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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第六章:画竜点睛
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80話

その後すぐに装置のことについて分かったことを天空さんたちに伝えようと帰ろうとしたが、小笠原さんが「疲れていると思うから一泊したらどうだい?」と泊まることを許可してくれたのでその言葉に甘えることにした。

田舎の美味しいご飯を研究員の人たちと先輩たちと一緒に食べ、お風呂はなんと五右衛門風呂に入った。一度は入ってみたいと思ったことがあったがまさかこんな所で入ることになろうとは。

そして9時頃、俺は電話を借りて神社へとかける。するとすぐに天空さんが出てくれて今回分かった事を伝えた。


『そうか……何かわかるかもしれないと思っていたが、大した情報は手に入らなかったか』


「はい、改めて奴らの技術力の高さが分かっただけでした」


もしかしたらあの装置を解体してそこから奴らの正体やアジトの場所のヒントが分かるかもしれないと期待していたが、そう上手くいかずそこまでの情報ではなかった。

パネルを完全に抑制する装置、もしそれが俺ら側の手にあって使えたのならどんなに便利であろうか。そしてそれがどんなに素晴らしい発明だろうか。俺はそればっかり考えていた。

使い道によっては多くの人の命を救えるかもしれないというのに、奴らは悪用し平和を脅かしている。それがただただ許せない。


「あ、そうだ。グローブの件、ありがとうございました」


本当は次会った時に話そうと思っていたがこの際だから今礼を言っておこう。天空さんの依頼で作ってくれた俺専用の武器であるグローブ、攻撃性よりも防御性に特化されて作られたそれは、大変ありがたいものだった。


『いや、喜んでくれるなら何よりだ』


「はい、本当にありがたいです!」


これで俺はもっと強くなれる。丁度強くなりたいと思っていたのは、この前の牛倉一馬への敗北を未だに気にしていたのかもしれない。

あの時俺たちは惨敗した。何とか逃げ切れたがもし次奴と出くわせば命が助かるなんていうラッキーは訪れないかもしれないのだ。確実にあいつを倒せる力、俺はそれが欲しかった。


『……言っておくが発彦、私はお前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぞ』


「――えっ?」


『特異怪字の一件から、お前はまた自分の命も顧みず無茶をするようになっている。普段頑張っているご褒美の意味もあるが、作らせた大半の理由はお前に怪我を負ってほしくないからだ』


「天空さん……」


「表裏一体」の怪字の時、俺は火傷の左手でスマッシュを連打した結果もう左手が使えないかもしれない状況になった。結果としては治ったから良いけど、それが天空さんとしてはどれぐらいの不安か想像もつかない。

自分でも言うのもなんだが俺が天空さんを実の父親のように慕っていることと同じように、天空さんもまた俺を本当の息子のように可愛がってくれている。言わば自分の子供が大怪我を負い向こう見ず無鉄砲に怪物と立ち向かっているのだ。そりゃ不安にもなるに決まっている。

……俺は、俺のことを心配してくれている人たちがいることをすっかり忘れていた。


「……はい、分かっています」


涙声になっている返事を何とか誤魔化し、俺は天空さんと話を続けた。聞くにここの所長である鶴歳所長とは面会があるらしい。この人の人間関係はどこまでも広がっているなぁと改めて感じた。


すると刀真先輩が俺が電話を使い終わるの待っていたのでなるべく簡単に通話を終わらせた。先輩は「催促するようで悪かった」と謝った後彼も電話を使い始める。恐らく父親である宝塚さんに連絡をするのだろう。あっちは本当の親子関係であるため父親も子供も互いのことが心配に違いない。まぁ俺と天空さんとの親子愛は誰にも負ける気がしないけど。

その後寝室に戻り、夜遅くまで先輩と勇義さんとトランプをして遊んだ。たまにはこういうアナログゲームも悪くない。

しかしある程度の予想はしてたが勇義さんはそれはもうババ抜きが弱くて、わざとかと思う程ババを抜き、それを表情に出す。その後の七並べもダウトも他の遊びも全て勇義さんがボロ負けした。

その結果を嘲笑っていた刀真先輩の顔に投げられた枕がヒット、そこから枕投げへと移行した。


まるで修学旅行のようなこの雰囲気になり、童心に帰ったつもりで大はしゃぎする。ちなみに俺の場合力が強すぎるので枕を投げる際手加減するよう強く言われる。言われなくとも分かってる。

こうして深夜になるまでそれは続き、疲れ切ったところですぐに眠りについた。しかし眠る前にトイレに行くのを忘れてしまったため、数時間後に目が覚めてしまいそのままトイレに向かった。

その帰り縁側を通っていると、そこに比野さんが座っていたので驚かせないよう声をソッとかける。


「比野さん、何してるんですか?」


「あ、触渡様。ウヨクちゃんとサヨクちゃんの帰りが遅いから待っているんです。とっくのとうに私の元へ帰っている時間なのに……」


「じゃあ俺も待ちます。目が覚めちゃったので」


こうして再び眠くなるまで比野さんと過ごすことにした。大人の女性と深夜に2人っきりというのは何だか緊張してしまうが俺には心に決めた人がいることを何度も脳内で言い聞かせて宥めた。

街灯も室内の光も無い中、月光が庭を青白く照らしている。そこにそよ風が葉っぱを撫でるも加え、なんとも落ち着ける空間になった。


「あの2匹たちのこと、本当に好きなんですね!」


「はい!!我が子のように愛しています!!」


「ああ、そうですか……」


これ以上そのことについて聞くとまた長い話になることを察し、その前に何とか会話を終わらせる。言わばこの人は母性が人より多いのだろう、でないと普通怪字と同じような存在にこうまでして心を開かない。

