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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第六章:画竜点睛
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75話

俺は今、車内で膝に顎を乗せて窓から外の景色をボッーと見ていた。次々と景色が右から左へと移り変わる中、この車を運転している勇義さんは助手席に座っている刀真先輩とずっと口喧嘩していた。

延々と続いているその喧嘩に少しうんざりしながら俺は出発時の出来事を思い返していた。

何でも目的地であるその研究所は2つ隣の県にあるらしいので朝早く出発することになっていた。

神社の石階段の前では車が既に駐車しており、勇義さんが運転するらしい。ちなみにこの車は宝塚家の物だ。それに対し不満があるのか刀真先輩はずっと父親に抗議している。


「やっぱりやめましょうよ父上!ただでさえこいつに運転を任せるのも恐ろしいのに車を貸すなんて正気じゃないですよ!」


「まだ言ってるのか、あの刑事さんなら免許も持ってるし大丈夫だろう」


「逆に何で免許取れたのか不思議でたまりません!」


そう言って先輩は頑なに勇義さんが運転する車に乗ることを拒んでいた。俺も先輩程じゃないが少々不安がある。失礼だがあの人は少しドジだから何が起きるか分かったもんじゃない。


「おい刑事、最初に言っておくがアクセルとブレーキを踏み間違えるなよ」


「ふざけんな!どれだけ俺の運転スキルが信用ならねぇんだ!」


「日頃の行いを考えろ」


まぁかと言って俺たちが運転できるはずもなく、天空さんや宝塚さんは俺たちがいなくなったこの町を守るために今回は残る。そうなれば消去法的に勇義さんしか残っていないのだ。

まぁ事故るなんてことはないだろう、ともしかしたら甘い判断になるかもしれない油断をし、長時間の車内で疲れないよう今から体を動かし始める。すると天空さんが話しかけてきた。


「じゃ、気を付けていけよ発彦」


「はい!……ところで昨日の『アレ』は何だったんですか?」


実は昨晩、天空さんが俺の両手のサイズを急に測ってきたのだ。別に断る理由も無いので大人しくそれに従ったが、あの意味が今更ながら気になりだす。


「向こうについてのお楽しみだ。日頃頑張っているお前のプレゼントだと思っていい」


「……プレゼント?」


兎にも角にもこうして俺たち一行は出発し、英姿町を後にする。ちなみに誰が助手席に座るか揉め、ジャンケンの結果刀真先輩になったのだが、悪い予感はすぐに的中し、走り出してからおよそ数分でもう喧嘩が始まった。


「貴様もう少し徐行しろ!」


「免許も持ってないガキが何を言うか!」


走り出して早々雲行きが怪しくなったことを感じたが、まぁ大したこともなく順調に進んでいる。

ちなみに一番心配された道を間違えることはカーナビで解決されている。もしくはそのカーナビの指示も間違えることも想定されたがそれは刀真先輩が喧嘩混じりで注意してくれるだろう。

高速道路に入った頃、俺は後ろの座席でゲームをしていたがそのせいで少し酔ってしまい、今こうして外の景色を見て気分を戻しているといった状況だ。

出発してから既に3時間は経過している。


「そろそろ休憩するか」


そう言って一度パーキングエリアに寄り、少しだけ休憩をし始める。俺はその際トイレに行き、用を足した。

するとトイレから出て洗った手を拭こうとハンカチを取り出す際に一緒に入れていた1枚のパネルを落としてしまう。


「あ、やべ」


そして運が悪いことにそのパネルは近くにいた白髪染めの女性の足元に落ちてしまう。やばい、何も知らない一般人がパネルなんか見たら「何だこれは」と興味を持ってしまうかもしれない。

女性はそのパネルを見て……不思議がることもなく、ただ()()()()()を一瞬だけ見せた。


(……?)


その顔を少しだけ不思議に思ったが、まぁ気にする必要も無いだろう。もしかしたら虫か何かと見間違えたのかもしれない。


「すいません、俺のです!」


俺は謝りながらささっと落としたパネルを拾い上げ、そのままその場を後にする。

少しパネルの扱いを注意しなければ、もしあの女性が例の組織の一員だったら今頃戦闘が起きていてもおかしくはない。そう考えていると俺はハッとし、辺りを見渡し始める。


(そうか……奴らの仲間がここにいてもおかしくないんだ)


特異怪字とは人間が怪字に変身した姿、つまり当然だけど普段は人間の姿なのだ。だからいつどこで奴らが襲ってくるかも分からないし、誰がその仲間だと区別もできない。

おまけに今回のミッションはそんな奴らが使っていた装置を研究所に届けるというもの、情報の漏洩を嫌がる奴らがもっとも阻止しだがることだろう。

だからいつその手先が来るか分からないし、もしかしたら既に尾行なんかをされてる可能性もあった。


(……早く戻ろう)


俺は少しだけ怖くなり、早歩きで車へと戻る。さっきまで刀真先輩と勇義さんの喧嘩という日常的光景を間近で見ていた為少しだけのんびりして注意力が散漫になっていたかもしれない。

これはもしかしたら奴らのことが何かわかるかもしれない程重要な任務、俺は改めて気を引き締めた。

もしここで奴らと戦うことになったら、ここにいる大勢の人たちも巻き込むことになる。そう思って後ろを振り返ると……


「……のわっ!」


先ほどの女性と目が合ってしまう。白くて髪の長い人で、綺麗な顔立ちをしている。まるで自分たちとは生きてる世界が違うと思ってしまう程印象的だったのでここから見ても目立っている。

