らも盛り上がってきたなぁ!?」


それを受けて後ずさった奴は、猛火に包まれている両手を高く上げゆっくりと息を吸っていく。

次の瞬間、爆発するかのように全身から炎を噴射、それに伴い四方八方に熱風が行きわたった。


「あっちゃあ!?」


私も刑事もその炎に圧倒され奴に近づくことができない。するとその炎はどんどん広がっていき、私たちを炎の壁へとだんだん追い詰めていく。


「どうする!?このまま行くと蒸し焼きだぞ刑事!」


「このっ!」


そう言って刑事は半場がむしゃらになりもう完全に炎に包まれた万丈炎焔へと何発も発砲するがその弾丸は奴に到達するまでに空中で溶けてしまって無駄に終わる。

こうしている間にも火はさらに広がっていき、土俵際と目と鼻の先と言ってもいい程大きくなっていた。

ジリジリと追い詰められ、前も後ろも大火事状態。万丈炎焔(火の出どころ)を倒そうにも近寄れないし弾丸も当たらない。後ろの壁は跳び越えられない程大きく燃え盛っているときたら、もう四面楚歌だ。


いや、1つだけ方法があった――!


しかしこんなピンチの状態だからこそ、脳は生き延びる方法を必死になって模索する。結果1つだけの案が思い浮かんで来た。


「刑事……今から私が言う案を聞いてくれ」


「……何だ一体?」


そう言って奴に聞かれないよう隣の刑事に耳打ちをする。最初こそ声も出さずに驚いたがしばらくすると唸った表情で考えるような仕草をした。


「……確かにこの状態を脱するのに良い方法だな。しかし俺は、1()()()()()()()()そんな真似を見す見すお前にさせるわけにはいかない。文字通りの飛び込み自殺だろう」


「お前相手にあまりこんなことは言いたくないが……私を信じろ。私や発彦、いつだって命迫る状況を打破してきた。今回もきっと上手くいく」


「……だがなぁ」


これだけ言っても刑事はその案を複雑そうな顔で言葉を濁していた。普段はドジのくせに刑事としての誇りと考えはどんな時でも変えないこいつの意志は一応認めている。……あくまで一応だが。

なのでこの案に乗らないことはある程度予想はついていた。


「私たちを、パネル使いとして認めてくれたんだろ?」


「それは……そうだが……」


「なら()()()()()()()()()()()()()()()()()協力を申し込みたい。だからお前も、|使()()()()()()()()力を貸してくれ」


こいつに手助けを求めるのは少し気に入らないがそんなことを四の五の言っている場合ではない。刑事のこいつも、パネル使いの私も、目の前の特異怪字を倒して皆の平和を守る義務があるのだ。

それだけが、刑事との共通点だ。


「……分かった。援護は任せろ、この頼れる大人にな」


「ふん、どの口が言うか」


そうしてこいつと頷きあうと、その為の準備を始める。もう燃え盛る炎をすぐ目の前にまで迫ってきてた。ゆっくりはできない。

しかし私は慌てない、目を瞑り刀を鞘に収める。そして一回だけ深呼吸をして、次の瞬間思い切り刀を抜いて目の前に斬撃を放った。


「はぁ!!」


「紫電一閃」程ではないが強烈な斬撃が走り、真っ直ぐ万丈炎焔へと飛んで行く。しかしその斬撃もその目前で熱風と炎に掻き消されてしまった。

だが、真の目的は違う。


「そんななまっちょろい斬撃で俺の炎が斬れるか――って!」


「うおおおおおおおお!!!」


万丈炎焔は驚いただろう、何故ならさっきまで自分が外まで追い詰めていた私が目の前にいるのだから。

何故猛火の中を進めたのか、その理由は簡単。

まずはさっきの斬撃を放つことによって、ほぼ一瞬だが万丈炎焔への道を作る。そしてその道を「猪突猛進」の力を使って凄まじい速さと突進力で突き進んだのだ。

しかも――再び刀を納めて……


「猪突……!!」


「居合切りか……!」


どうやら奴は次の私の手を読めたのか、私が刀を抜く前に拳で殴ろうとしてくるも……


「ぐぁあ!?狙撃……!?」


それを外から見ていた刑事が浄化弾で狙撃、破裂までとはいかなかったが奴の左手に大きな風穴が空き撃たれた衝撃で大きく蹌踉めいた。

今だ――そう思って「猪突猛進」の勢いに乗り思い切り刀を抜く。


「――居合切りっ!!!」


通り過ぎると同時に奴の体に「伝家宝刀」を通す。斜めにかけて切り傷が走るようにでき、その瞬間周りを燃やし尽くそうと延々と勢いを増していた炎も一瞬で消滅。

致命傷にはならなかっただろう。しかし初めてこいつに大きな傷をつけられた。未だに無くならない「猪突猛進」の勢いで来る向かい風を浴びながら、私は達成感に溺れかける。


「やってくれたなぁ!!」


しかし奴の声によって正気を取り戻す。まだだ、まだ倒したわけじゃない。

止まらない「猪突猛進」の突進を、両足で地面踏み更に刀を地面に突き刺すことによってブレーキをかける。このまま行けば炎の壁の中を通過して火だるまになっていた。

そうやって再び万丈炎焔の顔色を伺う。てっきり胴体を大きく斬ったから尋常じゃない程怒っていると思われたが全然そんな様子は見られず寧ろさっきよりテンションが盛り上がっているようにも見えた。さっきの声だって怒号ではなく単なる歓声だ。