いや、例え式神と言っても可愛いものは可愛いので俺も似たような相棒ができたらこんな風になるのかなぁ~と、やっぱあり得ないかと色んな事を考えていた。


「そういえば比野さんは何でここの研究員になったんですか?」


我が子自慢はこれ以上聞きたくなかったが、かといって会話を終わらせるのも失礼だ。なのでふとそういう質問をしてみた。比野さんのような優しい人が普通に暮らしていてどうして呪いのパネルや怪字という世界に入ってきたのか、それが何だか気になってきたのだ。


「……理由は、小笠原さんです」


「小笠原さん?」


「実は彼とは幼馴染で……幼い頃からいつも一緒にいたんです。それで……あの……本当に不純な理由なんですが……」


顔を赤らめモジモジし言いにくそうにしている比野さんを見て、最初は何のことやらと首をかしげたが、それが()()()()()()であることに気づくのにそう時間は掛からなかった。


「もしかして……小笠原さんが好きなんですか?」


「……はい、このことは内緒にしてください」


蚊の鳴くような声で彼女はそう返事をし、大変恥ずかしそうな顔を俺に見せないよう俯いていた。


「触渡様や皆さまは人を守るという立派な使命で戦っていらっしゃるのに……私ときたら好きな人がいる場所で働きたいなんていう理由で恥ずかしいです……」


「いやいや、別に良いと思いますよ。俺だって好きな人がいますけど……その人を含めた沢山の人を守りたいから戦っています。好きな人の役に立ちたいという理由も立派だと思います」


そう、そんな恋をするだけで不純な理由と決めつけられるのならそれは間違っている。誰かを守りたいという気持ち、誰も失いたくないという考え、人は様々な理由を持って何かをしている。ならば好きだから、その人に恋をしてるからというのも立派な理由の1つに入る。

俺だって風成さんの一言でやる気になったり励まされたりしている。別に不純でもなんでもないのだ。


「……そう言ってくれるとありがたいです。触渡様ってとてもいい人ですよね」


「そうですか?」


「はい、きっとその恋、成功しますよ!」


「ちょっとやめてくださいよもう~!」


笑いながら彼女とからかい合い、一種の恋愛トークとも呼べるもので盛り上がる。眠気を取り戻すことなんかすっかり忘れて彼女との会話に夢中になった。それからどれぐらいの時間が経っただろうか、しばらく話していると森の方から何かがこちらに飛んで来た。


「あ、帰ってきましたね比翼連理」


「もう!心配させて……ちゃんとお説教しなきゃ」


(この人にできるかなそんなこと……)


その母性故叱る時も叱れないような気がするがまぁいい。比野さんが待っていた比翼連理の2匹も帰ってきたことだし俺もそろそろ眠りなおすか。ここまで遅く起きていれば明日の車の中で寝ちゃうだろうなぁ。そろそろ眠くなった頃だし寝室に戻ろうとしたが、戻ってきた比翼連理の様子を見て一気に目が覚めてしまう。


「ウヨクちゃんサヨクちゃん!?」


煙を出し体中の毛が所々黒く焦げている。その飛び方もノロノロしてゆっくりで、そして真っ直ぐ飛べずにいた。

どう見たってボロボロの状態である。状況を見るに何者かに襲われたと見て間違いないだろう。この2匹は戦闘の際は普通の怪字の大きさになって戦うはず、力だってスピードだってあるのにここまで満身創痍にできるとなるとかなりの強さだ。


「どうしたの!?こんな酷い怪我……!」


比野さんは自分の元へ飛んでくる2匹の式神を自分の方から動いて出迎え、慰めるかのように胸で包み込む。怯えている様子には見られないが大変疲弊しきっている状態だった。

比翼連理はこの森を侵入者から守るパトロール要員、そんな2匹がここまでボロボロにされているということはつまり……


「すまんすまん、どうやっても研究所(ここ)に辿り着けなかったからそいつらに案内を頼んだんだ」


すると2匹が来た方向と同じところから1人の男が姿を現す。大柄な男で赤茶色の髪が逆立っている。服装もラフなものでとてもじゃないが森に迷い込んだ人には思えない。それに意図的にここに来たことを自分で説明していた。


「だけどこうやって見つけられたことだし……さっさと潰すとしますかねぇ!!」


そう言って男が自分の右手を開いて後ろに引くと、そこからバスケットボールぐらいの大きさの火球が一瞬でできる。空気を燃やし辺りを照らすその炎を見て俺は瞬時に戦闘態勢に入った。


「比野さん危ない!!」


男はその火球を遠慮なく比野さんの方に投げつけてくる。それが当たる前に俺が彼女を押し出して何とか守り切ったが、結果火球は家に直撃し大爆発を起こす。縁側が一瞬で火の海と化した。

もし人に当たっていれば一瞬で燃え尽きて炭になっていただろう。こうも簡単に人を殺めようとする連中なんて1つしか心当たりが無い。

こちらを襲ってくるのはある程度予想していたがまさか研究所ごと襲撃してくるとは思ってもいなかった。このままだと比野さんが危険だ。


「糞っ!時間と場所を考えろよ!」


そう愚痴を零しながら俺は腰を下ろして燃えている家をただ見ている比野さんを庇うように前へ立ち、その男へと対峙する。

こうしてこのミッションは最後まで平和とはいかず、最後の場面で例の組織が刺客を放ってきた。

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