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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第六章:画竜点睛
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84話

一瞬の出来事だった。万丈炎焔の仲間である同島兄と堂島弟、奴らが「表裏一体」を使って2人とも特異怪字になったと思うと、天使の怪字に変身した兄の方が躊躇なくビームを撃ってきたのだった。

おかげで辺りは更地となり、火も周りの木に燃え移るといったあっという間に爆撃を受けた跡地のようになったしまう。

俺は奴の目が光った瞬間本能的に「金城鉄壁」を取り出し使用、城型の結界で比野さんと自分の身を守り抜いた。もう少し結界を張るのが遅かったら俺たちは今頃消し炭になっていただろう。

比野さんは結界の中で腰を抜かし、アワワと兄弟たちの方を見ている。相手は2匹、普通にこの人を守りながら戦うというのは難しいだろう。なので俺は結界内に彼女を置いて自分だけ外に出る。


「比野さんはそこでジッとしてください。グローブ、ありがたく使わせてもらいます」


こんなに接近されてしまうと無視して車まで走るなんてことはできない。よって今この場でこの2匹を倒さないといけないというわけだ。

グローブをはめ直し、単独で同島兄弟と対立する。前回は刀真先輩と共闘して何とか倒したが今は俺1人、それに加え相手は特異怪字と色々不利な点が多かった。


「今のを防いだか、明石の野郎を倒しただけはある。そう簡単にはいかないか……」


「兄貴、俺ぁ先に行かせてもらうぜ!」


そう言って悪魔の怪字に変身した弟が翼で空を飛びこちらに突っ込んでくる。そしてその長い爪で引っかいてくるもそれを拳で受け止める。切れない、グローブで守られた。


「どりゃあ!」


その後奴の顎を下から蹴り上げ、そのままその腕を掴み後ろに投げる。しかし地面に背中をつける前に奴は体を器用に曲げてすぐに起き上がり、またもや切りかかってくる。

それもグローブの手で受け止めた後その懐に潜り込んで腹に重い一撃を当てた。


「このっ……さっきもそうだったけど何で切ねぇんだよ!」


敵はこちらの情報を調査していたが当然ながらこのグローブのことは知られていない、それもそのはず、これは昨日手に入れたばっかりの物だからだ。

俺はその後顔にキックを当て肘打ちで奴の腹を叩き、「疾風怒濤」を使用する。


「ゲイルインパクトォ!!」


そして連続パンチを当てまくり、奴を無理矢理後退させた。手ごたえはあったものの倒すには程遠いだろう。

確かに普通の怪字と特異怪字は別物と言ってもいい程違う、しかしこの悪魔の怪字とは一度戦ったことがある。中に人がいようがいまいがその体は同じ、なので相手がどういう風に攻撃してくるのかは大体予想できる。寧ろ人の頭で考えられて動いているため普通のと比べて自己投影がしやすく動きが読みやすい。人間の時の性格も考えるとあまり考えて行動するタイプじゃない、動きも単調なものだった。

こいつは爪を主体とした接近型の怪字、そして不快な歌でこちらの耳を攻めてくる。


「糞がぁあ!!」


すると弟は逆上してこちらに突っ込んでくるが、天使の方の兄がその目の前に出てきて静止してきた。


「落ち着け兄弟、相手はノーマルとはいえこの四字熟語の怪字と戦った経験がある。こちらの手は全て知られているんだ。ここは連携して仕留めるぞ」


「……兄貴がそう言うなら分かったよ」


どうやら兄の方が考える役目らしい、俺にやられて興奮している弟を宥めてどう戦うか指示している。俺としてはあのまま弟1匹と戦っていたかったがそう上手く事は進んでくれない。

一番警戒していたのはこいつらが同時に襲い掛かってくること。いくら新しいグローブを手に入れたとしても2対1の不利は完全には補えないだろう。


「いいか?単独で挑んだら弱いかもしれない。だけど俺たち兄弟が力を合わせれば誰にも負けないコンビネーションを生むんだ」


「そうだったぜ兄貴、つい早とちりしちまった!」


「さぁ…………行くぞ!」


すると天使の方の怪字が仕掛けてきた。こいつの能力は体中から沢山の黒い手を出し、遠距離から一歩も動かず攻撃してくるのが特徴。兄は背中から千手観音のような数の手を出し、そのまま俺の方へ伸ばしてきた。

俺は横に走りながら避けているとそれを追うように黒い手も曲がり、木の後ろに隠れたりもしたが貫通して向かってきた。しばらくそれから逃げていると前の方からいつの間にか弟が斬りかかってくる。


「どわぁ!?」


横に払ってきた爪を後ろにバク転しながら回避する。しかし後ろからは腕のように何本も絡み合って太くなっていた黒い手が迫ってきておりそれに思い切り叩かれてしまう。

叩かれた俺は木に激突、背中に来た衝撃に顔をしかめていると前方からまた黒い手と爪が向かってきて、それを屈んで避けるとぶつかった木が一瞬で切断されて倒れた。

それでも奴らの猛攻は止まることを知らず、弟の怪字は真正面から俺と対決してきて兄の怪字は黒い手を高く伸ばし真上から落としてきた。目の前の弟だけに集中してると上から降り注いでくる黒い手が体に命中し、かといってそれに集中してると弟の方に斬られてしまう。


「八方美人!」


なので俺は「八方美人」を使用し上と前から来る攻撃を全て回避、そしてカウンターとして弟の顔を足裏で蹴った。そのまま顔を足場にして思い切り跳び、近くに生えていた木の枝に乗り移る。


