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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第六章:画竜点睛
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81話

「何だ今の音は!?」


「何があったぁ!?」


爆発音で目を覚ました刀真先輩と勇義さん、そして研究員である小笠原さんと所長の鶴歳所長がこの場へとやってきて、燃え盛る縁側を見て絶句した。そういう俺は腰が抜けている比野さんを庇いながらこの騒動の元凶であるその男と向き合っていた。


「こんな夜更けにすまない、ちょっとお前らに用があるんで少し大袈裟に起こさせてもらったよ」


「起こし方も起こす時間もマナーがなってないぞ、一体何の用だ!?」


何の用と言っても1つしかないだろう。自分たちが使っている装置の秘密を知った連中を口封じとして殺すため、まぁあれから殆ど情報は得られなかったがそんなの向こうには関係無い。

すると縁側を燃やしている猛火から飛んで来た火の粉で回りの草や植物、木など

どんどん火に包まれていく。これでは軽い山火事だ。火に完全に包囲される前に脱出しないといけない。


「勇義さん!こいつ誰か分かりますか!?」


「いや…………思い当たる顔じゃないな」


牛倉一馬と明石鏡一郎同様、この男も指名手配されている犯罪者じゃないかと睨んだが勇義さんも顔と名前も知らないらしい。まぁ単に知らないだけか覚えていないだけもかもしれない。

だからといって遠慮なくパネルの力で炎を操り、それを人に向けて放つなど正気の沙汰じゃない。ろくでもない人間であることは確かであった。


「牛倉のように俺は有名人じゃないんでね、何なら名乗って見せよう。俺の名前は『万丈 炎焔(ほむら)』!趣味は片っ端から家を燃やすことだ」


「放火魔…………どちらにしろ犯罪者ではないか!」


先輩の言う通り名前と顔が知られていないだけでやってることは牛倉一馬たちと変わっていない屑である。


「昔は火炎放射器でよく豪快に燃やしていたんだが…………最近新しい玩具を貰ってね」


そう言って万丈炎焔が見せてきたのは4枚のパネル、「気炎万丈」という四字熟語ができる組み合わせだ。しかも例の装置を4枚すべてに装着させていた。


気炎万丈…………意気込みや勢いが炎が燃え盛るように盛んであるという意味。気炎は炎が燃え上がるという意味、万丈は高いことを意味する。


人の姿で現れてきたのでてっきり敵のパネル使いだと思ったが、装置を付けられたパネルを持っているところを見るとこいつも特異怪字になると思われる。


「そう簡単に名乗っていいのか?俺は刑事、お前の顔も名前もすべて覚えたぞ!」


「くっく…………死人に口なしってことだよ!!」


すると万丈炎焔は再び火炎を作ってそれを比野さんと俺に向かって投球してきたが、縁側を燃やす炎の壁を跳び越えた刀真先輩が「伝家宝刀」で見事真っ二つに斬り落とした。そして奴に刀を向けて牽制する。


「あらら斬られちゃったか…………ならもう一度!」


懲りずにもう一度火球を作ろうとするも大きくなる前に勇義さんが狙撃で狙い撃ち、失敗に終わらせる。


「動くな!ゆっくりと持ってるパネルを地面に置いて両手を上げろ!」


「…………刑事ってのは嘘じゃないらしいな」


勇義さんが拳銃を向けて降伏するように促したが、万丈炎焔にその素振りは見られず、銃を向けられても平然としていた。正直言って銃なんかじゃ脅しにはならないだろう、現に今撃った弾丸は奴の火球を見事打ち消したが同時に一瞬で溶かされているからだ。


「目的は…………俺たちの抹殺だな?」


「その通り!ついでに後々厄介になるだろうここの研究員も消しておけってさ!」


すると奴はまたもや火炎を作る。今度は撃ち抜かれないよう即座に作り、それを放り投げる。狙いは俺たちではなく……()()()()()()()

火球は穴の入り口を突き抜け、地下に続く通路を落ちていく。そしてしばらくすると下で大爆発が起きる。


「しまった!研究所が!」


今の所この場に全員がいるため研究所に人はいないが、あの中にはまだ研究中である「画竜点睛」と「為虎添翼」がある。パネルは燃えてなくなることはないが早く回収しないと面倒なことになる。

牛倉一馬もパネルを集めている、つまりあの2つの四字熟語もそのターゲットに入っているかもしれないのだ。得体の知れない奴らに、これ以上パネルを奪われた堪るか!