「おらぁ!!」


すると興奮しまくっている万丈炎焔は両手で大量の火球を生成、そのまま立て続けにこちらへ投げつけてきた。

斬り落とし躱し、どんどん数を増やして迫ってくる火球に対応しながら炎の壁を沿うように私は移動し続ける。奴もそれに合わせて投げる方向を変えていった。

しかしそれは誘導、後ろから刑事が十手で頭を殴りつけようとする。しかし振り向きざまに熱風を起こされ吹っ飛ばされてしまう。


「あちち……このっ!」


至近距離で浴びたらどこか火傷を負うのが必然だろうが、刑事は決して倒れず着地と同時に拳銃を構え連射、その内の多くが炎によって溶かされるがそれ以外の数発は肩や脇腹の数か所に命中、銃痕をどんどん付けていく。


「拳銃銃弾銃痕!!!ぎひゃひゃひゃひゃひゃあ!!!」


しかしそれでも奴の勢いは止まらずそれどころかダメージを受けるたびにどんどん興奮していっている。痛みに快楽を感じている所謂マゾ――ではない、あれはもっと別のことで盛り上がっていた。


「ちっ……気味が悪い!!」


見るに堪えない奴の姿、抱いていた嫌悪感も増加していく。

思えば早めに終わらせると言ったが大分長引いてしまっている、ここいらでトドメと行こう。


「刑事!私に合わせろ!」


「お前が俺に合わせんだ!協力求めたのはそっちだろうが!」


減らず口を言いながらも私の横に並走し、それぞれの武器を構える。私は刀、こいつは十手、そのまま同時に奴の体へと当てた!


「おらぁあああ!!」


しかし万丈炎焔はそれに対抗し特大の猛火で右手を包み私たちの武器と衝突させる。瞬間その間で大爆発が起き、その爆風で私も刑事も万丈炎焔も吹っ飛ばされた。


「のわぁあああ!!」


地面を転がりすぐに起き上がる。

糞ッ!決着を付けれなかった!


「いいぞいいぞ!放火の時は感じられなかったこのアゲアゲ!ただ家を燃やすだけじゃ味わえないこのドキドキ!殺されるかもしれないハラハラ!こんなに興奮するのは初めて人の家を燃やした時以来だぁ!!」


恐ろしいことにまだあいつは興奮しておりそれに伴い炎も盛り上がっていく。最早獣ではなく異常者、目の前にいるこいつが私たちと同じ人ですら思えなくなってきた。


「やっぱり『気炎万丈(こいつ)』を貰って良かったぁー!()()()について正解だったぜー!!」


「……アンタ?」


やはりこいつに四字熟語を渡して特異怪字の力を与えた仲間がいる。しかも口振りからして組織内でも上位の存在とみえる。


「さぁ続けようぜ……どちらかが燃え尽きて灰になるまでなぁ!!」


そう言って再び炎を浴びてこちらに向かってきた。私たちも武器を構えなおしてそれを受け止めようとしたその時、突如携帯電話のように一定のリズムで音が鳴り響く。


「……んだよ良い時に」


すると万丈炎焔は怪字の姿を解き人間の姿に戻った。そしてそれと同時に囲んでいた炎の土俵も消えてなくなる。

思えば特異怪字になった人間が元の姿に戻るところは始めて見た。普通の怪字が死ぬときと似たようなものだな。

奴は懐から見たことのない形状をした機械を取り出し、それを耳に当てて誰かと通話を始める。


「もしもし?今忙しいんだけど」


折角の所を邪魔されてその声は不機嫌のように聞こえた。

何しろ人間の姿に戻った今がチャンスだ。そうやって捕らえようと向かったが「気炎万丈」を普通のパネルとして使って私たちと自分の間に炎の壁を作って邪魔してくる。


「……は?同島兄弟の方で緊急事態?予想だにもしなかったことが…………うんうん、作戦は中止と……」


すると通話は終わったのか機械をしまって納得がいかない顔でこちらを見てきた。


「あぁ~……折角いい感じになってきたのによぉ……撤退しろってさ。俺も一応人の下に就いているでね、悪く思わんでくれよ」


「……そのまま帰らせると思ったか?」


自然な素振りでこの場から立ち去ろうとしたが無論そんなことはさせない。特異怪字になって抵抗する前に捕縛しなければ。

しかし奴は火球で足元を爆破、爆炎で辺りを見えない状態にした。


「ゲホッゲホッ……この野郎!」


「本当にすまないねぇ!今の人命令破ると後からネチネチ言ってくるんだ!また会った時は、今度こそどちらか死ぬまで続けようぜぇ……!」


そして爆風が晴れた時には万丈炎焔の姿は見えなくなっていた。


「……逃げられたか」


「まぁ、これ以上続けられたらこっちの方がヤバかったな……」


戦いが終わり一息入れる。すると肌寒い風が全身を震え上がらせた。さっきまで猛火に当てられ続けたのでこの時期の風が一層冷たく感じられるのだ。

すると今度は、まるで獣のような叫び声が響くように遠くから聞こえる。


「……何だ一体?」


「おい、とりあえず今は行くぞ!」


しかし考えている暇は無い。窓も割れ焦げ跡も幾つか付いている我が家の車に再び乗り、前へと前進した。

発彦たちを助けに行った方がいいかと思ったが、もし自分たちが行けば分かれた意味が無いし、それにあいつなら大丈夫だろう。

未だに風が肌に突き刺さり、窓を閉めようにも穴が開いているので無理だ。


「……やはり貴様に運転を任せたのは間違いだったな」


「まだ言うか!!というかこのボロボロ状態は俺のせいじゃないだろ!!」


「貴様がもう少し上手く運転していればこんなことにはならなかったろうに!」


「んだとぉ!?」


さっきは仕方なく共闘したがこいつはどうしても好かん!その心を今一度心に刻み付け、奴の口論を始めた。その時にはもう、体の疲れなどすっかり忘れていた。

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