「疾風迅雷!」


するとすぐに黒い手が伸びてきたので「疾風迅雷」を使用し隣の枝に乗り移りを繰り返した。枝を飛び乗るごとにその木と枝が手によって粉々に砕かれ、次々と木が倒されていく。


「あまりウロチョロしないでもらおうか」


すると前方に突如黒い手で作られた網のようなものが出現、いくら超高速移動中でも空中で方向転換することは不可能でありまんまとそのネットに引っかかってしまった。網で遮られた後そのまま地面に着地するとすぐさま悪魔の弟が飛びかかってくる。それを避けようとするも体が何故か自由に動かなかった。


「網の時に……俺の体に巻き付けていたのか!」


四肢を見てみると動かせまいと黒い手で縄のように縛り付けられている。そうして身動きが取れない間に弟の爪が俺の体を斬り裂いた。


「ぐぁああ!?」


綺麗に並んだ細長い傷が体にでき、服もボロボロに引き裂かれてしまう。血飛沫も上がり激痛が走る。

すると兄はそのまま縛り付けている手で俺を持ち上げそのまま地面に叩きつけてそれを何度も繰り返し衝突時の勢いを何度も味あわせてきた。激突するたびに重い衝撃と鈍い痛みが襲い掛かってくる。


「このっ……!」


数回それをやられた後、やっとのことで両足を地面に付けそのまま自分に縛りついている黒い手を逆にこちらに引き寄せる。無論向こうも抵抗してきたがそれにも負けず難なく引っ張ることができた。そうしてこちらに引っ張った兄を振り回し、後ろから不意打ちで切ろうとしてくる弟と衝突させ兄弟まとめて吹っ飛ばした。


「……聞いていた通りのパワーだな。怪字になってる俺を軽々持ち上げて投げるとは」


「兄貴退いてくれ!」


弟の方に乗っていた天使の兄はすぐにそこから降り弟を立たせた後、さっきから無数に伸ばしていた黒い手を自分の所まで長さを縮ませる。

俺は腹に受けた切り傷を堪えながら今さっきのコンビネーションを活かした兄弟の攻撃のことについて考えていた。こちらが1人だからという利用もあるのだろうが、この2人の息の良さは普通の怪字の時の「表裏一体」を超えていると言っても過言じゃない。そのコンビネーションは兄弟だから生まれた者だろうか、それとも兄弟だから鍛えたものかもしれない。

じゃあどうやって倒せば良いか、「表裏一体」は2匹で1匹であるがための弱点を持っている。それを突けばいいだろう。


「もう一回切り裂いてやるっ!!」


すると弟の方が翼でスピードを上げ瞬きの間に目前まで迫り爪を後ろに引いて思い切り引っかいてくる。それを読んでいた俺は予め「一触即発」を使用していた。


「だらぁあ!!プロンプトスマッシュ!!!」


そうしてカウンターの一撃をその腹部に思い切りブチ当て、その体に傷を入れた。すると兄の腹も同じような傷が何もしてないのにできた。


「ぐあがぁ!?」


同島弟は盛大に後ろへ吹っ飛ばされ気に何度も激突しながらようやく止まる。「表裏一体」は悪魔と天使、片方の怪字が傷つけば同じようにもう片方の怪字にも傷ができる、まさしく「表裏一体」の関係上なのだ。つまり片方を倒せばもう片方も倒れる。結果的にどちらかを倒せば済む話であった。


「まったく……だから落ち着けと言ってるだろ。こいつは1人で倒せる相手じゃない」


「じゃあよぉ、とっとと倒しちまおうぜ!手加減無しだ!!」


すると悪魔の弟の背中がどんどんひび割れていき、いつしか黒い両翼から天使のような4枚の翼に生え変わった。これも合宿の時に見たことある。途中からこいつらはまったく別物と言ってもいい程パワーアップしてくるのだ。

しかし不思議なのが背中にヒビができたのに何故天使の方にも傷ができないのか、そう思っていると天使の方にも動きがあった。確かこいつは黒い手が増加するんだっけ……そう思っていたが……


「なっ!?」


俺はこの天使の怪字をアイアンメイデンのようだと言い例えた。その例えは言い得て妙であり、何と縦に裂け目ができて左右に分かれて開いたではないか。

それなのに悪魔の方は変化が無い、もう片方が左右に裂けたというのに。まさかこれは怪我ではないのか……?

そうしてその天使像の中は黒く染まっており中心には黒いミイラのようなものが入ってある。あれが本体だろうか、前回はあれを見る前に倒したから初めてだった。

するとその黒いミイラから手が無数に生えて全てこっち目掛けてパンチをぶつけてくる。


「疾風怒濤、ゲイルインパクトォ!!」


負けじと俺も連続パンチを繰り出し奴の拳とのぶつかり合いが始まった。互いの拳が何度も衝突しまくる。パンチの速度は向こうの方が遅いがそれを数で補っている。向こうと比べて俺は2本の手しかないがこっちもそれを速さで補っていた。

奴との殴り合いに夢中になっていると、その隣にいた同島弟が4枚の翼を駆使しで俺の隣にまで一瞬で移動した。


(速っ――!)


防御しようとするも両手は今兄貴の方へ使っている。俺は何もできず再び悪魔の爪で切られそこから更に蹴り飛ばされてしまった。


「ぐあぁあっ!!!」


木に思い切り頭をぶつけた後、そのまま地面に倒れそうになるも手を付いて何とか膝を地面に付けないようにした。すると視界が少し赤く染まってきたので何事かと頭の方を手で触ると流血していることに気づく。


「さぁ見せてやる、俺たち兄弟の力をな」


そう言って更なる変貌を遂げた同島兄弟は、ボロボロになっている俺に躊躇なく攻撃してきた。

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