そう言って俺は昼間貰ったグローブを早速付け、まったく躊躇いも無くその穴へと飛び込んでいった。


「発彦!?」


「比野さんたちとそいつは頼みます!」


俺は熱い空気が充満している狭い通路をどんどん降り、研究所の入り口に到達、そして扉を開けようとするもさっきの火球による爆発で崩落、内部も火に包まれていた。

持っていたハンカチを縛ってマスクにし、そのままパネルが置いてあった部屋へと急ぐ。




今日は疲れて熟睡していたところ、急に爆発音が聞こえ、刑事の奴と一緒に縁側へ来て見ればなんと火に包まれているではないか。

そして庭には倒れている比野さんとそれを庇っている発彦、それに加え見覚えの無い顔の男がいた。

聞けばやはり牛倉一馬と同じ仲間で、俺たちの命を狙ってきた刺客だった。パネルの力で炎を駆使し私たちに襲い掛かってきた。

すると万丈炎焔と名乗るその男は事もあろうに研究所に火球を落として火を放つ。そして発彦は中にあるパネルを回収するためだろう、勇敢にも通路に入った。


「発彦!?」


「比野さんたちとそいつは頼みます!」


流石にあの中に飛び込むのはかなりの勇気がいるだろう、改めてあいつの勇敢さと無謀さには恐れ入る。

そして任されたのなら仕方ない、さっき火球を斬った「伝家宝刀」を構えなおす。すると刑事も拳銃を構えながら庭に出てきた。


「比野さんたちは安全な所まで!」


「いや…………私も戦います!」


すると比野さんは抱えていた例の「比翼連理」の式神を巨大化させ、俺たちの隣に並ばせる。こうして怪字に仲間になると違和感があるが少し頼もしさもあった。しかし戦闘にまで彼女たちを巻き込ませるわけにもいかない。


「いや、ここは私たちに任せて…………!」


「ここは私たちの研究所です。他の人に任せるなんてできません!ウヨちゃん、サヨクちゃん、辛いだろうけどもう少し頑張って!」


そう言って2匹の式神を励ますと、式神たちもそれに答えるかのように鳴きながら奴を威嚇した。見ると所々に焦げ跡がある、私たちがここに来るまでに万丈炎焔にやられたのだろうか。

こうして2人に加え2匹の式神と共に、炎を操る奴に立ち向かう。後ろでは小笠原さんが鶴歳所長を後ろに抱えていた。


「すまないが僕は所長と一緒に避難させてもらう。健闘を祈ろう!」


「はい!早く逃げてください!」


これでもう心配することは無くなった。強いて言えば式神を操るためにこの場に残っている比野さんが心配だったが、そこは私たちがフォローしよう。恐らく比野さん自身は戦えないだろう。


「複数で来るか…………だったら全員消し炭にしてやるよ!」


そう言って万丈炎焔はパネルの力で両手を燃やす。そしてそのまま地面に叩きつけると炎が一気に広がり熱くなった空気が熱風として全身に襲い掛かる。

そのせいで目を閉じてしまい、開けた瞬間炎を纏った奴が目前まで跳びかかってきていた。


「くっ!」


私と刑事は左右に分かれて奴から離れ、式神の方は翼で空を飛んで上に回避していた。炎を纏っているということは今の奴は火だるま状態。それにあんなに燃えている筈なのに熱そうな素振りも見せず着ている服にも引火はしていない。炎が体の一部になっているようだった。


「おい、特異怪字にはならないのか?」


「俺あれあんまり使わないようにしてんだよ、目線の高さも感覚も違うから酔いやすくてね」


特異怪字に変身させようと唆すともいえる今の挑発、この場合怪字の体より人間の姿の方で戦ってくれた方がこちらも断然楽だが、私はどっちかというとさっさと特異怪字になってほしかった。

何故なら、この「伝家宝刀」は怪字に向かって振っていた物、特異怪字にも斬りかかったことはあるがいざ人の姿で対面すると斬りづらくなってしまう。

相手が極悪人なのは分かっている、しかし誇り高き我が宝塚家から代々受け継がれている家宝で、人を斬っていいのか?いやそれ以前に私は人なんか斬ったことは無い。


(…………私もまだ未熟だな)


そう考えていると刀を握る手が緩くなってしまう、合宿の際虎鉄さんに向けたことはあったがあれは「銅頭鉄額」の力で硬化されたもの刀は通らなかったし、何よりあれは特訓だった。

これは()()()()()()、私が本気で刀を振るえば万丈炎焔を死ぬし、かといって本気でやらなければこっちが死ぬ。いくら相手がどれ程悪人だろうが人殺しは人殺しだ。