問題は、その目が俺の目と合ってしまったことだ。単なる偶然かもしれないが、俺は何だか怖くなり、足を速くして急いで車へと戻った。

なんだろう、遠くにいるはずなのに間近から見られているような視線は。俺はこの視線に耐えられない。

そして無意識のうち全速力で車に戻り、慌てた様子で中に入った。車内で待っていた2人はまた喧嘩をしていたが俺の真っ青な表情に驚き止める。

きっと気のせいだろう、そう思って俺は今さっき感じたあの視線を忘れるべく、深い眠りについた。





「……ん」


目が覚めた時には既に高速道路を出ており、何だか人気の少ない田舎のような雰囲気に満ちた土地を走っていた。

見渡す限りの畑、たまに見える一軒家、時折確認される住人たちは全員高齢だ。これだけでもう遠くまで来たという自覚ができる。


「おい刑事……本当にこの道であってるのか?」


「カーナビが案内してるんだから当たり前だろ……少し不安だが」


流石に見知らぬ土地を走っているせいか普段の2人の喧嘩も今だけは弱々しくなっている。道と言ってもさっきから1本道をずっと走っているのでもし間違っているとしたら結構前に戻る必要がある。それに加え周囲に転回するスペースが見当たらないので例え間違っていたとしても前に進まなければならない。

言ってしまえば少し不安なのだ、何しろ全員が行ったことのない場所であり、唯一頼れるのは運転している勇義さんじゃなくてカーナビ。寧ろ勇義さんは不安の対象でもある。


「天空さんによれば……目的地は山らしくてな、まずはその麓にある駐車場に辿り着けと言うんだが……」


「……山って、どの山ですか?」


といっても四方八方山に囲まれていてどれがその山なのか区別がつかない。研究所というぐらいだから目立つかと思っていたが、パネルの存在は世間には知られていない物なのである程度カモフラージュされてもおかしくはないと自分で納得する。

兎に角にも今の俺たちは前進する他なく、多少心残りはあったがカーナビが支持する道を走っていく。

数分すればもう辺りは緑が生い茂っている地になり、少なかった人気もゼロになり家すら見えなくなった。

ますます本当にこの道で会っているかどうか怪しくなりカーナビを疑い始めたところ、目の前に駐車場が見えてきた。

駐車場といっても数台停められるだけの狭い空間で、そこだけ舗装がされている。苔が生えているのでだいぶ前に作られたのだろう。


「着いたぞ、ここだ」


その後車を駐車し、俺たち3人は外に出て辺りを見渡す。天空さんがここに行けと言ったらしいが周りには研究所への道どころか小屋すら見当たらない。ただ緑一色の大自然が広がるだけだった。


「おい刑事……もう一回聞くぞ、本当にあってるのか?」


「……多分」


するとさっきまで平和だったのに、研究所への入り口が見つからない苛立ちから2人が喧嘩を再開した。


「やはり貴様に運転を任したのは間違いだったようだなぁ!!」


「だったらお前が運転してみろやぁ!!できるもんならなぁ!!」


流石に同じ空間の近い距離で数時間聞いているとそろそろ慣れてきた。喧嘩をしている2人を放っておき、俺は1人で黙々と何かないかと探索を始める。

さっきも言った通り研究所は世間から隠れるためにある程度のカモフラージュが施されていると思われる。だからパネル使いやその世界の人間にしか分からないような案内や標識がきっとあるかもしれない。


(普段の戦いと謎解きゲームで鍛えた洞察力を見せてやる……!)


しかし数十分経ったが一向にそれらしき物は見つからない。先輩たちも喧嘩している場合じゃないと気づいたのか探している途中だ。

3人で探しても全然見つからない、もしかしたら本当に勇義さんが道を間違えたのか?という考えで頭が一杯になりそうだった。

いや、この場合真の犯人はカーナビか、探しているうちに思考がおかしな方向へと向かっているのに俺は気づかない。


「本当にどこだまったく――ん?」


すると俺のすぐ横にある森の中からガサガサという何かが草の中を進んでいく男がする。小動物かな?最初はそう思ったがもしかしたら、あまりにも迷いすぎて呆れた研究所の人が迎えに来てくれたのかもしれない。

しかし次の瞬間俺が見たのは野兎や小鳥の可愛らしい顔や人間の顔ではなく、()()()()()()()


「――ッ!!」


咄嗟に両腕を前に出してガード、重い衝撃に勢いよく激突され後ろに押された。その時の音で他の2人も気づき、俺の横に並んでその拳の持ち主と対峙した。


「……怪字!」


そう、突如として俺を攻撃してきたのは1匹の怪字、見た目は鳥の顔に人間のような体を持っている。

瞬間刀真先輩は刀を出し、勇義さんは十手を構えた。そういう俺はあることを疑問に思っていた。


(「一葉知秋」が反応しない……何でだ!?)


怪字の出現と居場所を教えてくれる「一葉知秋」の組み合わせのパネル、しかしその怪字が目の前にいるのに光る様子は見せていない、無反応の状態だった。


(そんなことより、今はこいつをどうにかしないと――!)


もしかしたらこいつは例の組織の仲間である特異怪字かもしれない。今回の旅は平和にはいかないだろうと思ってたが、まさかこんなに早く戦う羽目になるとは思ってもいなかった。

俺たちは旅行気分だった気持ちを褌を占め直すが如く気張り、戦闘態勢に入った――!

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