「安心しろ宝塚、この場合は正当防衛だ」


すると私の内心を読み取ったのか刑事がそんなことを言ってきた。やはり職業柄なのだろう、真剣に万丈炎焔と対面している。その点ではこいつを羨ましく思った。

…………だからといって殺すわけにもいかない、こいつには吐けるだけの情報を吐いてもらわないと困る。なので攻撃する時はなるべく峰の部分で打たなければ。

そうこうしているうちに、万丈炎焔が炎を更に燃え上がらせこちらに襲い掛かってきた。


「行くぞおらぁ!!」


手で火球を作り続けできた分からどんどんこちらに投げつけてくる。私たちはそれらを避けたり刀で斬ったりしながら奴との距離をどんどん縮め、その懐に潜り込もうとする。

しかし奴が腕を払うと熱風の突風が起き、こちらを近づけまいと空気を熱していた。


「ぐっ…………!!」


吸えば喉が焼けると思ってしまう程凄まじい高温、長時間浴びていれば肌も火傷を負うだろう。しかしそんな熱風にも怯えず万丈炎焔に突っ込む者がいた。


「そこよ!2匹とも!」


翼で空を舞い上空から「比翼連理」の式神が跳びかかり、その拳を奴に振り落とした。避けられてしまったが式神は攻撃の手を止めず、どんどん奴を攻めていった。

怪字だから熱さや炎に恐怖が無いのだろうか?しかし式神は奴の纏う炎も恐れずに攻撃を続けていく。すると万丈炎焔は地面を思い切り叩き自信と式神の間に火の壁を形成、それにより距離を置いた。式神の連続攻撃から逃れるためだろう、しかしお前の相手はそいつらだけじゃない。


「とりゃああ!!」


ここで私と刑事が特攻、私が先行して炎の壁を断ち切り真正面から奴に向かっていった。そして後ろにいた刑事が十手で突こうとするが、万丈炎焔は両手で作った火球を足元に放り投げて爆発、その爆風で私たち2人を吹っ飛ばし自分もそれに乗って後ろへ逃げていく。

その次に迫って来た式神に対して火球で迎え撃つが2匹に分かれて避けられる。ウヨク、サヨクに2匹状態になった式神たちは左右から挟み撃ちの形で万丈炎焔を追い詰めようとした。しかし奴は自分の周囲爆発させ煙を撒き散らし、式神の視界を遮った隙にそこから逃げる。

ただ炎を操るだけじゃない、そこから生じる爆風も完全に駆使していた。


「派手にいこうじゃないか!炎の扱いで俺の右に出る奴はいねぇ!!」


すると奴は更に炎を滾らせ、次々と周囲を火の海にしていく。そしてどこから取り出したのかガスマスクを装着して顔を隠す。その姿はまさしく放火魔であり、火の化身と化していた。


(くっ…………これじゃあ自由に動けない!)


奴が使っている「気炎万丈」は炎に対する耐性も付けるのか万丈炎焔が火の中を涼しい顔で闊歩するのに対し、私たちは火の手を恐れて思うように動けずにいた。つまり火に囲まれてしまったのだ。それに加え煙も多く出てる。下手に動いたりしたらどれ程吸ってしまうか分からない。

いつのまにかこの庭は、奴だけが自由に動けるというこちらが圧倒的な不利な場所になっていた。


「最初は…………お前だ宝塚刀真ぁ!!」


万丈炎焔は全身を炎で包みこちらに突撃してくる。あまり振るいたくはなかったが仕方ない、向かってくる奴を峰打ちしようとするも…………


「ぐわぁ!?」


その両腕を思い切り振り回した瞬間、真正面から凄まじい熱気の突風が生じ私の肌を襲ってくる。あまりの熱さに前を隠さずにはいられず思わず両腕を顔の前に出してしまった。

その瞬間を狙われ、奴に目前まで接近されることを許してしまう。そして火炎の拳で殴られると思ったその時…………


「はぁあ!!」


横から凄まじい速さで何かが飛び出してきて万丈炎焔に直撃、その勢いで態勢を大きく崩しそのまま倒れた。

奴にぶつかったもの、それは「疾風迅雷」によって超スピード状態になった発彦だった。汗をだらだらと流し息が荒かったが見たところに傷痕は火傷は見られない、そしてその手には例の式神のパネル8枚、無事回収できたようだ。ならばここにいる必要はもう無い。


「剣山刀樹!!」


私は「剣山刀樹」で倒れている奴の周囲に何本もの刀を生やしその動きをほぼ封じる。これで逃走時間が大分稼げたはずだ。

その間に私が刀で炎を掻き分け文字通り道を切り開き、まだこの場に残っている人と合流する。「比翼連理」も役目を終えて休むのか、小さくなって比野さんの肩に戻る。


「お疲れ様、2匹とも」


そしてそれを褒めるように比野さんは人差し指で式神を撫でまくる。


「早く!炎が完全に燃え広がる前に逃げましょう!」


私たちはそうして小笠原さんと鶴歳所長と同じ逃げ道を使い、その場を後にする。残ったのは万丈炎焔とボウボウと燃え続ける火のみ。


「おいおい、これいつになったら消えるんだ?」


奴は私が「剣山刀樹」で作った刀の檻から逃げられない状態になっている。間を潜れる余韻も作っていない、剣山刀樹で作った無数の刀がどれぐらい経てば消えるか試したことはないが、しばらくその場から動けないだろう。


「しょうがねぇ…………お前ら行ってこい!」


そう言って奴が懐から出したのは「兵」と書かれた大量のパネル、それを剣山刀樹の檻の向こう側に放り投げ、外側に沢山の怪字兵を出現させる。明石鏡一郎も使っていた人造パネルだ。

怪字兵たちは生まれた瞬間、私たちの後を追って一斉に走り去っていく。

こうして平和だった研究所は、たったの数分で地獄のような燃え盛る山となってしまった。

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